32.総和風本家
「あーごめん、ごめん。それはね……」
そう言って、渡したリンゴをかじりながら、フリンが説明してくれたことには、
・木材などの材料がなかったので、倉庫と自宅の一部の材料を再利用して、「仮の家」を作った。
・家財道具を移動させ、もとの家を、再利用できるように壊していく。
・いま乾かしている丸太を使って、新しい家を、新しく作る。
・出来上がり次第、家財道具を戻し、「仮の家」を倉庫兼馬小屋にする。
ということだった。
家を建てるためには、何日もかかることを知っているからこそ、この時間でできてしまったことと、フリンの壮大な野望に驚いている。
しかも、「仮の家」というよりも、どこか違う国の神殿的な建物のように感じられる。
「フリン、ここまで一人で建てたんだよね?」
「ああ、もちろん! というか、マゴローさんの道具がすごすぎて、スキルのお陰か、道具のお陰か、よくわからないんだ!」
足下を見ると、大量の錆びた釘が落ちている。
「そうだ! 領都で、釘を買っていなかったけれど、どうしたの? 倉庫にも数本くらいしかなかったと思うけど……」
「俺のスキルは、木を組み合わせて作るから、釘がいらないんだ! まぁ、中に入ってみてみてよ!」
僕は、「仮の家」の入って驚いた。
きれいな木の柱が、縦、横、斜めと組み合わさって、しっかりと屋根を支えている。
「こんなにきれいな木を、どこから持ってきたの?」
「全部、ジェイクの家にあったものだよ。カンナをかけると、すすけた部分が、きれいに削れるんだ! 外側の壁は、どうせ汚れるから、そのままにしてるけどね!」
「……すごいスキルだね」
「いや、だから、マゴローさんの道具がすごいから、俺は、ちょこっと触ったって感覚だよ」
これまでどおり、玄関を入るとすぐに椅子とテーブルがあり、奥には台所やかまどもある。
左側には、部屋も二つできている。
二つの部屋には扉がないが、反対側には、扉がとりつけられた場所がある。
「あ、まだ、そこはできてないんだけど、お風呂とトイレになる予定さ」
「あ、ありがとう! 本当にすごいよ!」
「えへへ、よかった、よろこんでくれて」
フリンがかわいらしく微笑む。
ちょっとドキッとした。
その後、芋やカボチャなどを蒸したり揚げたりして、夕食として食べた。
カボチャよりも芋の売れ行きが良かったが、女性は芋類が好きなのだろうか?
今作っている五種類の作物ができたら、新しい芋類も植えてみよう。
***
三日後、もとの家の位置を、少し場所移して――フリンが「モン」を作るというので、石垣を北側にも伸ばし、その中央に位置するように――新しい家を建てた。
新しい家は、掘り出して乾燥させた木を使って、仮の家以上に豪華に仕上がった。
寝室も、台所も、全て壁で仕切られている。
台所の横に、食事をするスペースがあり、かなり広く作ってある。
今までは、玄関から料理をする様子や、食事をする様子が見えていたが、廊下を通って、違うエリアに行かなければならない。
しかし、裏の畑側にもう一つ入口を作ってくれているので、普段はこちらから出入りすればいい。
フリンが作った木製の「モン」は、かなり仰々しい。なぜか、立派な屋根までついている。
両側に開く扉は、夜になると「カンヌキ」をかけるらしいが、そもそも石垣が腰くらいの高さしかないので、常に開けておくことにした。
「モン」が完成した日は、村中の人が見学しに来たが、ほとんどの人は、「こんなもんいらねーよな」という反応だった。
僕も必要とは思わないんだけど。
しかし、フリンを紹介するいい機会だったので、建物の修理などができる《大工》だ、と村の人々は認知してくれた。
早速、いくつかの家から依頼があり、明日から作業に入るという。
家や倉庫兼馬小屋、謎のモンを作ってくれているなか、僕は毎日(成長促進)などのスキルを活かして、作物づくりに勤しんだ。
オオバの成長が一番早く、たくさんの葉が茂った。
根っこから掘り出してみたが、土の下には何もなく、爽やかな香りがする葉っぱを食べるようだ。
葉っぱだけを食べるのは、ちょっと難しいようだ。
芋を茹でて、つぶす時に小さく刻んで混ぜ合わせ、油で揚げたものは、爽やかな感じがして食べやすかった。
もしかしたら、お肉なんかと一緒に食べるといいかもしれない。
次に成長が早かったのは、セロリだった。
これも一株根っこから掘り出したが、土の上の部分を食べるようだ。
これは生育段階から強烈なニオイを発していた。
おかげで、害虫は少なくなったものの、収穫の時に手についたニオイはなかなか落ちなかった。
生で食べると、筋張った感じが口の中に残る。
これも、肉と一緒に食べるか、縦に細く切って食べる方が良さそうだ。
キュウリは一度失敗した。
地面で実を結んでしまい、全部傷んでしまった。
蔓を支える細めの柱をフリンに作ってもらい、再度チャレンジしている。
キャベツも失敗した。
土の上で球形になったところで収穫をしておけばよかったのに、花が咲くまで育て過ぎたのだ。
キャベツも再挑戦中だ。
結果的には、キュウリもキャベツも種を手に入れられたので、良かったとしよう。
ショウガは、当初の予想通り、芋のように土の中で増えていった。
芋と違ったのは、種ショウガの周りに、新しい実がグロテスクな感じでまとわりついていたことだ。
生で食べると、ビリビリとした辛さに襲われた。
しかし、ずっと口に残る辛さではなく、さわやかな辛さだった。
食べた後に、体ぽかぽかと温まってくる。
刻んだショウガと蜂蜜をお湯で割った飲み物は、フリンにも好評だった。
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