4.あんなヤツのようにはならない
「おはようございます! 起きてください!」
神官のローブを羽織った若い女性が、集会所に響く声で叫んだ。
ベッドではないので、あちこちが痛い。他の子どもたちも、むくむくと起きあがった。
ざっと50人くらいはいるだろうか。
「この俺を床なんかに寝かせるなよ」
どこかのワガママ君が、ぶつぶつ文句を言っている。
そんなに嫌だったら、金を出して宿屋に泊まればいい。
無料で泊まらせてもらってるんだから、筋違いだと思うのだが。
「みなさん、お目覚めになりましたか? まずは、昨晩支給致しました毛布をたたんでください。たたんだ毛布はこちらへお持ちください。そのまま公会堂の外に出ていただくと、ささやかですが朝食を準備致しております。」
女性神官が一生懸命声を張り上げて説明してくれた。
僕とバイロンは、荷物を整理し、毛布をたたんで出入口に向かう。
「あなたは毛布一つもたためないのですか?」
「なんだよ、うるせえ女だな。お前がたためばいいだろ!」
先ほどのワガママ君のようだ。彼のせいで後ろが大渋滞だ。
「きゃっ」
ワガママ君は、手にした毛布を女性神官に投げつけた。
「おいっ!」
「おいっ!」
僕が呼び止めるのと同時に、公会堂の外からも声が聞こえた。
ワガママ君の前に、真っ黒な髪の、ハンサムな少年が立っている。
僕の声は、ワガママ君には聞こえなかったらしく、
「なんだよ、お前は?」
ワガママ君が目の前の黒髪の少年を睨みつけている。
「まず、クローラさんに謝れ! 次に君が使った毛布をきれいにたため!」
「はあ? 誰だよお前は? 俺は……」
物騒にも、ワガママ君は黒髪の少年に殴りかかる。
「カイル様!」
クローラという女性神官が叫んだ。
ワガママ君の拳は空を切る。
カイルは飄々と避けているのだ。
「「すげぇ」」
毛布を持ったまま、待ちぼうけの僕たちは、二人の様子を見守っていた。
……というか、カイルって、確か、領主の息子じゃないのか?
「君は何を踊っているんだい? そんなことをする暇があるなら、早くクローラさんに謝りたまえ」
「くそ、くそ」
ワガママ君はカイルを捕まえようとするが、するりと避けられている。
「下品な言葉はよく知っているようだね。ママからごめんなさいという言葉を教えてもらってないのかい?」
おいおい、そんなバカを煽ってどうするんだ?
「があああっ」
顔を真っ赤にしたワガママ君が、回し蹴りを入れようとしたが、あっさり避けられ、転けてしまった。
「あはははは」
「クスクス」
洗礼を受けに来ていた地方の少年・少女たちもワガママ君の情けない姿を見て笑っている。
「君は、神聖な儀式をなんだと思っているんだい? 洗礼は一人前の大人になるための通過儀礼だ。」
「ふん、うるせえっ!」
そう言うと、ワガママ君は逃げるように去って行った。
「クローラさん、大丈夫ですか?」
「あ、はい。あの、ありがとうございました」
パチパチと子どもたちから拍手が贈られる。
「じゃあ、お仕事を続けてください」
「あ、はい。あれ? さっきの毛布が……」
「それなら、僕がたたみましたよ」
僕は毛布を二枚抱えていた。
「あ、ありがとう。あなたに神のご加護がありますように」
「ありがとうございます」
毛布をクローラさんに渡し、外に出ると、カイルが女の子たちに囲まれていた。
「なあ、ジェイク。俺たちも朝飯食べようぜ」
「うん、そうだね」
大きな鍋には小さく刻まれた野菜のスープが入っており、その隣に小さなパンが重ねて置いてある。
「一人ひとつずつだろうなあ?」
バイロンには物足りないかもしれない。
「僕のをあげるよ」
「いや、我慢する。さっきのヤツみたいにはなりたくない」
「あはは、バイロンは大丈夫だよ」
食事を手に取り、大聖堂の中庭に向かう。
朝の空気が気持ちいい。
僕とバイロンは、中庭のベンチに腰掛け、パンとスープを食べる。
「いよいよだな」
「うん、そうだね」
バイロンの緊張が伝わってくる。
「俺は……ゆ、勇者になりたい!」
「うん、知ってる」
「わ、笑わないのか?」
「なにを笑うの?」
「き、き、昨日の……あの……」
「関係ないよ」
「え?」
「昨日のことと、バイロンが何になりたいかは、関係ないよ」
「……」
「神様は気まぐれみたいだし、わかんないじゃない?」
「それもそうだな!」
「食器を洗って、公会堂へ荷物を取りに行こう?」
「おお、そうだな。借りたものをきちんと返さないと、アイツみたいになるよな」
「僕が洗おうか?」
「いや、いいよ。もう俺たちは、自分のことは自分で責任を果たさなきゃいけないよな!」
「うん、そうだね!」
僕たちは、食事を終え、中庭を後にした。
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