17.カナン商会(1)
領都には、自由商業地域があり、そこには小売りや卸売りなど、さまざまな店が並んでいる。
基本的には、商品の流通には商業ギルドが関わるのだが、ギルドの主な役割は物価の調整だ。
ギルドでは、安く買い叩かれることがない反面、高く買い取ってもらえないのだ。
そうすることで、適正価格が守られている。
だが、一部の素材や稀少価値の高いものは、相応の値段がつけられる。
そのような商品の売買が、自由商業地域で行われているのだ。
その一角に、バイロンが勤めるカナン商会がある。
「ごめんください」
商会のドアを開けると、
「いらっしゃいませ!」
と威勢のいい声が聞こえてきた。
「オォッ! ジェイク、久しぶり!」
心なしか丸みを帯びたバイロンがカウンターから出てきてくれた。
「元気そうだね」
「ああ、お陰様でな。ところで、今日はどうしたんだ?」
「ウチで採れた……」
と話そうとした時、
「バイロン、お客様ですか?」
と店の奥から、年配の女性が顔を出した。
「会長、私の村の幼なじみで、ジェイクでございます」
あのバイロンが敬語を使ってる!
「はじめまして。ジェイクと申します」
「こちらこそ、はじめまして。わたくしはカナン商会のエリス・カナンと申します。バイロン、お茶をお願い」
「かしこまりました」
ふう、とエリスさんはため息をつく。
「あの子をしつけるのは大変だったのよ?」
と、苦笑しながら言う。
「僕もびっくりしました。バイロン君があんなしゃべり方が出来るとは思っていなかったので……」
「うふふふ、あなたは嘘がつけない性格なのね?」
バイロンがトレイの上に二人分のお茶とお茶菓子を持ってきた。
「お待たせいたしました」
と、きちんと僕の方から先にお茶を出してくれた。
バイロンも頑張っているんだなぁ……
エリスさんは、ちょっとだけカップに口をつけ、
「さて、今日はどんなご用件かしら? まさかバイロンに会いに来たわけではないのでしょう?」
バイロンのお父さんからロバと荷車を借りて、芋を売りに来たことを話した。
「なるほど、では、それを見せてくださいますか?」
とエリスさんが言うので、外に停めていた荷車から、芋を一箱持ってきた。
当然、重力操作をしないと重たすぎるので、ちょっとだけ軽くしたが。
「あら、ずいぶん立派なお芋ね」
と値踏みをするように見るエリスさん。
「これなら、1キロ1000ヨールで買いましょう!」
「せ、1000ヨール?」
側に控えていたバイロンが裏返った声をあげる。
「バイロン、落ち着きなさい。お客様の前では、常に冷静でなければ、商人失格ですよ!」
「失礼致しました、会長。しかしながら、この芋の市場価格の倍の金額……」
「ええ、そうよ」
間髪入れずに答えるエリスさん。
さすがに僕も不安になり、
「あの、エリスさん。僕はバイロンの幼なじみですが、だからと言って高く買い取ってもらおうとは……」
「違います!」
ピシャリと遮られた。
「ジェイクさんでしたか? 私は商売人です。儲からないことや無駄なことは致しません。純粋に、この芋の価値を申し上げただけです」
芋を手に取り、眺めるエリスさん。
「バイロン、あなたのスキルはきちんと訓練をすれば、モノの価値がわかるはずです。この芋に1000ヨールの価値があるか、確かめてご覧なさい」
バイロンも素直に芋を受け取り、じっと見つめる。
「……ほ、ホントだ……」
バイロンの最初のスキルは、おそらく、真贋判定のようなものだったはずだ。
それを鍛えて、応用することで、価値がわかるようになるのだろう。
エリスさんは、バイロンのスキルを理解し、商人として一人前になるように鍛えてくださっているのだ。
バイロンは、とても良い師に出逢ったようだ。
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