9.神様は気まぐれだ
「キミは勘違いをしているようだ」
「え?」
司祭様は、椅子に座ったまま前屈みになる。
……この人ワザとやってんじゃないか?
それとも無意識なのか?
一つ一つの動作に、こちらが緊張してしまう。
「キミは、た・だ・の《ファーマー》ではない!」
「はぁ。でも、《ファーマー》なんですよね?」
「そうなんだが、ややこしいな。まずは、自分のスキルを確認したまえ」
「はい……どうするんでしたっけ?」
「は? ウチの神官どもは、そんな大切なことを教えていないのか?」
「あ、いや、説明は受けたんですけど……ちょっと、倒れてしまって……」
「あぁ、そうか。ごく軽度の記憶障害か? まぁいい、簡単なことだ。頭の中で『スキル確認』でも何でも、それに準ずることを考えよ。ただし、口に出してはならんぞ」
「はい」
僕は頭の中で唱えてみた。
(スキル確認)
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ファーマー レベル1
天照大神の加護
降雨調整(小)▼
炎帝神農の加護
成長促進(小)▼
大地の神の加護
重力操作(小)▼
++++++++++++++++++++
「あの、これって、詳しく見ることができるのですか?」
「む? まだレベル1であろう? スキルなど、そんなにない……いや、▼のような印は見えるか?」
司教様は両手の指で▼の形を作ってくれた。
……その動作も、なぜかヤラシイ感じがする。
「はい、3つほど……」
「みっ!!!!……アーアーアー」
司教様は突然耳を塞いで、
「聞かなかったことにする。そんな安易に自分のスキルを言ってはならんぞ!」
「すみません」
「いや、私も悪かった。その印に意識を集中するのだ」
司教様に言われたとおりにやってみる。
++++++++++++++++++++
ファーマー レベル1
天照大神の加護
降雨調整(小)
日照調整(小)
++++++++++++++++++++
「ありがとうございます。わかりました」
「その様子だと、スキルが複数あるようだな。キミ、名前は?」
「マロネ村のジェイクと申します」
「私はボルドー教区司教のミラだ、よろしく」
かなりフランクな司教様だ。
「ジェイクには伝えておこう。よく覚えておけ」
「はい」
「一般的に、洗礼を受けたばかりの人間は、最大1つのスキルしか持ち得ない。たとえば、勇者となったカイル君であっても、同じだ。これから何年かかけて、レベルを上げて、能力や技術を高めていくはずだ」
「はい」
「スキルは、魔法と違い魔力を要しない。一方、スキルは使わなければ、レベルが向上しない。たとえば、鍛冶師が、物作りのために魔法は使うまい?」
「そうですね。では、魔法などは能力に当たるんですか?」
「そうだ。神官の治癒術や魔導師などが使う魔術には魔力が必要だ。そして、覚える術式も魔力量も、人やレベルによって異なる。つまり、能力差だ」
僕は、周りに積み上げられている本の山を眺める。
「記憶力のような感じ……?」
「あはは、そうだな。ジェイクは頭の回転が速いな。ならば、もうわかるだろう?」
再び意地悪そうな笑みを浮かべる司教様。
「?」
僕は腕を組んで考えた。
魔法には魔力がいるから、魔力がなくなれば使えない。
しかし、スキルは使い放題で、スキルを使えばレベルが上がる。
普通、レベル1ではスキルは1つで、レベルが上がるとスキルや能力が増える。
努力次第では、今後も同じように増えていく可能性がある。
本来は、職業に応じたスキルの使い方しか出来ない。
僕は、《ファーマー》だから、《ファーマー》としてスキルでありながら、ありがたいことに応用が利くようだ。
「……つまり、僕も冒険者にもなれるってことか?!」
「ふっ」
ミラさんは美しい笑顔を見せたかと思うと、急に立ち上がり、僕にビシィッと指さした。同時に大きな胸がぷるんと波打つ。
「神様は気まぐれだ。だけど、なぜキミが《ファーマー》になり、神様がそのようなスキルを授けてくださったのか、しっかり考えるべきじゃないか?」
「……はい」
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