2.街道の魔物
歩き続けていると、周囲に木々が広がってくる。
「止まれ!」
年配の領兵が、僕たちに小さく声をかけた。
街道の真ん中に、カマキリを大きくした魔物がユラユラと体を揺らしている。
「マイクは子どもたちを頼む」
「はっ! おい、おまえたち、近くに寄れ!」
僕たちがマイクさんの周りに集まると、
「対物シールド!」
周囲にうっすらとした幕がかかった。
「すげぇ、本物の魔法だ」
唖然としているバイロン。
カリナは、なぜかときめいた眼差しでマイクさんを見つめている。
僕は、魔物と戦う年配の領兵の姿をじっと見ていた。
じりじりと詰め寄る領兵。魔物は挑発するかのように、ユラユラ揺れている。
領兵の剣がすぅっと弧を描く。
ボトボトッ
カマキリの二つカマが地面に落ちた。
「やっ……!」
バイロンが歓喜の言葉をあげようとした瞬間、カマのないカマキリがこちらに向かって飛んできた。
「きゃーーーーーーー」
頭を抱えてしゃがみ込むカリナ。
無言のまま震えているユリア。
「大丈夫だ、シールドがある」
両手を広げシールドを強化するマイクさん。
ガキンッ!
カマキリの巨大なあごがシールドにかみついた。
「いやぁぁぁぁ、こんなとこで死にたくない!」
「俺もイヤだよぉぉぉぉ」
泣き叫ぶカリナとバイロン。
「でやああ」
年配の領兵がカマキリの胸を断ち切った。
シールドにかみついたままの頭部は、まだ動いている。
切り落とされた腹部は、もぞもぞと動いている。領兵は、緊張した面持ちで剣を構えた。
「マイク! まだシールドは保てるか?! アイツが寄生していたようだ!」
「は、はい。がんばり……」
ピシッ
シールドに罅が入った。
断ち切られたはずなのに、頭部はそのアゴにさらに力を入れているようだ。
「いやぁぁぁぁ」
地面に横たわりうごめく腹部からミミズのようなものが飛び出し、年配の領兵に巻きつく。
「くそ!」
ほどこうとあがくが、よけいに締め付けられている。
僕たちの引率でしかないため、金属製の軽量鎧しか身につけていない。
その鎧がみるみる変形していく。
僕は肩掛けのバッグに入れていた短剣を取り出し、シールドを抜け出した。
「おい、おまえ、無茶なこと……」
ピシッピシィ
シールドの罅が大きくなる。
「マイクさんは、シールドに集中してください!」
畑仕事をしていると、どこからともなく、害虫どもや蛇などが現れる。そんなものにいちいち怖がっていたら、父さんたちが遺してくれた畑を守れやしない。
また、ひもや枝を切ったりするために、鉈や鎌よりも短剣のほうが使い勝手がいいため、普段から持ち歩いている。
僕は、短剣で縄を切るように、巻き付いた魔物を切り裂いていった。
ゲギュアァァァァ
断末魔の叫びを上げて、ミミズのような魔物は、ボトボトと地面に落ちた。
「いや、助かったよ。いてて……」
そう言いながら近づいてきた年配の領兵は、左腕の骨を折られたようだ。
剣を持った右腕を伸ばし、子どもたちの頭上にある、シールドにかみついたままのカマキリの頭部をなぎはらう。
頭部はころっと地面に落ちた。
「いてて……私は、領都騎士団のスミスだ。君のおかげで本当に助かったよ。ええっと……」
「ジェイクです。畑でミミズなんてしょっちゅう見てますから、大したことないですよ」
ほっとした様子のマイクさん。カリナとバイロンは、腰が抜けて立てなくなっている。
特にバイロンは下半身がとんでもないことになっているが、見てないことにしよう。
僕が短剣をバッグに入れていると、ドンッと背中を突き飛ばされた。
「うわっ!」
「なにやってんの! ジェイク! 危ないじゃない!」
僕は突き飛ばされて、地面にキスをしそうになった。
「ユリアの方があぶないよぉ」
「なんでシールドの外に飛び出したりしたのっ?」
「いや、スミスさんがミミズに巻き付かれていたから……」
「ジェイクがケガしたり……死んだりしたら……どうするのよっ!」
「大丈夫だよ。あれくらいじゃ死なないよぉ」
そう言うと、プイッと後ろを向いてしまった。
スミスさんとマイクさんが魔物の処理をし終え、
「この先に、ちょっとした水場がある。そこでちょっと休憩しようか」
と提案してくれた。
おそらくバイロンのことを配慮したのだろう。
30分ほど歩いて水場に到着するまで、みな無言のままだった。
スミスさんは骨折した左腕が痛いだろうし、マイクさんも魔力を使ってしまい疲れているのだろう。
カリナは泣き腫らして、顔が真っ赤になっているし、ユリアはなぜか機嫌が悪いようだ。
バイロンは濡れたままの格好で、穴があったら入りたいのかもしれない。
さっそく10ポイント!
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