30.鍛冶師マゴロー
翌朝、宿屋で朝食を食べ、商業ギルドへ向かう。
カボチャとリンゴの代金を口座に入金し、とりあえず、現金で20万ヨール準備しておく。
フリンの大工道具がいくらかかるかわからないし、自分でも買いたいものがあったからだ。
商業ギルドを出て、
「フリン、君の道具はどんなものが必要なの?」
「ノコギリ、カナヅチ、ノミ、カンナ、だね。あと、それ以外にも揃えられるなら揃えたいけど。」
「へぇ、とりあえず、鍛冶屋さんに行けば良いのかな?」
「あぁ、たぶん、刃物類は鍛冶屋だろうな」
僕たちは、エリスさんに紹介してもらった鍛冶屋へ向かう。
鍛冶屋の中から、男性の大声が聞こえてきた。
「なんだ、こりゃあ? こんなの初めて見たぜ? どこで手に入れたんだ?」
「それは、企業秘密だよ。マゴさん。それで、当代随一の剣は打ってくれるのかね?」
「お、おおぅ。腕が鳴らぁな!」
話が終わったようなので、
「ごめんください」
と鍛冶屋のドアを開ける。
「なんだ、ジェイク、どうしたんだこんなところに?」
「ワトソンさん、おはようございます。聞き覚えがある声だったので、やっぱりワトソンさんでしたね!」
少しあせっている様子のワトソンさんを見て、
「こいつのこと、知ってるのか?」
口の周りにもっさりとしたひげを生やした鍛冶屋の主人が、ワトソンさんに尋ねる。
「あぁ、ちょっとした知り合いでな」
「こいつは、エリスの紹介で鍬とか、鎌とかを買いに来た《ファーマー》のはずだぜ?」
「私もエリスに紹介されたんだよ、なんだよ、やけに突っかかるな? まぁいい、マゴさん、頼んだぞ?」
マゴさんと呼ばれた鍛冶屋の主人は、ひげを触り、ニヤニヤしながらワトソンさんを見送り、僕の方へ振り向く。
「お前、面白そうなヤツだな……あん時は、まだ名前を言ってなかったな。俺ぁ、マゴローってんだ。よろしくな!」
「お久しぶりです。マゴローさん。先日の鍬と鎌は、本当に使いやすくって、とても助かってます。実は、今日は、大工さんの道具を買いに来ました!」
僕は、作業台の上にある見慣れた麻袋については触れずにいた。
「大工道具だぁ? なんでまた、そんなんが必要なんだ?」
「あ、フリン君がノコギリとか、カナヅチとかが必要みたいで……」
「へぇ、こんなかわいいねーちゃんが《大工》持ちとはなぁ」
「え? ねーちゃん?」
僕はフリンを見る。
真っ赤な顔をして、もじもじしている。
「え? えぇぇぇぇぇぇぇ?!」
「なんだ? ジェイクは気づいてなかったのか?」
「は、はい。ずっと男の人だと思って……いや、フリン、ごめん……」
男物の服を着ているし、髪も短いし、自称「俺」だし……そういえば、もう一人、自称「俺」の女性がいた。
「俺が、《大工》だって言っても、なめられるんだ! だから……」
「まぁ、いいさ。事情くらい誰にだってあらぁな! ジェイクだってそうだろ?」
マゴローさんが、ニヤニヤしている。
「と、とりあえず、大工道具を見繕ってもらえますか?」
「おう、任せときな! あ、そーいえば……」
マゴローさんは奥から一抱えほどの箱を持ってきた。
「昔、俺に大工の道具を作れって言ってきたヤツがいたんだけどよ、いちゃもんつけやがってよ……気にくわねぇヤツだったんで、売らなかったんだ。それが、そのまんま残ってるんだが、これでもいいか?」
「すごい!」
その道具類を見て、フリンは目を輝かせている。
僕にはよくわからないが、マゴローさんの作るモノは、刃先だけが美しい銀色に輝いている。
先日購入した鎌や鍬も同じだが、刃先以外は、黒い金属の状態なのだ。
全体的に銀色に磨かれているユリアやミリアさんの剣とは、全く違うモノだということはわかった。
