57.邂逅
カイル様は、真っ直ぐに僕のところへ向かってきた。
「はじめまして、ジェイク君」
そう言って右手を差し出す。
「は、はじめまして。僕のことをご存知なんですか?」
僕も右手を差し出し、握手をした。
ビリビリビリッッ!!
まるで稲妻のように二人の腕から全身に光の筋が伸びていく。
カイル様の髪の毛が逆立つ。
手を離そうとしても離れない。
カイル様も目を見開いて、僕を見ている。
僕の頭の中に声が響く。
「やっと逢えたね」
「ああ、長かったな」
僕に力を貸してくれている、アマテラスさんたち三人の神様の声ではない。
初めて聞く声だが、なんだか懐かしい響きだ。
そんなことを考えていると、急に足元の力が抜け、手を握ったまま、二人とも膝をついた。
「カイル様っ!」
領兵が駆け寄ってくる。
「ジェイクッ!」
ユリアも駆け寄ろうとするが、領兵に留められた。
そのまま僕は意識を失った。
***
白い靄のなかを進んで行く。
また三人の神様が出てくるのだろうか?
途中に、暗く深い穴がある。
すべてを飲み込んでしまいそうな闇だ。
僕はその闇の中を覗き込む。
視線の先に禍禍しい光を放つ魔物が見える。
魔物は玉座に座り、じっとこちらを見つめている。
「よく来た、アリスよ。儂は、王の中の王、魔王である……」
まるで僕に呼び掛けているようだ。
目を凝らして見ると、魔物の姿が、カイル様に変わる。
「儂は待っておった。そなたが現れることを……もし、儂の味方になれば、世界の半分をおまえにやろう。どうじゃ? 儂の味方になるか?」
バイロンから何度も聞かされていた、勇者アリスと魔王のやり取りと同じだ。
暗く、深い穴の向こうのカイル様は、僕をじっと見つめている。
まるで、僕がアリスであるかのように。
断るべきなのだろうか。
単なる幻なのだろうか。
僕は怖くなって、穴から離れるために後ずさる。
穴は靄の中に消えていった。
相変わらず、視界は晴れない。
僕は再び進んで行く。
前方には、赤い光と熱を放つ穴が見えてきた。
今にも炎が吹き出しそうだ。
その熱気と共に、
カツン、コォン
カツン、コォン
カツン、コォン
穴の中から、リズミカルな音が聞こえてくる。
僕は穴の中を覗き込む。
マゴローさんの工房のような場所だ。
しかし、建物の中ではなく、青空の下で、不思議な形をした窯が火を吹いている。
カツン、コォン
カツン、コォン
ジュワーーッ
男の子が、真っ赤になった剣のようなものを、水の中に浸ける。
男の子は、熱と暑さで顔を真っ赤にし、大粒の汗を流しながらも、とても生き生きとした表情だ。
「師匠! もう何度も失敗しましたが、いい加減、今回の配合割合でできると良いですね!」
柔らかい笑顔で、男の子が僕を見つめる。
まるで、マゴローさんが話していたアタルと鍛冶師のようだ。
男の子の姿がカイル様の姿に変わる。
再び、穴から後ずさる。
白い靄が僕を包みこんだ。
***
「ジェイク! どうしたの? 何があったの?」
ユリアが心配そうに僕を見つめていた。
今、僕は家の前で、ミリアさんに抱き抱えられているようだ。
僕が起き上がろうとすると、
「ジェイク君、無理はしない方がいい。カイル様は、おそらく、君のベッドで横になっておられる」
「マジで大変だったんだけど?! ジェイクが気を失ってすぐに、カイル様が『ジェイクには絶対に手を出すな』って領軍の兵士たちに命令してなかったら、絶対にヤられてたわよ!」
カリナたちにも、兵士たちが殺意を向けたようだ。
実際、今でも兵士たちが僕たちを監視している。
僕は、起き上がり、
「カイル様は大丈夫なのかな?」
「家の中は、ふぅりんがいろいろとやってくれてるみたい……」
すると、サラが、
「私が見て来てあげようか? どうせ、あの兵士たちには見えてないだろうし……」
「ああ、頼む」
サラがフッと消える。
「僕は、不思議な夢を見ていたんだ」
「どんな夢よ?」
好奇心女王が尋ねる。
「バイロンが話をしてくれた、勇者と魔王が、僕とカイル様だったり……」
「え? 何? ボーイズら……」
ミリアさんの鉄鎚が落ち、カリナは頭をおさえてうずくまる。
「すまん。つ、続けてくれ……」
「マゴローさんに聞いた伝説の鍛冶師とその弟子が、僕とカイル様だったりしたんだ」
「それは……二人が生まれ変わりってこと?」
ユリアが尋ねる。
「いや、僕にもわからないんだ。たまたま印象に残っていたから、夢にでてきたのかもしれないし……」
間もなく、サラが戻ってきた。
「カイルって人、出てくるわよ!」
玄関の引き戸が開けられる。
「ジェイク君、ウチの者どもの無礼を許してくれ。ミリア殿、ユリア殿、カリナ殿、お三方にも、刃を向けたことをお詫びする」
領軍の兵士たちの殺気が一気に消えていく。
「私は、ジェイク君と二人きりで話がしたい。ジェイク君は、大丈夫かい?」
「は、はい」
「分隊長以下、敷地の外で待機せよ!」
「はっ!」
「ミリア殿をはじめお三方とフリン殿は、隣の建物で待っていていただけないか?」
「かしこまりました! 仰せのとおりに!」
女性陣はフリンの部屋へ、兵士たちは街道で整列をした。
僕はカイル様と一緒に自宅に入り、リビングテーブルに向かい合わせで座った。
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