56.再会
畑仕事を終え、自宅に戻ってくると、
「おーい! ジェイク!」
とバイロンの声が聞こえてきた。
「やあ、バイロン。なんで村にいるの? カナン商会は? 街道は大丈夫だったの?」
「ギルドで専属のボディーガードを雇ったけど、結局、魔物は何も出なかったから、ボディーガードの冒険者は、小遣いを稼ぎたいからって、また街道に行っちまった。それよりも、俺……いや、私はカナン商会の代表として、マロネ村に参りました」
バイロンは、きちんとしたスーツを着こなしている。
「うん。すごいね! もう、ご両親には会ってきたの?」
「ああ、父ちゃんも母ちゃんもビックリしてたぜ! 突然帰ってきたから、クビになったんじゃないか、とか、失礼だよな?」
「ははは……」
ごめん。僕も一瞬、そう思ったよ……
「カナン商会の代表って?」
「この村に支店を作るんだ!」
「え?」
「なんだよ、ジェイク、会長から聞いてるだろ? マロネ村が、辺境伯領で、第2の街になる予定だろ? ギルドも動き出していて、事務所を構えるらしいぜ! 俺は、他の商人よりも先に、必要な土地を確保して、支店開設の足掛かりを作らなきゃいけないんだ!」
「それで、どこに支店を作るの?」
「ジェイクの家の前!」
僕の家は村の外れのような所だ。
周囲に他の農家さんがいないから、勝手に開墾して、土地を広げていた。
同じ支店を作るにしても、村の真ん中にした方が良いと思うけれど……
「なんで、こんな村の端に作るのかって顔してるな?」
「あ、うん。村の真ん中とか、入口の方とかが良いんじゃないの?」
「俺もそう思うんだが……会長のご意向だからな……」
バイロンも理由を聞かされてないようだ。
「あ、そうだ。会長から手紙を預かって来てたんだ」
バイロンは懐から手紙を取り出し、僕に渡してくれた。
「じゃあ、俺は村の人たちに挨拶しなきゃいけないから、行くぜ! じゃあな!」
バイロンはそう言うと村の中心部へと向かった。
――ジェイクさん、こんにちは。
あなたがこの手紙を読んでいるということは、バイロンが「仕事」が果たせたということね!
さて、支店開設の件、驚かれたことでしょう。
現在、領都で、農業系のスキルを持っている人を募集しています。
ジェイクさんの作った新種の野菜を継続的に栽培してもらうためです。
バイロンには、そのための土地を確保してもらわなければなりません。
今、領都だけではなく、王都の商人たちも噂を聞いて動き出そうとしています。
商売人としては負けられません。
支店の建設は、フリンさんにお願いできませんか?
支店の建築予定図面も同封しておきます。
支店開設のメドが立てば、マロネ村にも伺おうと思っています。
それでは、また。
カナン商会会長 エリス・カナン――
ちょうど、手紙を読み終わった時に、
「ただいま」
とフリンが帰ってきた。
「おかえり、フリン。これ見て!」
「……」
フリンは手紙を読み、図面を開く。
「うわあ、なんて機能的な建物なんだろう! これを設計したのは誰?」
そう言いながら、フリンは設計図の表や裏を何度も見回す。
「これ、どこに作るの?」
「ああ、ウチの前に作るらしいよ?」
「なあ、ジェイク! 余ってる丸太を使っても良いかい?」
フリンは創作意欲をかき立てられているようだ。
「良いよ。また、引き抜けばいいだけだし……」
「最近、見張り小屋ばかり作ってて、飽きてたんだ」
「あ、ごめん。変なことに巻き込んで……」
「いや、そうじゃなくって……同じようなデザインの建物しか作れなかった自分に嫌気が差していたんだ……でも、ジェイクのおかげで、スゴい設計図を見られたんだから、ありがと、ジェイク」
フリンが、可愛らしく微笑む。
その表情にドキドキしていると、遠くから、馬のいななきと、何十もの足音が聞こえてきた。
目を凝らすと、領軍の兵士とともに、立派な黒い車体の馬車がこちらへ向かってきている。
村人たちも、何事かと街道沿いに出てきている。
その集団は、村の入口から中心部を通り過ぎ、僕の家の前に停まった。
再びタイゼン様がいらっしゃったのだろうか。
「お、お茶の準備をしてくる!」
フリンが慌てて家に入る。
数名の兵士が乗降台を準備し、整列する。
馬車の重々しいドアが開いた。
「出迎えご苦労、大儀であった!」
そこに立っていたのはカリナだった。
カリナの横から、ニュッと手が伸び、車内に引きずり入れる。
車の中から、「馬鹿者!」と言う声と鈍い音、「ぐぇっ」というカエルを潰したような声が聞こえてきた。
ユリアと、カリナを担いだミリアさんが降りてくる。
すかさず、二人は、道をあけた。
二人の後、優雅に馬車から降りてきたのは、カイル様だった。
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