13 ゴードンの回想1
成績優秀、容姿端麗、おまけに大貴族で権力もあるとなると、誰からも声をかけられ、引く手数多だった。どこへ行ってもちやほやされ、そんな周りに嫌気がさした。
(どうせ、皆この付属品にしか惹かれるものがないのだろう)
実際に気の置けない仲の友人など存在しなかった。誰も彼も、恩恵を得たいがために自分に近づいていることなど、ゴードンは十分に理解していたからだ。
相手の欲が見える。それは魔力が強すぎるがゆえの弊害だった。
家族もまた然りである。大貴族といえども、今まで魔法遣いなど輩出したことのない我が家は大いに沸いた。両親はしきりに私を褒め称え、周りにこれでもかと自慢した。まるで宝石か何かのように。
また、遠縁というが、果たしてどこが縁続きなのかよくわからない親類まで出てきて、ゴードンとの交流を求めた。皆、欲深で、愚かだった。
誰も私を理解してくれない。実際は面倒くさがりで自信家だが小心者で、臆病な性格など誰もわかってくれない。人前に立つのが恥ずかしい。できれば延々と部屋の中に籠って魔法の研究がしたい。
そんな望みなど叶えられる者がいるわけでもなく、また自身も願いを言うことすらできず、流されるままお膳立てされるがまま、宰相の地位になってしまった。最年少で宰相など誉れ高いとさらに両親は色めき立ったが、自分には憂鬱でしかなかった。
とてもプライドの高い王と姫。自分の上に立つ彼らは、無理難題ばかり突きつけてくる。そして、それに応えることが自分の役割として与えられた枷であり、それに応えることができるのが自分しかいないことなども理解していた。
(反吐が出る)
性格が悪く、口が悪いことなども誰も知らない。人徳があって物腰が柔らかで、誰に対しても丁寧に振る舞うというゴードンという人物を演じる。それが、周りが求めているものだから。
周りにも自分にも辟易していた、その時だった、彼女に出会ったのは。
「女、の子……?」
遠征の際、用を足すために入った森の中。そこにぽつんと座っていた少女は、綺麗な翠玉の瞳をしていた。ぼんやりとした様子でこちらを見つめる彼女はとても美しく、陶磁器のような白い肌でまるで作り物のようだった。
恐る恐る近づくと、ジッと自分を見つめる瞳。触れるとじわっと人肌を感じ、彼女が人形ではなく血の通った人だとわかった。
「キミはどこの子ですか?」
言葉が分からないのだろうか、瞳はこちらを向けたまま微動だにしない。
「お父さんやお母さんは?」
「…………」
普段ならこんな訳の分からない少女など捨ておくのだが、このときはなぜか見捨てることができなかった。何より、本来反発し合う魔力がまるで溶け合うかのように馴染むことが気になった。
きっと魔力を持つということは魔女だろう。どこかの人攫いにでも連れて来られたか。
「よし、歩けるかい?大丈夫、私が安全なところへ連れて行こう」
大人しく従う少女に笑みが溢れる。そしてゴードンは、自分がそんな表情をしたことに驚いた。
「キミは不思議な子だね」
「?」
不思議そうに自分を見つめる彼女を連れて、自陣へと戻る。それが翠玉の魔女、アリアとの出会いだった。




