53.肉のにおいがするわ!
三人が手伝ってくれると言うので、スイに荷台をつなぐために自宅へ戻る。
リビングでは、フリンがテーブルに突っ伏していた。
「フリン? 大丈夫?」
「ふえ?」
泣き疲れて寝ていたようだ。
目の周りが真っ赤になっている。
「ジェイク~、俺、こんな大金、どうしたらいいかわかんないよぉ……今も、こうして目の前にあるのが、怖くてたまらないんだよぉ」
「じゃあ、今度、商業ギルドで銀行口座を作ろうよ?」
「でもこれ、俺の金じゃないよぉ」
「フリンが引き受けたんだから、フリンのお金だよ!」
「……そうかもしれないけど……」
とりあえず、フリンに自分の部屋に隠しておくようにさせ、余っていた木材、野宿道具や収穫した野菜などを荷台に載せて、フリンと一緒に城壁の所まで戻った。
そこで待ってくれていた三人を乗せ、城壁に東の先端へ向かう。
手始めに、フリンには、小屋などを作ってもらい、僕たちは、城壁を延長させていくことにした。
カリナは、力仕事は嫌だと言って、フリンの手伝いをするらしい。
僕は、前回と同じように、土や岩石を掘り起こしていく。
「サラ、『死の石』ってなんだったっけ?」
「まさか? アンタ、死にたいの?」
「いや、触れなければいいんだよね?」
重力操作で、岩を持ち上げて見せる。
「アンタ、何なの? 確かに、それなら、触らなくて済むわね……」
「もう一つ考えていて……どろどろに溶かした金属で固めてしまえば、持ち運びもできるよね?」
「ま、まぁ、そういうこともできるわね……」
サラが呆れているようだが……
「それで、石の名前はなんだった?」
「ほぼ同じようなモノなんだけど、ベーマイトかギブサイトって名前よ!」
「鉱石採掘、ベーマイト!」
と言うと、周囲が薄暗くなり、すぐに元の明るさに戻った。
つまり、掘り出した岩石の中にはないということだ。
ギブサイトとという名前でも試したが、同じだった。
他の鉱石は、いつものように色つきで表示されるので、さっさと選り分けていく。
ただの岩石は城壁の材料に、選り分けた鉱石は、ミリア・ユリア姉妹に荷台に載せてもらう。
見張り小屋の材料にするため、所々に生えている木も抜きながら、土と岩石の掘り起こしを進めていく。
「ジェイクは前回の時よりも、随分スピードがあがったんじゃない?」
「そうだね。いつもやってるから、慣れたんだろうね」
「ジェイク君は、いつもこんなことをしているのか?」
「はい。土地を開墾するたびに、かなり掘り起こしてますね。僕にはスキルがあるけれど、両親はこれを手作業でやっていたのかと思うと……信じられないですよね!」
「君のご両親は大変真面目で、正直な方だったよ。ウチの両親なんて、ちゃらんぽらんで……」
「ど天然なの!」
ユリアが畳み掛ける。
天然なところは、二人に受け継がれているのかもしれない。
数時間後、10キロメートルの城壁と溝を造り終えた。
結局、死の石と呼ばれるものは発見できなかった。
途中で、ワイルドボアやオクスタウロスなどの魔物が現れたが、姉妹の敵ではなかった。
オクスタウロスは、牛と馬をいびつにくっつけたような魔物で、僕は初めて見る魔物だった。
フリンとカリナが作業をしている場所へ戻ると、カリナが材木の上で、ヨダレを垂らして寝ていた。
ミリアさんがゲンコツを落とす直前に、
「ちょっと待って! 俺が寝てていいって言ったんだ!」
とフリンが声をかけ、カリナの安眠は守られた。
「私たちも、フリンも頑張っているのに、惰眠を貪っているのは……」
ミリアさんは、納得できない様子だ。
「それよりも、小屋ができたから中に入ってみてよ!」
見張り小屋のはずだが、非常に快適だ。
フリンから靴を脱いで上がるようにといわれ、全員言われたとおりに、地面より一段高くなった所へ上がった。
木の板が並べてある床は、何となく暖かみを感じる。
丈の低いテーブルは、それぞれの辺に二人ずつが座れるようになっている。
その奥には、地面と同じ高さにかまどや水場が作りつけられている。
僕は早速、自宅から持ってきた鍋や材料を使って料理をはじめた。
フリンには、急遽、肉を保存する箱を作ってもらう。
オクスタウロスの肉は鮮やかな赤身で、ワイルドボアの肉とは違うおいしさだという。
ただ、煮ても焼いても硬くなりやすいので、あまり好んで食べられないとミリアさんが教えてくれた。
冷却保存する箱に、雪を詰め、魔物の肉を収納する。
硬い肉は、長時間煮込むとやわらかくなると、亡くなった母さんが話していた。
大きめの鍋に、オクスタウロスの肉を四角く切りそろえ、トマトやタマネギと輪切りにしたトウガラシと一緒に鍋の中へ放り込む。
同時に、主食のジャガイモを蒸かす。
フリンにはかまどの見張りをしてもらい、僕たちは、荷台の石を整理しながら時間をつぶした。
バタン
とドアを開け、カリナが入ってくる。
「肉のにおいがするわ!」
カリナが鼻をヒクヒクさせていた。
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