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9 昼食

「美味しい」

「ここのハオス美味しいですよね。私のオススメです」


久々の街への外出に、少し浮き足立っている。ここのところイミュに外出を任せていたこともあって、引きこもり気味だったのだが、久々に来ると普段味わえない賑わいが心地いい。


パンに肉やら野菜やらをサンドして特製ソースをかけたハオスというものは、この街の名産品である。店ごとに味付けが違っていて、アリアは特にこの店のハオスが大好きだった。


「普段はあまり外出しないのですか?」

「私、あんまりイレギュラーなことに対応できなくて。だから外出してるといつ何があるかわからないから、自然と慣れてる家にいることが多くなっちゃうんですよね」

「なるほど。普段家では何を?」

「さっきみたいな庭いじりとか、裁縫とか……読書も好きなんですけど、あんまり本屋さんがなくて。アレスは?騎士だと鍛錬とかされるんですか?」


ハオスを頬張りながら食べていると、アレスが口許に手を伸ばしてくる。咄嗟に身構えると、ついてましたよ、とソースを拭われた。


(恥ずかしい)


イミュだったら「はしたない」の一言で一刀両断だったろうなぁ。


「意外にお茶目なんですね」

「ちょっと抜けてるんです。イミュにもよく言われてて」

「ちょっと、ですか?」

「案外、アレスって意地悪ですね」


ははは、と笑う顔が男らしい。アレスは今までに会ったことのないタイプの人間だ。そもそもこうして人と長く過ごすこと自体なかったが、アレスが人当たりの良い性格なせいか、だんだんとあまり気負わずに過ごせている。


「それで、私の普段の生活でしたっけ?そうですね、大体鍛錬と警備ですかね。最近では身辺警護というかお付きをしていたことが多かったですが……」

「仕事がない日は何をしているんですか?」

「うーん、あまり手持ち無沙汰という日はなかったのですが、強いて言えば馬で駆けたり狩りに行ったりですかね」


なんか本当に絵に描いたような王子様……騎士のような生活だな。とはいえ、ギャンブルやらナンパやら言い出したら、それはそれで引いただろうが。


というかアレスはモテるだろうから、そもそもナンパなどする必要がないか。出生こそあまりよくないのかもしれないが、この見た目で腕が立ち、尚且つ振る舞いが紳士であれば選り取りみどりだろう。


後ろ盾など貴族の後継がないところからあてがえばいいのだし、貴族なんてそうやって都合のいいようにお互いを利用し、繁栄していくものだ。


まぁ実際問題、目をつけたところでそういう女性達や貴族をヴィヴィアンナが牽制していたのは間違いないだろうが。


「では普段はイミュさんが外出されているんですね。そういえば、今家は不在の状態ですが、その……誰も不在のままで大丈夫ですか?」

「そこはきちんと幾重にも壁を設置してるので問題ないです」

「壁?」

「魔障壁と言って、魔法・物理共に受け付けないようになってます。結構な耐久度にしてあるので早々に壊れることはないかと」

「魔法って凄いですね」


実際視認もできないようにしてあるし、物理も剣はおろか、大砲を撃たれたとしてもビクともしないくらいには頑丈に仕上がっている。魔法もゴードンの魔力を持ってしても壊せないだろう。もし、私レベルの魔力の持ち主であれば魔障壁など無意味に近いが、そもそも同レベルの人物がいたら私はお役御免のはずなので、狙われることはないだろう。


未だに魔獣が空を飛んでいることを見ると、恐らくまだゴードンは私を諦めてはいないはずだ。


「ところで、今日は街で何をする予定ですか?」

「今日は今後もアレスに色々と来てもらうだろうから街の案内と、足りなかった香辛料を買うのと、もし移動書店が来ていたらそこも寄りたいなーって」

「結構盛りだくさんですね。では、早めに食事を済ませないとですね」


そうだった、1人で来るときとは違い、あまり長居はできないのだった。自分で言っていたにも関わらず、すっかり街に来たことで舞い上がって忘れていた。


アレスへかけた魔法はせいぜい目眩し程度、日の入りを過ぎたら消えてしまう。また魔法をかけ直すにしても、こんな人が多い街でかけたらすぐに魔法遣いだとバレてしまう。


この世界で魔法遣いは貴重な存在らしい。そのため、このような僻地に魔法遣いがいるとなると、ゴードンにバレる可能性が高くなる。下手に危険を冒すよりも、なるべく早めに用事をこなして帰るのが最善の道である。


(最終手段はなくはないけど、できれば使いたくない)


移動書店来てないかしら。まだ見てないけれど、来てるといいな。そして本があればいいな。


「なるべく効率的に動くように心がけますので、そのつもりで」

「はい、では行きましょうか」


再び腕を出される。あぁ、エスコートは続けるのね、と多少慣れたとはいえ、やはり抵抗はありつつもおずおずと彼の腕に絡めた。

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