38.何も言えなくて……
「ご主人様! これは初めて食べますが、とても美味しいです! カボチャやリンゴの甘さとは違う甘さです!」
スイに掘り出したカンショを食べてもらい、味の感想を聞く。
ジャガイモは、土色だったが、カンショの皮は赤い。
半分に折ると、少し黄みがかった白い実が見え、白い液体が垂れてきた。
どうやって料理したら良いだろうか。
考えてもわからないので、いつものように、蒸す、揚げるからやってみよう。
カンショを輪切りにして、蒸し器と熱した油の中に入れた。
ジュワワワ
白かった実の部分がだんだんと黄色くなり、熱が通ったところで取り出した。
ジャガイモに比べ、甘味が強い。
素揚げで食べるなら、ジャガイモの方が美味しいと思った。
しばらく蒸し続け、柔らかくなったところで取り出す。
黄色が濃くなっている。
「めちゃくちゃ甘い!」
揚げたカンショよりも、蒸したカンショの方が甘味が強くなっている。
しかも、ジャガイモがホッコリなのに対して、カンショはネットリとした感じだ。
時間をかけて熱を通した方がおいしくなるのかもしれない。
僕は、落ち葉やむしった草、枯れ木などを集めた。
枯れ木に火をつけ、上に落ち葉や草を置く。
白い煙がもうもうと立ち始めた。
「ご主人様! とても煙たいです~」
ちょうど風下にいたスイに、白い煙が直撃していた。
「スイ、風上に行けばいいよ!」
「はい、ご主人様」
カンショを落ち葉の間に入れる。
「よし、これならゆっくりと熱が入るはずだ」
「ただいま~」
仕事を終えたフリンが戻ってきた。
最近は、マロネ村の家という家が頑丈になっている。
フリンが、タダ同然で村中の改築を請け負っているからだ。
収穫量の多い家には、倉庫ではなく、クラという建物を作っている。
クラの中は、一年中同じ温度を保てるらしい。
フリンがどんどんスキルを使うようになって、レベルアップしている。
僕の家も、最近は快適になり過ぎて、ユリア・ミリアさん姉妹もカリナも、なかなか実家に戻ってくれない。
「おかえり。今日はカンショっていう芋なんだけど、また味見をしてくれる?」
「あぁ、いいぜ!」
倉庫に住み着いたフリンは、新しい野菜の味見や、食事を一緒に食べることが定番となっていた。
最近では、筋肉質ではあるものの、女性らしくふっくらとした身体つきになっている。
揚げたカンショを一つつまんで、
「この揚げたヤツは、今までの芋とは、また違ううまさだな!」
そうか、ジャガイモとは、違うモノとして意識して食べたら、美味しいのかもしれない。
ジャガイモのイメージで食べちゃったから、いまいちだと感じたのだろう。
次に、フリンが蒸したカンショを口にすると、
「!」
大きく目を見開き、
「美味しいぃぃ!」
あれ? いつものフリンと違う。
モムモムハムハム
モムモムハムハム
モムモムハムハム
目をキラキラ輝かせて、次々と蒸したカンショを食べている。
「フ、フリン? 大丈夫?」
と声をかけると、ハッと我に返り、
「す、すまん! これがうますぎて……」
真っ赤になって、もじもじしている。
これは、あの三人――特にカリナ――に知られるとマズいかもしれない。
と、考えていると、
「ジェイク、今日のご飯なに?」
「カリナ! なんでいつもジェイクの家なのよ?」
「ジェイク君、申し訳ない……」
ぞろぞろと、当たり前のように入ってくる三人組。
「みんな、おかえり。これ、めちゃくちゃうまいぜ!」
――あ、フリン、やめて……
「「「なにそれ?!」」」
――お、遅かった……
***
「あー食った、食った!」
「カリナ、はしたないから、お腹を出すのは止めてよ!」
庭先で焼いていたカンショまで、収穫箱一箱分、すっかりキレイに食べ尽くされてしまった。
「ふぅ、ジェイク君、いつも申し訳ない……誘惑に勝てず、忸怩たる思いだ……」
珍しくミリアさんまで、苦しそうにしている。
「なんでジェイクの作るものは、こんなにうまいのだ?」
皿を重ねながら、フリンが尋ねる。
「あはは、僕にもわからないよ」
「ジェイク……俺、これからもココにいても……」
ピッキーーン
空気が凍る音がした。
三人の冒険者たちが、戦闘態勢になっている。
「ジェイク君、今日も倉庫で寝てくれるかな?」
ミリアさんの口調は丁寧だが、殺意さえ感じる。
「ジェイク、洗い物はあたしたちがやっておくわ、早く寝てね?」
ユリアの目が怖い。
「私たちがいない間に、何もないわよね? ジェイク?」
ニヤニヤしながら、手のひらに炎を出しているカリナ。
「あはは、何もないよ! じゃ、おやすみ!」
僕は逃げるように、倉庫へ向かった。
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