閑話.サラのヒトリゴト
私たち精霊は、本当は実体を持たない存在なの。
オルタ迷宮の深層には、さまざまな精霊が棲んでいるわ。
ただ、私にも、「棲んでいること」がわかるだけ。
人間のように、名前や身体を持たないから、挨拶なんてしないし、ジェイクのように「誰かのため」なんて考えたこともないわ。
サラマンダーって名前があるじゃないかって?
何言ってるのよ!
人間が勝手にそう読んでいるだけじゃない!
ニンフだの、ノームだの、シルフィだの、人間が付けた名前なの!
そういえば、私たち精霊は、なんで迷宮の深層に閉じ込められていたのかしら?
今、こうして、ジェイクと一緒にいて、人間たちを見ていて、改めて「疑問」ばかりがわいてくる。
え? 火トカゲだったじゃないかって?
そうなの。
強制的に実体化されたら、あの姿になってしまったという感じよね。
ある日突然、光の矢が突き刺さったように動けなくなって、気がついたら、あんな姿になっていたの。
不思議よね。
実体を持っていない時は、他の精霊のことなんて、全く意識したこともなかったのに、あの姿になった途端、精霊たちから「笑われている」ような感じがしたの。
最初は、気にしないようにしていたわ。
でも、聞こえるはずのない、精霊たちの声が聞こえてきた。
声なんて出せないから、意識のようなものかしら?
「なぜここにいる?」
「なぜそんな姿か?」
そうやって、ずっと苛まれている感じだったのよ。
私は、いたたまれなくなって、迷宮を出ようとしたわ。
でも、そこからがまた大変だったの。
実体化したことで、歩いて移動しないといけなくなったし、何層もあるから、何度も心が折れそうになったわ。
魔物?
あんなのは、たいしたことないわ!
燃やしてしまえば、灰になるか、カッチカチに固まってしまうだけだから。
苦手だったのは、雪や氷を使う魔物たちね。
氷の塊に閉じ込められそうになったり、水をかけられそうになったり……
ひどいのは、あちこちに雪を固めた使い魔を作り出すの。
顎がしゃくれあがった雪で出来たゴーレムもいたわ!
逃げるのも大変だったんだから!
もう一種類いたんだけど、またこれが、変な姿で笑っちゃうのよ。
真っ赤な鼻と、ほっそい腕で、不思議なダンスを踊りながら襲ってくるのよ?
私の炎ですぐに溶けちゃうんだけど、大量発生して、私がおかしくなりそうだった。
上の層では、人間が魔物狩りをしてるでしょ?
私も何度も殺されそうになったわ。
だから、冒険者なんて、大嫌い!
しつこいし、武器も魔法も使ってくるから、最低よね!
私は、ほとんど丸腰よ?
隠れながら、息を潜めて、気づかれないように、小さくなって迷宮を出ようとしたら、外の明るさにビックリして、つい「大きな姿」になってしまったの。
そしたら、人間たちがパニックになって、追いかけてきたわ。
めちゃくちゃ怖かったわよ。
何もしていないのに……
迷宮の中で、何人かヤケドさせちゃったかも……てへ?
仕方ないでしょ?
あっちから襲ってきたんだから!
そして、また小さくなって、草むらで休んでいたの。
すると、どこからか、私を呼ぶ声が聞こえてきたわ。
声が聞こえる方へ歩いていくと、ジェイクがナイフを構えているじゃない?
また人間に襲われるのかって、本当に驚いたわ。
そしたら、大量の水をぶっかけられて……
今に至るってところかしら。
え? なんで姿が変わったのかって?
ジェイクが私を使役することになったからじゃないの?
実は、私にもわからないの……
うーん……
そういえば……
あれ? なんでだろ?
あのとき、小さな女の子から、何かを言われたような……
いや、おばさんだったかしら?
てへ?
忘れちゃった!
ジェイクは、優しすぎて、逆に心配。
いつか、とんでもないことに巻き込まれるんじゃないかしら?
ジェイクが望むなら、私の力で、出来ることは、なんでもしてあげるつもり!
惚れた?
なんでよ!
バカなこと言わないでよ!
そんなわけ……
でも……嫌いじゃないわよ……
私は精霊……ジェイクの周りには、たくさん人間の女の子がいるじゃない?
どうせ……
でも、いいの!
ジェイクも言ってたように「私は、私に出来ること」をするの!
もっと頼ってもらえるように、好きになってもらえるように、女を磨かなきゃ!
絶対、絶対、がんばる!
だから……もっと頼って欲しいな……
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