44.アツイ・オモイ
「ジェイク! なんなのよ、これ? 皮を剥いても剥いても、何も出てこないじゃないのよ!」
みんなが新しい野菜の料理を手伝ってくれるというので、カリナにはタマネギの皮を剥いてもらっていた。
「あ! なくなった!」
最後の芯の部分は、涙のような形をしていた。
パクっ!
カリナが口に入れる。
「これ、あまい!」
それを聞いて、僕、ミリアさん、ユリア、フリンが、白い肉厚の皮のような部分を食べる。
たしかに、甘味も感じるが、なんとなく辛みも感じる。
形も、味も不思議な野菜だ。
こういう野菜は、揚げたり、煮たりすると甘味が増すはずだ。
もう少し剥いてもらって、揚げタマネギと、タマネギ炒めを作ってみよう。
ちなみに、ダイコンは、キャベツと同じく、花が咲くまで放置していたので、根っこの白い部分が、スカスカになってしまった。
再度、ダイコン作りにチャレンジしている。
トウガラシは……
「これ、ほんとに辛いのぉ?」
と言い終わるのが早いか、カリナが口に放り込む。
「あ、止め……!」
僕が声をかける前に、カリナはトウガラシをガリガリッと噛んだ。
「ぎゃああああああああああっ! 辛い! 辛い! 辛いいいいいいっ!」
トウガラシは、その色と艶に騙されて、僕も畑で齧ってしまったのだ。
「水っ! みずっ!! ミズゥゥッ!!!」
半分だけでも、その日は一日中、唇と口の中がおかしくなったのに、カリナはまるごと一個を噛んだのだ。
「助けてっ! 助けてぇ!!」
もちろん、とても辛いから、そのまま食べてはいけないということは、最初にみんなに伝えていた。
「ゴクッゴクッゴクッ……なにこれぇ、水を飲んでも辛いっっ!」
つまり、カリナの自業自得だ。
このままではかわいそうなので、蜂蜜を小さな皿に入れて、カリナに渡した。
とりあえず、口の中に違うものを入れると、辛さはおさまるが、違和感は残るだろう。
「ゲイク、アギガホー……」
蜂蜜を掬ったスプーンで、口の中に塗り付けている。
次に、同じ赤い野菜でも、トマトはみずみずしくて、とても甘かった。
ミリアさん、ユリア、フリンにも、トマトは好評だった。
「ジェイク、私もソレ食べたい! でも、まだヒリヒリする! 何かない?」
僕が降らせた雪を、ユリアが固めて、カリナの口の中に入れてやる。
トウガラシの辛みが、まだまだ口の中に残っているようだ。
トウモロコシは、文句なしに甘く、生でも十分に食べられるものだ。
「なんか、この部屋、暑くない?」
「そんなことはないぞ?」
「あたしもちょうど良いかな?」
「それは、トウガラシを食べたからだよ。身体の中から温かくなる感じだよね?」
「そう、それ! 暑いから、これ、脱ぐ!」
「ちょ、カリナ、待て!」
「ジェイクは向こう向いて! 早くっっ!」
「へ?」
僕は、フリンから目隠しをされる。
「カリナはローブの下に何も着ていないでしょ!」
「カリナ、いくら幼なじみでも、それはマズイぞ!」
「へぇ、カリナって結構いい身体つきしてんなぁ!」
「エヘヘ! 洗礼を受けるまで、美しさを追求してたからね!」
「もう、つまんないこと言ってないで、早く何か着なさいよ!」
「つまんないって、ユリア、ヒドくない? 着るって言っても、これしか持ってないし……あ、ふぅりん、何かない?」
「あぁ、ちょっと待ってくれ」
不意に視界が開ける。
「「「「!!」」」」
「きゃあああっ! ジェイク、あっちに行って!」
ユリアが叫ぶ。
ミリアさんが、カリナに抱きつく。
僕は無言で、フリンと台所から出ていく。
「フリン、落ち着いたら、呼びに来て。僕は外にいるから」
フリンは自分の部屋に、カリナが着るものを探しに行くようだ。
「あぁ、わかった。でも、ここ、ジェイクの家なのにな! アハハ!」
「そうなんだけどね……はは……」
僕は、乾いた笑いを返す。
玄関を出ると、ポケットの中からサラが顔を出す。
まだまだ、冒険者に対して抵抗があるようだ。
「あんな女の裸なんて、どーでもよくない?」
プンプンと怒った感じのサラ。
「まあ、ちょっとは遠慮してほしいよね……」
「私は、アンタが望むなら、いつでも……見せ……」
「うん、そんな要求はしないから、大丈夫!」
グス、グス……
マズい。まただ。
「ふえ~ん、私には魅力がないんだぁ」
「いや、泣かないで、そういうことじゃなくって、もう少し、恥じらいをね……」
「私は、アンタのなんなのよ!」
「なんなのよって……うーん……」
「なんで考えるの! うわぁぁん!」
なぜ、泣くのかな?
何と答えるのが正解なのだろう?
「えっと、何て言うか……スイもそうだけど、君も大切なパートナーかな?」
「うふっ! 嬉しい!」
「ジェイク、お、俺は……その……」
振り返ると、ちょうどフリンが僕の後ろに立っていた。
こ、これは、ちょっとややこしいことになったかも……
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