35.巨大紋白蝶
キャベツとキュウリは育て方を間違えてしまったので、作り直していた。
オオバは、繁殖力が強いようで、根元から引き抜かなければ、次々と新しい葉を繁らせた。
セロリは、傷みが早いので、収穫して、すべて村の人に配った。
すると、あるご婦人が酢漬けにすれば、日持ちすることを発見し、教えてくれた。
次回の参考にしようと思う。
そんなとき、事件が起きた。
南のサングーン山脈の方から、大型の蝶が数匹飛んできたのだ。
村人は当然パニックになったが、ミリアさんたちが帰ってきていたことを知ると、各自、家の中で待機することとなった。
蝶は、キャベツ畑の上で旋回し始めた。
羽ばたくたびに、強風が襲ってくる。
カリナが炎の球を投げつけたが、空を飛んでいるので、あっさり避けられた。
「ジェイク君、あの蝶どもは、ゴルリディアがらみだな?」
「はい、スキルが使えないので、そうだと思います!」
「あんた、重さをコントロールできるんでしょ? どうにかしてよ!」
(重力操作)
と念じる。
すると、蝶たちはみるみる落下してきた。
しかし、羽ばたきをよけいに激しく繰り返すので、強い風が巻き起こる。
「ありがとう! ジェイク! あとはあたしたちがなんとかする!」
そう言うとユリアが、地面でバタついている蝶たちを切り刻んでいく。
予想どおりゴルリディアが現れたが、カリナの炎とミリアさんの剣技にはかなわなかった。
畑は多少荒らされてしまったが、仕方ない。
生きていれば、またやり直せる。
村人たちも家々から出てきて、ミリアさんたちを褒め称える。
ミリアさんたちが解体している間、なんとか収穫できたキャベツとキュウリを台所へ運びこむ。
キュウリを半分に折ってかじってみると、とてもみずみずしい。
そのまま食べてもいいし、塩を振ってたべても美味しかった。
キャベツも半分に切ってみる。
柔らかい葉と硬い芯があり、葉の部分はそのままでも十分に甘い。
芯の部分を薄く切り、食べてみると、やっぱり甘みが強かった。
領都で食べた料理を思い出し、芯の方は煮ると良いかもしれないと思った。
雪で冷やしていたワイルドボアの肉を、ステーキのように焼いた。
キュウリはスティック状にして、キャベツを刻んで、食事の準備をしていると、ドタドタと足音が聞こえてきた。
「ジェイク! 今日は何?」
「カリナ! 自分の家で食べようよ!」
暴れ馬に引きずられるように、ユリアとミリアさんもやってくる。
そうなるだろうと、五人分作っているから、問題ないんだが。
「だって、ウチのごはん、おいしくないんだもん!」
「カリナ、お母さんが悲しむぞ!」
「ミリアさん、聞いてくださいよ! ウチのママ、ジェイクから芋をもらってこいとか、カボチャをもらってこいとか言うんですよ? 図々しいと思いません?」
ミリアさんは何も言わず、顔を引きつらせている。
あぁ、カリナのこの性格は、お母さん似なのだと納得する。
「みんなの分も作ってるから大丈夫だよ!」
「さすが! ジェイク! 誉めてつかわす!」
「いや、だから、なんで上から目線?」
「残念だからだ!」
「じゃあ、カリナはなしね?」
ビタンッ!
カリナが床にはりつき土下座をする。
「許してくだせー領主様、ほんの出来心でごぜーますだ」
カリナが意味不明な演技を始めた。
ちょうど家に戻ってきて、その姿を見たフリンは、見てはいけないモノを見たような顔になっていた。
***
「やはり、サングーン山脈とノボルト火山が怪しいな」
巨大化した蝶が南側からやってきたことを伝えたところ、ミリアさんがそう話してくれた。
「領兵の調査隊も、ギルドの調査隊もサングーン山脈がゴルリディアの発生地点だと考えているようだ。だが、あそこは未開の地。魔物が出てきたら討伐する、という対症療法しかできない」
「俺の村は、北の方にあるのに、なんでやられたんだ?」
「魔物が必ずしも道がある所を進むとは限らないだろう? ボルドー辺境伯領は広い。サングーン山脈から、ファルサック村の間に、切り開かれていない森などがあるだろう?」
「そっか! エサを食べながら大きくなっていくんだから、食べ物のない街道をやってくるより、エサが豊富な森を抜けてきたのか!」
僕は、気になったことを尋ねた。
「ミリアさん、もし、大挙して魔物がやってきたら、どうなるんですか?」
「最悪の場合、このマロネ村は壊滅するだろう。良くても、魔物討伐の最前線になる可能性は高い。魔物がどのルートでやって来るかなんて、想像もできないからな……」
「ジェイク、石垣ってあの高さしかできないの?」
話を聞いて不安そうなユリアが聞く。
「いや、最初は間違って、領都の壁よりも高いのが……そうか! 南側に城壁を作ればいいのか!」
「「「「?」」」」
四人が見つめる。
「いや、岩さえあれば結構高い壁を作れるから、村の南側に城壁を作ってみよう!」
「ジェイク君、ほ、本当に出来るのか?」
「ええ、たぶん……」
***
マロネ村の南、数キロのところで街道は途切れている。
フリンやミリアさんのアドバイスによると、壁の外側に、深い溝を掘ると良いらしい。
僕は東西に歩きながら、岩石を浮かび上がらせる。
ひたすら岩石や土を掘り出しては、できるだけ深い溝を作っていく。
次に岩石についた泥を洗い流し、鉱石を選り分けていく。
選り分けた石は、女性陣にスイの荷馬車へ集めてもらった。
(城壁組成!)
みるみるうちに岩や石が積み重ねられていく。
領都の壁よりも高く、頑丈な石の壁が出来ていく。
僕たちは半日かけて、東側へ10キロ、翌日の午前中に西側へ10キロの城壁を完成させた。
もちろん、回り込まれたり、空から侵入される可能性はあるが、少しでも村を守れるようにしたかった。
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