22.仁義なき……
「この子、かわいい!」
ユリア姉妹はスイを撫で回している。
「……ジェイクが美味しそうな匂いを……」
ぶつぶつ言いながらドアの破片を掃除するカリナ。
ドアが破壊され過ぎて、プライベートもなにもない。
とりあえず、ドアの残骸は、裏の農具倉庫に立て掛けておいた。
一段落がつき、みんなで手を洗って、女性陣は席についてもらった。
とりあえず、蒸かしたカボチャと、バターで煮込んだカボチャを、それぞれ大皿に入れて、テーブルに置いた。
すかさずカリナの手が伸びた。
ひょい、パクッ!
「んー! んー!」
いや、そりゃあ、熱いだろう……まだ湯気が出てるんだけど。
ユリア姉妹も、蒸かしたカボチャにフォークを刺し、ふぅふぅと息を吹き掛けてたべている。
「「「あまーーい!!」」」
もう一つの皿に、3本のフォークが伸びる。
カリナも学習したようだ。
「「しょっぱあまーーい!!」」
「私、こっち!」
カリナが皿ごと自分の方へ引き寄せる。
「カリナ、はしたないから、止めて!」
「やだ! 無理! この一週間、こんなに美味しいモノをたべた?」
「「……」」
「ジェイク君、お願いがある。少し外に出てもらえないか?」
ミリアさんの美貌に懇願されて、断る男はいるのだろうか?
「はい、良いですよ」
僕はカボチャ畑に収穫箱を持って行く。
ドアがない僕の家からは、
「カリナ、ズルい!」
「ユリア、一つ多いぞ!」
「ミリアさん、なんで二つも刺してるんですか!」
女性冒険者たちの凄まじい戦いの声が響いてきた。
***
「さて……なんで、皿が割れて、フォークが曲がって、テーブルが、壊れてるんですか?」
「「「……」」」
三人は、床に正座している。
別に、僕がさせたわけではない。
僕は、カボチャの収穫を半分ほど終わらせ、静かになった家の様子を見にきただけだ。
すると、冷静になった三人が自主的に正座をしていた。
「「「……ごめんなさい」」」
「だって、カボチャ……」
「カリナ!」
「ジェイク君。年長者の私がいながら、本当に申し訳ない。次回、領都でドアと机と皿とフォークを買ってくる。それで、許してはもらえないか?」
「……」
「すまん! このとおりだ!」
ミリアさんが土下座をしながら、ユリアの頭を抑え、ユリアがカリナの頭を抑えている。
「プッ! あはは。大丈夫ですよ。それくらい、なんとでもなります。それよりも、明日、カボチャの収穫のお手伝いと、次に領都へ行く時に、また一緒についてきてもらえませんか?」
「もちろん! そんなことなら、お安いご用だ!!」
「……カボチャ」
不満そうなカリナ。
「元はと言えば、カリナのせいでしょ?」
ユリアがぶつぶつと愚痴をこぼす。
「うん、そうだね。収穫のお礼にカボチャもあげるよ!」
「やります! やらせてください!」
カリナが立ちあがり、僕の手を握る。
なんという変わり身の早さだろう。
***
翌朝、三人が来る前に、リンゴの木の様子を見に行った。
緑色の実が出来ている。
一本の木に集中して、
(成長促進)
と念じる。
みるみるリンゴが赤く色づき始めた。
ぞっとするほど美しく、真っ赤な色の、艶やかなリンゴになった。
実を一つもいで、食べてみる。
シャクッ!
果汁が口元からこぼれ落ちるほど、みずみずしく、とても甘いリンゴだ。
シャクッ!
シャクッ!
シャクッ!
あっという間に食べてしまった。
口の周りと手がべたべただ。
もう一つもいで、
「スイ、まだ朝が早いから、大きな声を出しちゃダメだよ」
と言って、リンゴを食べさせた。
「!」
スイはリンゴを囓り咥えたまま、猛ダッシュで、石垣に沿って南へ走って行った。
遠くから
ヒヒヒヒヒヒーン
といななく声が聞こえてきた。
スイが再びダッシュで戻ってくる。
「はあはあ、ご主人様。私は幸せ者でございます。」
「良かった。近いうちに、領都に行くからご褒美も準備しておくよ!」
「ありがたき幸せ」
古くさい言葉で礼を言うスイ。
ベタついた口と手を洗い、リンゴを緩衝材に包んで、収穫箱に入れる。
赤くなった実を全て取り終えた頃に、三人の暴れ馬、じゃなかった、冒険者がやってきた。
収穫したばかりのリンゴを三人に渡すと、最初にかじったカリナが、南へ向かって走って行った。
「こんなのリンゴじゃねーっ!!」
とカリナが叫んでいるのが聞こえた。
やっぱり暴れ馬か?
ユリア、ミリア姉妹もリンゴをひと口かじると、へなへなと座り込んだ。
おとぎ話のように、眠ってしまったらどうしよう?
「本当にリンゴじゃないみたい!」
とユリア。
「歯ごたえや舌触りはリンゴなんだが、果汁がこの上なく美味しい!」
ミリアさんが恍惚の表情を浮かべている。
ものすごく色っぽい。
ずっと見ていたいなぁ、と思っていると、
「はあはあ」
と息を切らして、汗だくになり、髪を振り乱したカリナが帰ってきた。
見たくないものを見てしまった。
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