51.タイゼン・ド・ボルドー辺境伯(2)
「まあ、そう、謙遜するな。改めてジェイクに依頼をしたい」
「?」
「この領土の民を守るため、どうか力を貸して欲しい!」
タイゼン伯が膝をついて、最敬礼をする。
僕は、慌てて、
「た、タイゼン様、お立ちください! 顔をおあげください!」
「いや、ミラ司教も申しておったが、ジェイクのスキルは、まさに神の力だ。私のような人間からすれば、畏れ多い力なのだよ。なにより、私のスキルが君に頼ることを、いや、頼らねばならないと告げている」
タイゼン伯が立ち上がろうとなさらないので、僕も地面に正座する。
「この半島の、東の端から、西の端まで、あの立派な城壁を造ってはくれまいか? 私は、数キロおきに見張り台と見張り小屋を造らせる! そのためにも、マロネ村を街に格上げせねばならぬのだ! どうだ? やってくれるか?」
「どれくらいの長さになりそうですか?」
「西側がおよそ250キロ、東側が200キロくらいだと見込んでいる」
半日で10キロずつ。
1ヶ月で420キロくらいかな……
「わ、わかりました! 頑張ってみます」
「おお! やってくれるか! ありがとう!」
「見張り小屋なら、俺、やば! わ、私が造りましょうか?」
とフリンが言うと、
「ああ、そうしてくれると、助かる! 小屋などは、とりあえず、手付金として500万ヨールでどうだ?」
「え? 俺、そんなにいらないよ!」
「何を言う! 材料費やら、人件費やら、ジェイクの屋敷を造るのも大変だったろう?」
「大工道具の代金以外、1ヨールも使ってませんよ?」
タイゼン伯は、本当か? という表情で僕を見る。
「えっと、材料は僕が準備をして、フリンが一人でこの家を造ってくれました! しかも数日で……」
タイゼン伯は顎が外れそうなくらい、あんぐりと口を開け、パクパクとうごかしている。
せっかくのダンディーな顔が、作画崩壊したようになってしまっている。
その後、タイゼン伯が、補助要員だとか、魔物対策部隊だとか、領軍の兵士たちを置いていこうとしたのを、必死で説得して連れて帰ってもらったが、500万ヨールの金貨は、テーブルの上に置いていかれてしまった。
「と、とりあえず、僕は様子を見に行ってみるから、フリンはこのお金の使い方でも考えておいて?」
「……ああ、そうするよ」
僕はスイにまたがり、街道の端まで向かう。
東西におよそ10キロずつ作った城壁が、視界に入ってくる。
たしか、西側はずっと荒野が広がっていおり、東側は森林地帯や川などがあった。
小屋を作るのであれば、材料も手に入るので、まずは、東側に延長していくほうが良いだろう。
「ご主人様! 向こうの方から大きな生き物がやってきています!」
ちょうど街道の延長線上にあたる場所は、城壁を作っていない。
マヨ兄弟さんたちも、その辺りで巨大化したサルを見つけたと言っていた。
「スイ、数はどれくらいかわかる?」
「たぶん、イヌか、オオカミのような生き物で、10匹くらいはいそうです!」
僕の視界にも、超大型のオオカミのような生き物が捕らえられた。
城壁の半分くらいの高さで、肩から前脚までは、僕の体と同じくらいの太さがある。
「サラ!」
「いつでもいいわよ!」
先頭を走っている3匹が炎に包まれるイメージをする。
ボッ!
ギャアッ! ギャイン!
後ろを走っていたオオカミ達は、先頭の3匹を避けて、こちらへ向かってきた。
左右に4匹ずつに別れ、挟み撃ちを狙っているようだ。
「サラ、炎の壁って作れるかな?」
「アンタ、学習能力ないの? アンタがイメージしなさいよ!」
確かに、同じことを何度も尋ねているな……
僕は右側から走ってくるオオカミたちを牽制するために、炎の壁をイメージした。
炎の壁が地面から立ちあがり、行く手を阻む。
4匹は足を止め、ウゥゥと唸り声をあげる。
左側から走ってくるオオカミたちは、ボッという音を立て発火し、即死したようだ。
ギャイン!
ギャンッ!
ギャヒン!
「こいつらもゴルリディアか!」
「お姉ちゃん気をつけて!」
「エイっ!」
足止めをしたオオカミのうち、2匹をミリアさんが、1匹をユリアが切り裂いていた。
残りの1匹は、カリナが魔法で氷の塊にしてしまった。
せっかく凍らせたのに、溶かしてはまずいので、炎の壁を消す。
切り裂かれた体からは、ゴルリディアの本体が出てくる。
もちろん、ユリア・ミリア姉妹の敵ではない。
あっという間に、二人は片をつけた。
「じぇ、ジェイク……もしかして、あたしたちよりも強いんじゃない?」
正面で燻っている3匹と、左側で骨と灰だけになった四体分を見ながら、ユリアが尋ねる。
「ああ、間違いなく、私たちではジェイクには勝てるまい……」
ミリアさんも諦めたかのように呟く。
「別に私たちがジェイクと戦う必要なんてないじゃん! それよりも、ふぅりんが、大金の前で泣いてたんだけど! どういうこと! まさか、手切れ金?! ヤるだけやって、捨てるつもり?!」
「なんでそうなるんだよ? フリンは何か言ってなかったのか? 帰ってくる途中でタイゼン様と領兵たちに会わなかったのか?」
「ふぅりんは、泣きじゃくって『ジェイクが城壁に』って言葉しか聞き取れなくって、あたしたちも急いでこっちに来たの」
泣いている女性を放ったらかしにしたんだね。
「確かに、大急ぎで街道を上っていく領軍の一個中隊がいたな……あれがタイゼン伯なのか?」
ミリアさんも気づいてくださいよ……
「なんでタイゼン様があんな辺鄙な村に来たのよ?」
僕は、三人にタイゼン様との会話の内容を話した。
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