37.職人魂
新年あけましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
マーシーさんの店を出て、マロネ村の南に城壁を作った時に、採集した鉱石を持って、ワトソンさんの店へ向かった。
今回は、荷馬車一台分の鉱石だ。
もちろん(重力調整)はしたが、積み込みから大変な作業だった。
「ワトソンさん、こんにちは。ジェイクです」
「おおっ!待っていたぞ。見せたいものがある!」
僕が店に入ると、すぐに店の奥へ消えたワトソンさんが、大きな赤い宝石を持って来た。
「ジェイク! どうだ? この輝きは!」
「たしか、ルビーっていう石でしたね」
「そうだ! ジェイクが持って来た原石の中にあったヤツだ! 他にも、サファイアやエメラルドなんかもあったぞ!」
ワトソンさんがやけに興奮している。
僕自身は、宝石などに興味がないから、いまいちピンとこない。
「ジェイク、ここだけの話なんだがな、ボルドー伯が管理している鉱山からは、こんなに立派な石が採掘されてはいない。だから、この辺境伯領では、金額がつけられないものばかりだ!」
「ということは、売れないってことですよね? 大丈夫なんですか?」
「逆だよ、逆! 試しに一番取引が多い金・銀・銅の原石を少しだけ、王都の商人に見せたところ、500万ですぐに売れたよ! 自然金なんかは、もっと安いのだが、ジェイクが持って来た鉱石は含有率が高かったからな!」
「500万ヨールですか?」
「ああ! このルビーも、他の石もいくらの値段がつくか、楽しみだよ!」
「……」
僕は、少し怖くなった。
「ジェイク、そう心配するな! 約束通り、400万はお前の口座に振り込んだ。私は、お前の、いや、ジェイクのおかげで100万を一瞬で手に入れられたのだよ。近いうちに、王都へ出かけるつもりだ。そこで、しっかりと稼いでくるさ!」
わからないことは専門家に任せよう。
「あの、今回の石は、種類も量もかなり多いのですが、見ていただけますか?」
「大丈夫だ。裏に馬車をつけてくれ」
ルビーを片付けながら、ワトソンさんが続ける。
「そうだ、ジェイク。前に、ミリア嬢や同郷の子たちを連れて来ていただろう?」
「はい。ユリア、カリナ、バイロンですね?」
「あぁ、そのうち、ミリア嬢ともう一人、剣を使う子がいたな?」
「ええ、ミリアさんの妹のユリアですね?」
「ほぉ、あの二人は姉妹なのか。それならば、二人に剣を贈ってやったらどうだ?」
「?」
「マゴローは知ってるな? あいつは、これまで良い素材に恵まれたことがないのだ。素材さえあれば、岩をも切り裂く剣を作れるくらいのスキルを持っているはずなのに……」
「とてもすごい人なんですね!」
「あぁ、あいつは天才だ。一度、店で鉢合わせしたことがあっただろう?」
「はい」
「あの時は、ジェイクが持って来た砂鉄鉱や鉄鉱石で良い剣を作ってもらおうとしていたのだ。だが、原料が充分ではなかったらしい」
「そうなんですね」
「今日、ジェイクが持って来たという石を見てみよう。マゴローが必要としている素材があるかもしれない」
「はい。そうだといいですね!」
「ああ、私も今から楽しみだよ!」
そう言って、二人で店の裏に行き、様々な種類の石を分けていった。
***
「マゴローさん、こんにちは!」
「おお! ジェイクか。今日はどうした?」
「ワトソンさんから『良い剣を作ってもらえ』と勧められて……」
マゴローさんが訝しげに見る。
「ん? おめーは、≪ファーマー≫じゃねーのか?」
「いや、僕のではなく、知り合いの冒険者にプレゼントしようと思っているんです」
「ああ、そーゆーことかい。でもな、あんまり良いモノは作れねーぞ?」
「ワトソンさんから、マゴローさんは『良い素材があれば、世界一の剣を作れるはずだ』って聞きましたよ?」
マゴローさんは、合点がいったような顔をして、すぐにニヤニヤし始めた。
「やっぱり、アレはおめーだったんだな?」
空になった、見覚えのある麻袋を指さしながら言う。
「あ、はい。バレちゃいましたね!」
「どーれ、この俺が見定めてやる! おめーが掘り出した石を全部持ってこい!」
そう言われたので、ワトソンさんが引き取ってくれた石の残りのものを馬車から持ってきた。
「これが鉄鉱石です。これが、砂鉄鉱、ニッケル、鉛、チタン、ウォルフラム、などを多く含む石で……」
気がつくと、マゴローさんが口をポカンと開けている。
「大丈夫ですか?」
「あ? なんなんだおめーは? 聞いたこともない石まで持って来やがって! ワッハッハッハ!」
腹を抱えて、大笑いし始めた。
笑い過ぎて涙が出たのか、顔を拭って、
「これほどの素材を準備してもらって、できませんなんて言ったら、漢が廃らーな! ≪鍛冶師≫としての本領を発揮させてもらうぜ!」
「は、はい」
マゴローさんは、胸を叩く。
「おうっ! 任せな! こんなにワクワクするのは、洗礼を受けた直後に、初めてスキルを使った時以来だぜ!」
そして、大量の麻袋を見ながら、
「ジェイク、これだけの石は、全部は使い切れねーだろうよ。余ったヤツは、研究用に使わせてもらえねーか?」
「もちろんです。僕は、これらの価値がわからないので、マゴローさんに活かしてもらえるなら、この石たちも本望だと思いますよ」
「おい、ジェイク! おめーみたいな、熱い漢は、今まで会ったことがねぇ! おめーの今の言葉で、俺の中に燻っていた職人魂にさらに火がついたっ! この世でまたとないモノを作ってやるぜっ!」
マゴローさんのテンションもMAXだ。
「ありがとうございます。よろしくお願いします!」
僕は、マゴローさんとがっちり握手をした。
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