16.芋スティック
翌朝、朝日が昇る前に、僕は重力操作で芋を持ち上げ、手早く収穫していく。
例年よりサイズも大きく、耕地の三分の一程で自宅にある収穫箱がいっぱいになってしまった。
大きな桶に水を入れ、芋についた土を落としていく。
その作業が二回終わる頃には、すっかり日が昇っていた。
村の人たちも農作業をしている。
「ジェイク、何か手伝おうか?」
ユリアが長靴にエプロン姿でやって来た。
「ありがとう! ユリアは朝ごはん食べた?」
「あたしは食べたけど、ジェイクはまだ食べてなかったの?」
「うん、まだ」
収穫した芋を日陰に置き、いくつか芋を掴み、台所へ向かう。
油を入れた鍋と、たっぷりの水を入れた大鍋をかまどにかける。
「昨日、ユリアが切った芋を揚げてみようと思うんだ」
「へぇ、美味しそう!」
賽の目に切られた芋を油の中に入れる。
ジュワワワワ
焦げないうちにさっと取り出して、ユリアと味見をする。
「「!!」」
二人で顔を見合わせる。
「美味しいね」
「想像してたよりも、いい感じだね。塩を振ったらもっといいかも」
「この大きさだと、掴みづらいよね……棒状に切ってみる?」
このサイズにしたのはユリアだが……
「ユリアは、包丁やナイフでもスキルは使えるの?」
「まだやったことがないから、わからない。でも、やってみるわ!」
「じゃあ、ここの芋をお願い。僕は、茹でてみるから」
僕が大鍋に芋を入れている時には、すでにスティック状の芋がたくさん並んでいた。
ジュワワワワ
グツグツ
芋スティックは、素揚げのものと塩味のものを作り、次に茹でた芋を潰そうとしていたら、
バンッ!
と勢いよくドアが開けられた。
「村中に美味しそうな匂いをさせないでよ!!」
仁王立ちのカリナと、申し訳なさそうにミリアさんがやってきた。
「お邪魔だったか?」
突然の闖入者に唖然とする僕。
「いえ、そんなことは……」
真っ赤になって俯くユリア。
二人の後ろには、村の人たちが覗き込んでいる。
「あんたたち、そんな美味しそうものを二人占めしようとしてたわね?!」
「二人占めってなんだよ……匂いがそんなに広がってるのか?」
「香ばしぃぃ匂いがプンプンしてるわよ! 村の人たちがあんたの家に集まってきてたんだから!」
とりあえず、素揚げの芋スティックをミリアさんに、塩味の芋スティックをカリナに食べてもらう。
「なんなのこれは!」
そう言って奪い取ろうとするカリナ。
「シンプルなのに、なんで美味しいのだ?」
と首をひねるミリアさん。
カリナは獲物を狙う獣のようになっているので、ユリア姉妹から村の人々にふるまってもらう。
「美味い!」
「なにこれ?」
「ありえへん!」
「これ、いくらなら売ってくれる?」
村の人たちは口々に感嘆の声をあげる。
せっかく食べようと思っていた芋スティックは、あっという間になくなってしまった。
その間に、僕は芋を潰して、平らな楕円形に形を整え、油で揚げていく。
ジュワワワワ
「次は何?!」
カリナはよだれを垂らして見つめている。
次々に揚げていき、最初の二枚を皿の上にのせて、半分に切る。
塩をパラパラとふっているところに、
「ジェイク! 大好評だったよ!」
「ジェイク君、あの芋は、ある程度は村で卸さないと、みんなが納得しないかもしれないぞ?」
「あはは、そうかもね」
既に窓という窓から、村の人たちが覗いている。
かなり恐ろしい光景だ。
「とりあえず、これを食べてみて?」
芋を潰して揚げたものを四人で取り分ける。
「はふはふっ!」
一口で食べようとしたカリナ。
「外はサクッとしてて、中はホッコリ、美味しいね!」
「これはこれでいける!」
ユリア姉妹にも好評のようだ。
そんなに大量に作ってはいないので、村の人たちには、四等分にしたものを食べてもらった。
その後、現金だったり物々交換だったり、村の人たちが、獲得競争を始めた。
とんでもないことになりそうだったので、ミリアさんに仕切ってもらい、各家庭に同じ量の芋をお裾分けした。
これには、まだ畑に残っていた三分の一の芋を使った。
領都に持って行くのは、早朝に収穫し、箱詰めした三分の二の芋だ。
両親が亡くなってからは、村の人たちがいろいろと手伝ってくれたお陰だからと、代金などはもらわないことにした。
すると、「カリナから話は聞いた」とバイロンのお父さんがロバと荷車を貸してくれた。
その代わり、商業ギルドではなく、バイロンがいる商会に卸して欲しいと頼まれた。
カリナが言うには、
「ギルドにマージンをピンハネされるよりは、信頼できる商会に直接卸したほうがいい」
とのこと。
なんだかんだで、カリナはバイロンのことを気にかけているようだ。
明日は領都へ出発する。
今のうちに、畑を耕しておこう。
そうして、耕し終わったころには、真っ赤な夕陽が地平線に隠れようとしていた。
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