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14 ゴードンの回想2

翠玉の瞳をした少女は身寄りがないということで、ゴードン自らが養育することにした。周りは反対したが、初めて彼は周囲に異を唱え反抗した。初めて見せる彼の意思に、周りも渋々認めざるを得なかった。


彼女はまるでスポンジのごとく、教えただけあらゆるものを吸収していった。言語、振る舞い、知識、魔法、教えれば教えるだけ彼女は成長し、その様を見るのはとても心地が良かった。


「アリアは本を読むのが好きですね」

「うん、色々考えさせられるから」


彼女はたまに哲学めいたことを言う。感情・思考、今までそれがアリアに存在していなかったかのように、とても興味を示した。また、自分の感情・思考だけでなく、他者の心情や心理などにも関心を持っているようだった。


「ゴードンは何をするのが好き?」

「私は、魔法を研究するのが好きですね」

「魔法の研究?」

「はい。魔法にも相性がありまして……」


話をすれば、ふんふんと一生懸命耳を傾けるアリア。その姿は実直で可愛らしい。ゴードンは彼女の前では本心を曝け出し、気負わず、素直に生きることができた。


「ゴードンは頑張りすぎなのよ」

「そうですかね、そうですね。たまには息抜きをしましょうか。何かしたいことはありますか?」

「お花を育てたいの。さっきこの本で読んで、綺麗な色の花が咲くというから」

「ミンクの花ですね。これは魔法薬にも使えますから、たくさん植えましょうか」

「やったー!ありがとう、ゴードン」


自然と笑みが出る。彼女と一緒にいると心が落ち着いた。本来の自分を出すことができた。


今までしたことのない庭いじりや鳥獣などの観察。魔法薬の生成に、新たな魔法の制作。アリアが一緒なら何でもできた。それが周りの評価が良くなかったとしても、評価などどうでもいいと思えた。だが……


「一体何をしているんだ!」


初めて、父から叱責された。母を見れば、目を逸らされる。ここには、誰も味方してくれるものなどいなかった。


「翠玉の魔女に傾倒して、職務もまともに全うしていないというじゃないか。ゴードン、お前は我が家の代表でその地位にいるのだぞ!お前の評判が落ちれば、即ち我が家の名に泥を塗るのも同じだ!!」

「……申し訳ありません」

「あの魔女がお前を騙くらかしたのか?」

「いえ、そんな……アリアはそんなことしません」

「ではなぜ、今まででやってきたことがやれぬ!寛大な王も、そろそろお前に見切りをつけるぞ」


いっそそれもいいかもしれない、と思ってしまった。宰相という地位を剥奪され、ただのゴードンとしてアリアと一緒に住むというのも良いのかもしれない。彼女とただのんびりと、田舎で暮らせたらきっと幸せだろう。


だが、それは叶わぬ夢であると分かっていた。私がこの地位を剥奪されれば、きっとアリアは有益であれば魔女として使役されるが、無益であるとなれば処刑されることだろう。


そもそも私がこのように堕落してしまったせいで、彼女の評価は地に落ちているも同然だ。


「今までの醜態、大変申し訳ありませんでした。すぐさま汚名を返上すべく、私ゴードンは王のために働きましょう」

「分かってくれたならよい。王は目下の悩みである隣国、バラゼルを対処してくれとのご所望だ。やれるな?」

「承知致しました」


ゴードンは逃げ出すことなどできなかった。家柄、地位、周囲からの圧力、ゴードンを取り巻く環境は彼の枷となって重くのしかかる。


「逃げればいいのに」


以前アリアが読んでいた絵物語の結末。逃げ出さなかった王子、逃げ出すことができなかった王子。それは自分にも当てはまっていることだった。


(アリア、私は逃げ出すことができぬ愚か者なのです)


「お話、終わった?」

「えぇ、終わりましたよ」


自室へと戻れば、絵物語を読んでいた瞳がこちらを向く。純粋な翠玉の瞳が眩しい。ジッと見ていられなくて、ゴードンはアリアを抱きしめた。


「どうしたの?大丈夫??」

「えぇ、大丈夫ですよ。ただ、今はこうさせてください」

「……よしよし?」


まるで大人が子供をあやすかのように、まだあどけなさが残る手で頭を撫でられる。


私が彼女の居場所を作ってあげよう。そして、翠玉の魔女は有益であるということを見せしめよう。そうしたら、私はずっと彼女といられる。


ゴードンはアリアの首筋に口付ける。それは印であり呪だった。


「ん、何?」

「貴女と私を繋ぐ魔法です」

「ふーん。こういう魔法もあるのね」

「はい。以前教えた、魔力補充のようなものです。しますか?」

「しない」

「おや、残念です」


苦しくてモヤモヤしていた心が晴れていく。


(私はきっと彼女さえいれば大丈夫だ)


この時は、彼女がいなくなるなど露ほども思っていなかった。

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