59.なんだ、そんなことか
一人の青年が、上半身裸で、鍬をふるっている。
畝を一列分立ち上げ、額に光る汗を拭った。
そこへ領軍の兵士が報告にやって来る。
「カイル様! 主要な街路ならびに水路の建造を終了いたしました! これから、各区画ごとの整備を行います!」
「報告ありがとう、スミス大尉。残りもよろしく頼むよ!」
「は! かしこまりました!」
今、マロネ村では、道路や水道などのインフラ整備が行われている。
領軍の兵士たちは、ライフラインを構築するノウハウがあり、分隊ごとに区間整理や井戸の掘削などが行われている。
村の中心部は、これまでより少し南側にずれ、ボルドー辺境伯の第二邸宅や、各ギルドの分室が作られた。
聖堂なども作られ、マロネ村は、今や辺境伯領第二の都市になりつつあった。
***
「ねえ、ジェイク。本当にカイルと旅に出るの?」
仕分けした鉱石を拾いながら、ユリアが尋ねる。
「う~ん。まだ、わからないよ」
「ジェイク君にしては、意外な答えだな!」
「意外……ですか?」
「ああ。これまでは、何をするにしても、自分で決めて、すぐに行動に移していたような感じだが……」
確かにミリアさんの言うとおりかもしれない。
「そうですね。自分にとって必要だと思うことをやってきたからだと思うんですよ。でも、今回は……なんとなく重たいなって感じるんですよね」
「それは、そうだろう。世界を救うという大きな目的があるからな……でも、だからと言って、ジェイク君が責任を背負う必要はあるまい。今までどおりの考え方でいいんじゃないか?」
「あ、あたしは今までどおりのジェイクがいい!」
あ、たぶん、ミリアさんの意図と、ユリアの言っている意味は、違うと思う……。
僕がカイルに誘われたことは、マロネ村の人たちはもちろん、エリスさんも、ワトソンさんも、マゴローさんも、みんな知っている。
マロネ村の皆さんは、洗礼を受ける前の僕が、冒険者になりたいと思っていたことを知っているので、「頑張って行ってらっしゃい。いつでも戻って来ていいからね」と手放しで喜んでくれた。
エリスさんたちは、良いとも悪いとも、何も言わない。
だけど、僕自身は、まだまだ皆さんとの約束を果たせていないことが、たまらなく辛い。
皆さんから「やるべきことを終わらせてしまえ!」と言われても仕方ないと思っている。
そのままの気持ちを、二人に伝える。
「ジェイク君らしいな……」
「なんだ! ジェイクはそんなことで悩んでたのか?!」
カイルが驚きの声をあげる。
麦わら帽子を被り、赤い作業着に、長いタオルを腰に巻き、七分丈のズボンを履いており、全く≪勇者≫には見えない格好だ。
「そんなことって……一度冒険に出たら、何ヵ月も戻ってこれなくなるだろう?」
ミリアさんもユリアも頷く。
二人は迷宮に入っても、カリナが風呂に入りたいと泣き叫ぶので、すぐに領都やマロネ村に戻ってくるのだが……
「すぐに戻ってこられるさ!」
「どうやって?」
カイルが黙って僕の腕を掴む。
「zoomz!」
カイルが叫ぶと、身体がフワッと浮くような感覚になり、次の瞬間には、領都の入口に立っていた。
突然現れたカイルを見て、門番たちが驚く。
「か、カイル様!」
「お、おかえりなさいませ!」
「やあ!」
にこやかに挨拶をするカイル。
「zoomz!」
再び身体が浮かび上がったかと思うと、初めて見る場所に着いた。
「カイル、ここはどこ?」
「ここは王都だ。初めてかい? それなら、ちょっと見てみようか?」
カイルと一緒に王都に入るが、誰もカイルのことに気づかない。
あまりにもラフな格好をしているからだろうが。
「安いよ! 安いよ! 王都名物の串焼きだよ! 食べたら、ヤバいよ! ヤバいよ!」
露天のおじさんが元気よく呼び込みをしている。
「それを4本くれ」
「へい、まいど!」
おじさんが一本ずつ手渡す。
「これ、ジェイクが開発した、ワイルドボアのオオバ巻きだろ? 王都名物とか言ってるけど?」
「そ、そうかも……」
確か、バイロンも言っていた気がする。
「じゃあ、お土産を持って戻ろうか」
「あ、ああ」
「zoomz!」
ミリアさんたちがいる場所へ戻ってきた。
「い、今、ふ、二人とも消えたよ?」
ユリアが恐る恐る尋ねる。
「一度訪問した場所には、何度でも行ける魔法だ」
カイルは事も無げに話す。
「どちらへいらっしゃったのですか?」
ミリアさんも目を見開いて、僕に向かって尋ねた。
「え? あの……領都と、王都まで行ってきました……」
二人に、串焼きを差し出す。
「「え? えぇぇぇっ??」」
「そんなに便利な魔法があるなら、カリナに教えてほしい!」
「魔法は、教えても使えるわけではないんだ。カリナの洗礼次第さ!」
カイルは村人たちの名前まで、しっかりと覚えていた。
「これなら、いつでも戻ってこられるだろ! だから、ジェイク、一緒に冒険に出よう!」
「わかった。カイル、よろしく!」
僕が右手を出すと、カイルもしっかりと握手をしてくれた。
「「え? えぇぇぇっ??」」
申し訳ありません。
多忙のため、気力が持ちません。
この後、ジェイクは皆さんに挨拶をして回り、旅に出ます。
予定では、第61話から、第2部として展開させるつもりでした。
ご愛読の皆様、本当に申し訳ありません。
新型コロナウィルスの馬鹿野郎(。>д<)




