45.寄付
「ワトソンさん、お久しぶりです」
「おぉ、ジェイク、よく来たな。まあ、座ってくれ」
カナン商会に伺った時、エリスさんから、ワトソンさんに会いに行くように言われた。
ワトソンさんは、僕を座らせ、奥の部屋へ入り、台車に大きなカバンをいくつも積んで戻って来た。
「さっそくなんだが、ジェイクの取り分を持って帰ってくれないか?」
「え?」
確か、契約では、売買金額の8割を僕の銀行口座に振り込んでもらうようになっていたはず。
「その顔は、やっぱり、自分の口座がどうなっているか、わかってないな?」
「ど、どういうことですか?」
「ジェイクの口座は、もう、1ヨールも受け入れてもらえないんだよ!」
「なんで、そんなことに?」
「はぁ……本当に、不思議なやつだ。世の中、金のためなら悪魔に魂を売るヤツもいるというのに……あのな、商業ギルドの銀行口座には、最大1000万ヨールまでしか預けられないんだよ……このバッグの中には、お前の取り分2500万ヨールが入っている。だから、持って帰ってくれ」
「そんなにもらえませんよ!」
「おいおい、契約だろ? 『はいそうですか』って、私が受け取ることなどできるはずもない! 信用にもかかわる! それより、私の口座も、ジェイクのおかげで受け入れ中止中だ!」
「ど、どうしたらいいのですか?」
「私も……わからない。たとえ、一年間何もしなくても、普通に生活できる額だ。ただ、お客様もいらっしゃるし、何もしないというわけにはいかない……それこそ、ジェイクなんて遊びたい盛りだろう? 若いオネエチャンがいる店で、派手に使ってもいいんじゃないか?」
「いや、それは、ちょっと……」
「……本当に欲のないヤツだな……」
ワトソンさんから、金貨の入ったバッグを5つ受け取り、荷馬車に積み込んだ。
僕は、スイとともに大聖堂へ向かった。
洗礼の時の炊き出しは、寄付でまかなわれているとクローラさんが言ってたような気がする。
大聖堂の裏手の公会堂へ行くと、ちょうどクローラさんや他の神官の皆さんが掃き掃除をしていた。
「クローラさん、こんにちは!」
「こ、こんにちは……どちらさまですか?」
あ、覚えているはずがない!
ワガママ君との戦い(?)は、カイル様が活躍したのであって、僕は、洗礼に来た田舎者の一人だ。
他の神官たちも手を止める。
「あ、君は、マロネ村の……?」
ざわざわ……
ざわざわ……
急にざわつきはじめたが、どうしたのだろう?
「はい、マロネ村のジェイクと申します!」
「あ!」
「あの?」
「彼が?」
「すぐに、司教様にお取り次ぎいたしますので、どうぞこちらへ!」
急に丁重な感じになったが、どういうことだろう?
言われるがまま、スイとともに敷地の奥へ向かう。
スイはそのまま中庭に置かれ、僕は、大聖堂の中に案内された。
あの時、案内してくださった神官が、再び司教の執務室まで案内してくれた。
「ノックは三回でしたね?」
「はい、左様でございます」
コンコンコン
「はい」
部屋の中から返事がする。
「マロネ村のジェイクと申します! 司教様にお目通り願いたく、罷り越しました!」
ガラガラガッシャーン!
「ジェイク?」
バタン、バタバタ……ドタドタ……
「入りたまえ!」
「はい、失礼いたします」
ドアを開けると、やはり積み上げられた本が迷路のようになっている。
「久しぶりだな、ジェイク。頼むが、また、助けてくれまいか?」
机の向こう側には、上半身を倒れてきた本に挟まれ、お尻を突きだす格好のミラ司教がいる。
(重力操作)
僕にとっては使いなれたスキルの一つなので、難なく動かすことができた。
「チッ」
ん? チッ? なんだろう?
「ふぅ……ところで、今日はどうしたのかね?」
ん? ミラ司教?
「ミラ司教様、体調がお悪いのですか? 前回と声が……」
「いや、ゴホン。あー、あー。大丈夫だ。それより、今日は?」
「スキルのおかげで、想定外の収入がありましたので、こちらの慈善事業に寄付をさせていただきたいのですが……」
僕が話している間、ミラ司教の視線が突き刺さる。
「あ、寄付か……わかった。すぐに手配しよう」
「はい。ありがとうございます」
「ところで、この後、時間はあるか?」
「はい。あとは、村に帰るだけなので……」
「ちょっと付き合ってくれ!」
「あ、はい。どちらまで?」
「いや、どこへ、というわけでは……ゴホン……あー、そのー、キミのことがもっと知りたいんだ!」
胸ポケットから、サラがひょっこりと顔を出す。
「なに、この女! 私のジェイクに手を出すつもり?!」
え? そういう意味なのか?
女性と付き合うということを、生まれてから一度も経験したことがない……
「僕なんか、大したことがない人間なんで、司教様のような素敵な女性とは……」
「ん? すまない。年頃の男の子を勘違いさせてしまったかな? もう一度、キミのスキルを確認させて欲しいのだ!」
うわっ! 恥ずかしい!
盛大な勘違いで、僕は赤面してしまった。
「ぼ、僕は、何を?」
ミラ司教からは、単なる研究対象としてしか見られていないらしい。
しかし、結局は、洗礼の時と同じように、ミラ司教には、はっきりと僕のスキルが見えなかったようだ。
***
「むむむ……ジェイク君……キミのすべてを調べ尽くしたい……おそらく、神の力を手にしただろう、そのすべてを知りたい!」
ミラ司教が、執務室でつぶやいていると、
コンコンコン
とドアがノックされた。
「はい」
「副司教のフランチェスコでございます」
「なんだ? 今忙しいのだ!」
「だ、大至急、礼拝堂までお越しいただきたいのですが!」
普段は冷静なフランチェスコ副司教が、動揺しているようだ。
「わかった。すぐ行く!」
礼拝堂に向かうと、定刻ではないのに、神官たちが跪いて、祈りを捧げている。
(どうしたのだ? これは?)
祈りを邪魔しないように、ミラ司教は小さな声で尋ねる。
(あちらのカバンをご覧ください)
壇上に5つの大きなカバンが並べられている。
ミラ司教はカバンを開け、目を見開き、叫んだ。
「な、なんだ? これは?」
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