「フリン……さん、この箱の中の物で、全部そろってるの?」
「さん、なんてやめてくれよ。フリンでいいよ!……欲しいものは全部、そろってるけど……」
「これで、いくらですか?」
「もともとは、30万で売るつもりだったが、15万でどうだ?」
「ありがとうございます! 是非譲ってください!」
「え? 15万……」
フリンが固まる。
「がっはっはっ! そうだ、漢はそうでなくちゃな! ジェイク、おめーのこと気に入ったぜ!」
マゴローさんが背中をバンバン叩いてくる。
大工道具を現金で支払い、マゴローさんの鍛冶屋を後にする。
「ジェイク、ジェイク、俺、そんな金……払えねーよ!」
「馬小屋を作るだけでも、それくらいになるんじゃないのか? 足りないのなら、お風呂を作ってくれると嬉しいな!」
「あぁ、本当にそんなのでいいのか?」
「うん、僕が、フリンに馬小屋の工事代を払って、それから少しずつでも返してくれればいいんじゃない?」
「う、うん」
「ただ、僕の家には、余分な部屋がないから、フリンの部屋も作ってくれないと、同じところで寝るわけには……」
「俺は……いいよ?」
顔を真っ赤にするフリンを見て、僕まで恥ずかしくなってしまった。
「いや、よくない! よくない! 必ず、絶対に、何が何でも、もう一部屋作ってください!」
「チェッ」
チェッじゃないから! 女の子なんだよね? 一緒の部屋はマズいよね? という野暮な言葉をぐっと飲み込む。
「こ、このあとは、僕の服を買おうと思うんだ。フリンもそのままじゃマズいだろうから、好きな物を選んでよ!」
「あ、ありがとう」
道ばたでいろいろな服を売っている店を見つけ、領都へ出かけるときの服と、作業服を買った。
フリンは、予想どおり男物の服を選んでいる。
次に靴屋を見つけ、出かけるときの物と、作業用の物を購入する。
フリンは遠慮したが、とりあえず、僕と同じ作業用の靴を買ってやった。
大量の荷物を抱え、カナン商会の馬小屋へ行く。
荷物を荷台に載せていると、
「ご主人様~! お待ち致しておりました~! 寂しかったです~!」
と、スイがじゃれついてくる。
「ごめんな。この人は、フリンさん。スイの小屋を作ってくれるんだよ!」
「よろしくお願いします~」
スイはちょこんと頭を下げた。
「スイが『よろしくお願いします』って言ってるよ!」
「こちらこそよろしくな! 良いものを作ってやるぜ!」
ヒヒヒーン
とスイがいななくと、バイロンが顔を出した。
「ジェイク様、どうされましたか?」
既に商人モードになっている。
バイロン、すごいよ!
「いえ、大丈夫です。エリスさんにご挨拶して、村に戻ろうと思いますが、いらっしゃいますか?」
「中におりますので、表からお願いできますか?」
僕はバイロンに、手を挙げて応える。
スイにカボチャの天日干しを与え、フリンとスイに、
「少し待っててね」
と言ってから、表通りの入口へ向かう。
「あら、いらっしゃい」
エリスさんがニコニコしながら迎えてくれた。
「昨日は、ありがとうございました。お陰で良い取り引きができそうです」
「うふふ、もう、バイロンから聞いてるわよ。ワトソンが歯噛みしてたそうじゃない!」
エリスさんの声は悔しげだが、目は笑っている。
僕は、昨日、バイロンと話したことを確認してみる。
「あの、エリスさん、昨夜バイロンとも相談をしたのですが、次は生でも食べられる野菜を作ってみようと思いますが、いかがでしょうか?」
「まあ! 素敵ですね! 是非お願いできますか?」
「はい、頑張ってみます!」
そう言って、カナン商会を後にした。
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