19.バイロンの実家
領都からの途中、野宿をし、村に戻ってきた。
荷馬車から荷車を降ろし、ロバと荷車、領都で買ってきた菓子折りを持って、バイロンの実家に向かった。
「こんにちは」
と玄関先で呼び掛けると、バイロンのお母さん、サンドラさんが出てきた。
「あら、ジェイク君。領都から戻ってきたの?」
「はい、先ほど。あの、これ、ロバと荷車をお借りしたお礼です」
菓子折りを差し出す。
「もう、こんなことしなくていいのに! ジェイク君からは、あんなに美味しいお芋をもらったんだから」
「おお、ジェイク! 戻ってたのか?」
バイロンのお父さん、ウォルターさんは畑の方からやって来た。
「あ、おじさん! バイロンはとても良いお店に勤めていますね!」
「そうだろう? カナン商会には先代のころから世話になっててな……」
「ジェイク君、立ち話もアレだから、中へどうぞ!」
サンドラさんがドアを開けて招いてくれた。
早速菓子折りを開けて、テーブルの上に置き、
「ちょっとお茶を淹れるわね」
とサンドラさんが台所へ向かう。
ウォルターさんと向かい合わせで座り、
「会長のエリスさんは素敵な方ですね。気風もいいし、バイロン君を見違えるほど育てていらっしゃいましたよ!」
「俺たちゃ、あいつが会長にご迷惑をおかけしてないか、内心ヒヤヒヤしてたんだ」
「そうなのよ」
とサンドラさんがお茶を準備してくれた。
「あの子って、何をしても雑でしょ? お客様の相手が務まるのか、心配で心配で……」
夫婦で顔を見合わせる。
「バイロンは頑張ってましたよ! エリスさんは、バイロンのスキルを理解して、一人立ちできるように、厳しくも温かく鍛えられています」
「ホントか? なら、良かった……」
ウォルターさんは鼻をすすった。
親って、子どもが成人しても、心配なんだなぁ……
父さんと母さんが生きてたら、≪ファーマー≫になったことを喜んでくれただろうか?
「ジェイク君がそう言ってくれて、安心したわ。甘ったれのバイロンと比べたら、ジェイク君の方がしっかりしてるからね」
「いえ、そんなことは……おじさんやバイロンのお陰で、僕の作物もしっかりした取り引き先ができたので、お礼を言いたくって……」
「何言ってんだ! ジェイクも会長と話をしたんなら、あの人のスゴさもわかっただろう? 商品の価値をズバリと見極められるんだぜ?」
「そうですね! 僕もびっくりしました。本物の商売人を見た気がします」
「だろ? そんな人が取り引きをしてくれるんだ! 間違いないって! だから、胸を張って、ジェイクも頑張れよ!」
「そうよ! ジェイク君ならできるって、おばさんも信じてるわよ!」
「あ、ありがとうございます」
僕は恥ずかしくなり、お茶をいただいた。
「あの、今後のことで、ちょっとお伺いしたいんですが……ウチの裏の畑を広げることはできますか?」
「ん? 開墾するってことか?」
「はい」
「自分で切り拓いた土地は、ジェイクのモノになる。だがな、広ければ広いほど、世話が大変だぞ?」
「そうですよね……」
「まあ、俺は≪プランター≫で、広い土地だからこそ意味があるんだが……スキル次第で可能性はある。」
「はい、チャレンジしてみます」
「ジェイク君、何か必要なことがあったら、いつでも相談にのるからね!」
「はい! おばさん、おじさん、今日はありがとうございました!」
僕は、お礼とあいさつをして、バイロンの実家を出た。
自宅に戻り、改めて荷馬車の中の荷物を整理する。
馬や荷馬車の台車を入れる場所も作らなければならない。
とりあえず、馬は家の横に生えている木につなぎ止め、バケツに水をいれて、おいてやる。
かわいそうだけど、しばらくは外で飼うしかない。
そんなことを考えていると、
[飼育調教(小)]
と表示された。
(シイク)
と念じると、突然
――名前ヲ決メテクダサイ
という声が聞こえてきた。
慌てて周囲を見回したが、誰もいない。
――飼育スル対象ニ名前ヲツケテクダサイ
「それじゃあ、スイにしよう! スイ、これからよろしくな!」
と言って馬の顔を撫でると、
「よろしくお願いします。ご主人様」
さっきとは違う声が聞こえてきた。
再び周囲を見回してみた。
「私です。スイです。ご主人様」
ビクッ!
「うわ! 馬がしゃべった!」
「驚かせて、申し訳ありません。人間の言葉を話しているわけではありません。私が思っていることをご主人様にお伝えしているだけです」
じっと僕を見つめるスイ。
確かに口を動かしていないし、しゃべっているわけではないようだ。
「あ、いや、君、なんでそんなことができるの?」
「ご主人様が、名前を授けてくださり、力を与えてくださったからです」
「あぁ、そうなの?」
自分でも訳がわからない。
他の人が見たら、僕は馬に向かって話しかけている変な人だ。
「ごめんね、君の住む小屋がまだないんだ。せめて、水と食事くらいはマトモなモノをあげたいんだけど、何がいいかな?」
「ありがとうございます。私はそこらに生えている草を食べますから……」
「藁とかは?」
「枯れた草は、本当は好きではないんです。どちらかと言えば、あそこに生えている草をそのまま食べたい……いや、無理にとは申しません」
僕だって、食べたくないものを食べさせられるのは嫌だ。
雑草は種類が多すぎて、見分けがつかない。
結びつけていた木から放し、スイに一つ一つ尋ねながら、残しておく雑草を探していった。
同時に、
(成長促進)
と念じる。
家のまわりを一周し終わったころには、スイが食べたいと言った草が他の雑草より成長していた。
スイの手綱をはずしながら、
「さあ、どうぞ召し上がれ!」
と言うと、
ヒヒヒーン!
といななき、
「ありがとうございます!」
と草地に駆け寄って行った。
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