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21 私の世界

とぷとぷとぷとぷ……


まるで深海にでも沈んでいくかのように身体が重い。だが、嫌な重さではなく、ゆっくりと静かに沈んでいくのがよくわかる。


(私はどこに向かっているのだろうか……)


(ここはどこ……?)


ゆっくりと目を開ける。そこは闇だけが覆っていて、自分の姿さえも見えない。真っ暗だ。でも恐くはない、不思議な感覚。


私が一体誰で、ここがどこかというのが曖昧になっていく。


(私は誰……?)


再び目を閉じる。ゆっくりと手探りで記憶の糸を辿っていく。かつての過去、この世界に来るまでの……


「君は◯◯◯◯さ」

「違う」

「いいや、君の本当の名は◯◯◯◯だよ」

「違う、私はその名を捨てた。いえ、私は捨てられた」


そう、だ。私は捨てられた、元の世界の父に、母に、家族に……。


「本当◯◯◯◯は本の虫ね」

「我が一族は創造主の一族。そのような空想の世界ばかりに浸っている者はいらぬ」

「姉さん、いい加減現実を見なよ。あぁ、恐くて見れないか、だって現実の世界で生きていくには無力だもんね」

「「「あははははは!!!」」」


あの頃は邪険にされてばかりで居場所などなかった。居場所が欲しくて、本の世界に浸れば浸るほど嘲笑され、貶された。だから……


「逃げたんだよね、姉さんは。何もかもから」

「……キース」


闇が晴れ、色が戻る。そこにはかつての弟の姿があった。


そうだ。私は元の世界から追放され、逃げたのだ。追放、つまり死から逃れるため、自らの世界を構築し、ここに逃げ込んだのだ。


「父さんも母さんも探してたんだよ」

「嘘つき。……今更、何の用?」

「おぉ、こわいこわい。せっかく遠路遥々弟がやってきたというのに、その言い草?」

「家族だなんて思ってないくせに」

「そういう被害妄想?やめてよね、本当面倒くさい。ま、いいや、とりあえず早く帰ってきてよ。あんたがいないと困るんだよね」

「勝手なことを言わないで。貴方達が私を外へ追いやったんでしょ?!」

「そうだったんだけど、事情が変わったんだ。元の世界の危機でね、創造主の力が必要なんだって。すっごく不本意だけど、ご当主様が一番の適任者にあんたを指名したんだ。良かったね、これで僕達の役に立てるよ?」


はは、と嘲笑するように顔を歪めるかつての弟。その瞳には私を人としてではなく、利用できるモノ(・・)としてしか映っていない。


「それにしてもちょっと見せてもらったけど、随分とまぁ歪な世界だよね、作者が歪んでいるのがよくわかる」

「煩い」

「ここでの生活が幸せすぎて、不安になっちゃったんでしょ?わざと自傷行為みたいな真似してバカみたい」

「煩い」

「で、今は逆ハーレム構築中?彼らにそれぞれ設定を割り振ってイチャイチャする感じ?本当ウケる」

「煩い」

「もういい加減楽しみ尽くしたでしょ?はい、ハッピーエンド。ってことで、撤収ー」

「煩い、黙れ」

「は?誰が僕にそんな口聞いてんの?」


見下すような目。あぁ、私はこの目を知っている。今まで恐怖の象徴だったもの。私を苛むもの。でも、今は……


強く彼を見つめ返す。目を逸らさず、ジッとその瞳だけを射抜く。


「もう今の私は、あんた達が知ってる私じゃない。弱さも苦しみも、全部受け止める強さを身につけた。みんなのおかげで、逃げることの大切さも、向き合うことの大切さも知ることができた。ここは確かに私の作った世界。けれど、私は箱庭を構築しただけで、全ての行動は住人に委ねられている。つまり管理権は既に私の手から離れている。元の世界と同一。私にこの世界を操る権利などない!」

「な!自ら管理権を放棄するなんて馬鹿のすることだ!!」

「どうせあんた達は私のこの箱庭を手に入れたあと、都合よくいじくりまわして、神のごとくこの世界を征服しようとでもしたんでしょう?残念だったね。私は貴方達を拒絶する。この世界と共に私は生きて死ぬ!貴方達になんか渡さない!!」

「お前ごときにそんなことさせない!」


激しく衝撃波がぶつかる。キースの力は強い。確かに以前の世界では劣っていた。でも今は……!


「なっ!にーーーーーー??!!!!」

「あんたじゃ私を倒せない。私はあんたをあんた達を拒絶する。もう二度とこの世界に踏み込まないで!!!」


キースを思い切り世界から吹っ飛ばす。そして、バタンバタンバタンバタンと幾重にも重厚な扉が音を立てて閉まり、元の世界から隔離していく。この世界は絶海の孤島のごとく、もう誰も足を踏み入れることができない。そして誰も出られない。


はぁ……と大きく息を吐く。長い長い夢を見ているようだった。元の世界から逃げ、ゴードンから逃げ、逃げるばかりだった私。そんな私を受け入れてくれた彼ら。私は彼らがいてくれたから、こんなにも成長ができた。


私は私は……


「アリア」


フッと意識が浮上する。あぁ、私はアリアだ。ただのアリアだ。ゴードンとイミュとアレスという家族(・・)に囲まれたアリアだ。


「おかえりなさい、アリア」

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