25.魔物 v.s. 「魔物」
「ジェイク君、ずっとコントロールはできるのか?」
「いえ、わかりません。ワイルドボアの時は、小一時間くらいだったので……。たぶん、大丈夫だと思いますよ?」
「では、コントロールしている状態で、殺すしかあるまい」
「それは……イヤですね。魔物として殺すのとは、なんか違う気がして……」
「ジェイク君が言わんとすることはわかるが、このまま野放しにもできまい。カリナが言うように……おいっ! 地面が揺れてないか?」
「ゆ、揺れてますね」
カリナとユリアは抱き合って青ざめている。
「ご主人様! 下の方から何か近づいています!」
「ミリアさん! 地面から何かやってくるようです!」
「馬車を止めろ!」
「止まれ!」
と命じると、スイもレッドグリズリーも立ち止まった。
ボコッ
ボコッ
ちょうどレッドグリズリーの目の前の土が盛り上がり、匂いを嗅いでいる。
(解除!)
グオオォォッ!
ボコッボコッボコッ!
土の中から、恐ろしく巨大なモグラが現れた。
レッドグリズリーが、巨大モグラ捕まえて噛みついた。
ギャアッ!
グワァッ!
レッドグリズリーは、巨大モグラの長い爪で切りつけられてふらついている。
「ジェイク! あのモグラはなんとかならないの?」
目の前に[飼育調教(小)]の文字が現れない。
「すまん! できないみたいだ!」
「レッドグリズリーを援護するぞ!」
三人は、巨大モグラの後ろに回り込む。
カリナが大きな火の玉をモグラに向かって投げつけた。
モグラの背中の毛が燃え上がるが、湿っているようで、すぐに消えた。
だが、ひるんだ隙に、ミリアさんとユリアが斬りかかる。
ギャア!
かなりの深手を負わせたようだが、致命傷には至っていないようだ。
モグラは三人の方へ振り返る。
マズい! どうすればいい?
グォォォォォッ!
レッドグリズリーが、モグラを背中から羽交い締めにした。
「今だ!」
ミリアさんとユリアが再び斬撃を放つ。
ミリアさんはモグラの首を切り落とし、ユリアは腹部を真一文字にかっ捌いた。
グギュエ
血まみれのゴルリディアが現れた。
カマキリの時よりもかなり大きい。
カリナがさらに大きな火の玉を作り、ゴルリディアへ放つ。
グギュァアァァァ!
燃えさかる火の玉の中で、ゴルリディアがのたうちまわる。
カリナは手を前に伸ばしたままの姿勢で、魔力を維持しているようだ。
燃やし尽くすつもりだろう。
ドズン
首のない巨大モグラを羽交い締めにしていたレッドグリズリーが、そのままの体勢で倒れていく。
気がつくと、あたりは血の海になっていた。
レッドグリズリーの傷が深かったようで、動けなくなってはいるが、まだ息がある。
「せめてもの情けだ」
とミリアさんは、レッドグリズリーの首を断った。
その後、三人が解体を始めたが、見ていて気持ちのいいものではなかった。
僕は、[給水排水(小)]のスキルを使って周辺の血を洗い流す。
「ミリアさん、こういう魔物を討伐したときの証明ってどうしてるんですか?」
「魔石を取り出すのさ。ただ、皮や爪、牙や肉など、素材になるものを持って行っても証明になる」
だからこんなに丁寧に解体するのか。
害獣を駆除したら、解体を行うが、もっとざっくりしている。
「ユリアもカリナも、手際が良かったよね! すごいね!」
「まだ、慣れてなくて」
ユリアは少し顔色が悪い。
「た、たいしたことないわよ……」
カリナは今にも吐きそうだ。
「魔物の素材は、意外といい値段になる」
ミリアさんは、さすがに平然としている。
素材を回収し、ミリアさんと一緒に荷馬車に載せる。
みんなで乗り込み、
「スイ、よろしく」
「お任せください! ご主人様!」
そう言って、再び動き出す。
「この素材も、ジェイクの、生きたワイルドボアには及ばないんだけど!」
カリナが切り込んでくる。
それに答えたのはミリアさんだった。
「そりゃあ、そうさ。ギルドが好きなように、一番高く売れる状態に加工できるんだから……ところで、ジェイク君。さっき、レッドグリズリーは途中でコントロールできなくなったのかい?」
さすがミリアさん。そこに気づくのか。
「レッドグリズリーがモグラと対峙したときに解除したんです。僕が指示するよりも、本能的に戦わせたほうがいいと思って……いちかばちかの賭けでしたが……」
「いや、あの状況では、やむを得まい。二匹を相手するか、魔物同士で戦わせるか、と言う選択肢しかなかったからな」
「ただ、わかったことがあります」
「なんだ?」
「ゴルリディアに寄生されたヤツはコントロールできないんでしょ?」
カリナが正解を言う。
「そうなんだ。普通の魔物、ワイルドボアもレッドグリズリーも、スキルが通じるけれど、モグラは出来なかった。あと、どうしても、情が移ってしまう」
「ジェイクは優しいから」
「ありがとう、ユリア。でもそれは、僕の弱さかもしれない。一度、魔物を支配下におくと、情が移ってしまって、解除して魔物本来の姿を見ないと、気持ちを断ち切れないんだ。さっき、レッドグリズリーがモグラにやられたときも、なんかモヤモヤしちゃって……」
「ん? ということは、もしかしたら、ジェイク君は≪テイマー≫のスキルもあるというのか?」
「お姉ちゃん! ダメだよ!」
すかさずユリアが止める。他人のスキルを詮索するのは、マナー違反だからだ。
「ああ、そうか。すまない。忘れてくれ」
「いえ、大丈夫ですよ。このメンバーなら。それよりも、≪テイマー≫のスキルってどういうものなんですか?」
「あー、断っておくが、特定の人物のことではなく、一般的にだぞ?」
「それでも構いません。教えてください」
「私が知る限りでは、魔物や動物を育てたり、意志疎通を図ったり、偵察に使ったり、魔物と戦わせたりできるそうだ」
「あははは! それ、ジェイクじゃん」
カリナが腹を抱えて笑っている。
「ジェイク、すごい!」
ユリアが目をキラキラさせている。
「ジェイク君のことではないぞ! 念のため!」
「うーん……どうしたらいいんだろう……」
僕にそのような能力が与えられた理由とは?
僕は御者台の上で考えこんでしまった。
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