42.前説?
「なんなんだよ、この村は?」
「農家ばかりなのに、どうかしてるぜ!」
肥満気味で頭部が薄い男と、ガッシリした体型であばた顔の男がぶつぶつ言いながら、マロネ村を歩いていた。
二人は、領都の冒険者ギルドから派遣された調査係だ。
マロネ村の南、サングーン山脈方面から、ゴルリディアに冒された魔物や動物が発生している可能性がある、という報告を受けたギルドが、この二人に調査を依頼した。
――改めて報告したのはミリアたちだが――
「この村の家の造りは、全く見たことがないんやけど……専門の職人でも雇ってんのかなぁ?」
一般的に、家の建築は、各家庭の都合に合わせて大工を雇う。
しかし、普通であれば、大工が違っていても、建物の造りに、それほど大きな差異はない。
マロネ村も以前は、ほとんど代わり映えのしない、直方体の建物――木製、石積み、レンガ積み、などを問わず――が並んでいた。
「うわ! なんやこれ?」
あばた顔の男が立派な門構えとその両側に広がる石垣を見て驚く。
「この村の村長の家か何かか?」
「村長てなんや? ここじゃ、タイゼン様より偉い言うんか?」
「んなわけないやろ!」
「お前が村長て言うたやんか! 村長て、村の長やろ? ギルドやったらギルド長には逆らわれへんし、店やったら店長が一番偉いやんけ!」
「それは、その場所の中でやろ?」
バチン!
いきなり、あばた顔が肥満気味の男の頬をひっぱたいた。
「痛! お前、手を出すなや! 手を出したらあかんやろ!」
「お前に相談したのが間違いやったわ……」
「じゃあ、誰に相談するんや?」
「いつも世話になってる薬屋のお姉さんに相談するわ!」
「もうええわ!」
二人の男は、サングーン山脈の方へ下って行った。
「ご主人様? さっきの人たちは何だったんでしょうか?」
スイが首をひねっている。
「アンタの知り合いじゃないの?」
ポケットからサラが聞いてくる。
「いや、何だったんだろうね? 通りすがりの冒険者だと思うけど……」
冒険者という言葉にビクッとするサラ。
本当に怖い思いをしたのだろう。
***
カンショは、かなりやせた土地でも栽培できることがわかったので、バイロンのお父さんであるウォルターさんに相談して、村の農家さんが経営する一区画で作ってもらうことにした。
3人の冒険者と、フリンとスイによってずいぶん消費されてしまったけれど、ウチの畑の片隅で作っていたカンショは、村の人たちにも配っていた。
その農家さんは、両親と同じように芋を育てていた方なので、育てるときの注意点を説明すると、すぐに理解してくれた。
ただ、普通の農家の皆さんは、早く収穫できるようなスキルを持っていないので、おそらく数ヶ月くらいかかるだろう。
だけど、時々僕がのぞいて[成長促進]をかけていけば、一年に数回、収穫できるかもしれない。
まだ、うまくいくかどうかはわからないが、とても楽しみだ。
新しい作物が領都に広がり、村にも利益が出る。
カンショが間違いなく売れることは、僕の家に来る女性達が証明してくれている。
きっと、マーシーさんのような人が、新しい食べ方なども開発してくれるだろう。
「アンタ、なんでそんなに嬉しそうなのよ?」
胸のポケットにいるサラが尋ねる。
肩や頭に乗っていると落ちそうだし、ズボンのポケットではつぶしてしまいそうだったので、余っていたウエスで、胸の部分にサラ用の場所を作ったのだ。
「だって、みんなが幸せになれるだろう?」
僕の思いを熱く語ると、
「ふーん、人間って、大変だね。なんで他人の心配までするかなあ?」
「僕が神様から与えられたスキルは、きっと人のために使えってことだと思うんだ。自分だけが満足しても、周囲の人が満足できないなら、結局、ギクシャクしてしまう……そういう意味では、サラが言うように、人間って面倒くさいよね」
「アンタが特殊なんだと思うけど……だから……いてあげ……かなぁ」
「え? 僕が特殊? なんでだよ? 普通だろう?」
「そーね! フツーの、そこらへんの、人間と一緒よ!」
なぜかわからないが、サラがプリプリと怒っている。
今日は新しい作物にチャレンジしようと思っている。
カナン商会に卸すキャベツとキュウリは、一区画ずつ作っているので、いつものように、それぞれの作物に合うように、
(土壌改良)
と念じながら、土を掘り起こしていく。
――ダイコンの種を蒔きますか?
――タマネギの種を蒔きますか?
――トウガラシの種を蒔きますか?
――トウモロコシの種を蒔きますか?
――トマトの種を蒔きますか?
スキルの質問すべてに「はい」と答えていく。
雨量や日照量などを考えながら、成長を促進させる。
数日後には、ダイコンの葉の下に白いものが見えてきた。
タマネギの筒状の茎(?)の下には、茶色に覆われた球体が出てきた。
トウガラシは、膝くらいの高さまで伸びて、葉を広げた。
トウモロコシは太い茎が勢いよく伸びてきた。
トマトは、キュウリのように、一本ずつ支えるものが必要みたいだ。
以前、フリンに作ってもらった木の棒を、トマトの茎に添えてやった。
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