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26.商人の心意気

僕は三人を冒険者ギルドの前で降ろし、カナン商会へ向かった。


「いらっしゃいませ!」


間違いなく、バイロンだが、威勢良く、しかも品のある言い方になっている。


「やあ! バイロン元気? エリスさんは?」


「これはこれは、ジェイク様。会長は奥におります。こちらのお席で、少々お待ちくださいませ」


流れるような動きで、店の奥へ消えるバイロン。


本当にバイロンなのか?


まもなくエリスさんが現れる。


「お忙しいところ、申し訳ありません」

と、僕が立ち上がると、

「どうぞ、おかけになって。どう? ビックリしたでしょう?」

エリスさんが悪戯っぽく笑う。


「はい、ちょっと……いや、かなりビックリしました。でも……」


バイロンがお茶とお茶菓子を持ってくる。

音も立てず、丁寧に並べ、そのままスッと下がる。


「まるで別人だよ!」


「ありがとう存じます」


エリスさんは本当にすごい人だ。

あのバイロンが、上流階級に見える。


しかし、他人行儀で、少し寂しい。

カリナが見たら、どう思うかな?


エリスさんは、お茶に少し口をつけ、

「本日は、どのようなご用向きですか?」


「あ、あの、お約束のカボチャをお持ち致しました」


「は?」

「え?」


バイロンもエリスさんも、鳩が豆鉄砲でも食らったかのような表情のまま固まった。


「だ、大丈夫ですか?」


「コホン。失礼致しました。わたくしとしたことが……とりあえず、商品を見せていただけますか?」


「ジェイク、マジか?」


「バイロン!」

「はい、失礼致しました!」


良かった。バイロンはバイロンだった。


僕は荷馬車に、カボチャの収穫箱とリンゴの収穫箱を一つずつ取りに行く。

重力操作で軽くする。


「エリスさん、こちらがカボチャで、こちらが一緒に作ったリンゴです。いかがでしょうか?」


「それよりも、ジェイクさん、たった一週間でできたのですか?」


「はい。味は大丈夫だと思いますよ。友人たちに食べてもらったので」


かなり念入りにカボチャを見つめるエリスさん。

リンゴも手にとって、じっくりと見る。


しばらくして、ふーっと息をつくエリスさん。


「カボチャは1キロあたり1000ヨール、リンゴは1キロあたり1500ヨールでお買い取り致します!」


バイロンがアングリと口を開けている。


「ありがとうございます。裏の倉庫でよろしいですか?」

と立ち上がろうとすると、エリスさんが、

「ちょっとお待ちください」


なんだろう?


「いくつかジェイクさんに確認させていただきたいことがあります」


「はい」


「まず、先週の芋ですが、3日後には売り切れました。わたくしどもといたしてましても良い商売をさせていただきました……」


それからエリスさんはこんなことを言った。


・初日に卸した食堂が作った料理で、一気に芋の噂が広がり、王都の商人までもが買い付けにきたこと。

・今までの芋とは品種が異なっている可能性があること。

・多くの料理人や商人たちが、芋の出所を探していること。

・一部では、5倍以上の値段がつけられていること。


「それで、バイロンは『負けていられない』と、より仕事に熱が入りました。カナン商会としても、本当にありがたいことです」


「こちらこそありがとうございます」


「ジェイクさん。あなたのその優れた能力は、まさに神様からの贈り物です。しかし、それは諸刃の剣でもあります。あなたに何か起きてからでは、わたくしは悔やんでも悔やみきれません」


カリナも言っていた。

僕のスキルに目を付けるヤツがいるかもしれない、と。


「はい。ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ! 両親が言っていました。前を向け、と。だから、何があっても前を向いて、僕にできることをしようと思っています」


「ふう」

とエリスさんが息を吐いた。


「わかりました。そのお心意気、わたくしが買いましょう!」


「え?」


「なに、言葉のアヤですよ。そこで、ジェイクさんにご提案があります」


「はい」


「ボルドー領の農業を、ひいては領土全域を発展させるために、現在、ここボルドー領では作られていない作物を作ってみませんか?」


「え?」


「歴史的にみても、ボルドー領全域が肥沃な土地とは言えません。そのため、一部の地域で、収穫できる作物は限られています。」


「そうですね。小麦、大麦、ヒエ、アワ、芋、カボチャ、リンゴ、テンサイくらいですか?」


「よくご存知ですね。それ以外は他の領地から、高い輸送費をかけて持ち込んでいる状況です」


「僕たちもそれくらいしか食べたことがないので……」

バイロンが軽く頷いている。


「そうでしょうね。ですから、今、バイロンに多種多様な食事を食べさせています。舌が肥えていない商人は、あり得ませんから!」

チラリとバイロンを見るエリスさん。


「さらに言えば、このままジェイクさんが、他の農家と作物が競合すると、お互いの首を絞めることにもなります」


エリスさんは、そこまで考えているのかと感心した。


確かに、この品質のモノを作り続けると、他の人たちの作物が売れずに、迷惑がかかる。

それならば、ボルドー領にない作物を作って、領地の内外に卸せば、いろんなものが食べられて、領地も潤う。

かなりスケールが大きな話だけど、面白そうだ。


「僕、やってみます!」


「わたくしもできうる限りの支援をさせていただきます。それともう一つ。あらためてご忠告申し上げます」


「はい」


「商人の中には、質の悪い者もおります。いずれは、どこからか噂を聞きつけて、ジェイクさんに近づこうとするはずです。どうか、お気をつけください」


「ご心配いただき、ありがとうございます」


エリスさんは、ニコッと微笑んでくれた。


「さて、バイロン。ジェイクさんの荷物を倉庫に入れ終わったら、今日はあがっていいわよ。二人で食事でも行ってらっしゃい」


「あー、ちょっと……」

せっかくの気遣いを無駄にしそうな、間の悪さだと思う。


「?」

エリスさんが首をかしげる。


「あの、エリスさんは鉱石などはお詳しいですか?」


「え? ジェイクさんは、鉱石の採掘までお出来になるの?!」

驚くエリスさん。


「は、まあ……」


「残念ながら、わたくしは、価値を判断できたとしても、流通先を知りません。しかし、信頼できる鉱物商がおりますから、紹介状を書いて差し上げます」


「ありがとうございます」


「荷物を倉庫に納めていただいた後に、お渡しできるようにしますね」


「いろいろと助かります。では、倉庫へ」


カボチャ500キロ、50万ヨール。

リンゴ100キロ、15万ヨール。

合計額の小切手と紹介状を受け取り、バイロンと一緒にカナン商会を出た。


お手数ですが、是非とも評価をお願いいたします。


少しずつですが、定期的に更新できるよう、頑張ります。


誤字・脱字や読みづらい箇所があれば、お知らせください。

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