12 報告
「人を逃すのが得意だな、ゴードン」
「大変申し訳ございません」
謁見の間に入るや否や、王からの嫌味が飛んでくる。苦虫を噛み潰したような気持ちになるが、おくびにも出さずに表情は変えないように努める。
それをつまらなそうな表情で見る王。彼の様子を察するに、怒りがあるというよりもただ面倒ごとが長引くことへの不満を抱いているようだった。
「で?行方は掴めそうか?」
「はい、最後に目撃されたのがこの国境近くの村のようですので、そこからあまり遠くへは行ってないかと。偵察用の使い魔も飛ばしておりますので、じきに見つかるとは思います」
「だといいがな。お前の執心していた娘も見つかっておらぬし、あまり期待せずに待っておる。あぁ、だがヴィヴィアンナが煩くてかなわんから、適当に男を見繕って宛てがってくれ。そろそろ年頃だ、どこかの貴族か他国の王子で落ち着いてくれるといいんだがな」
「承知致しました。早急に手配致します」
「分かっていると思うが、くれぐれも弁えた男にしろよ。下手に野心があるやつを引き立ててもいいことがない」
「はい、もちろん、承知しております」
その言葉は一体誰に向けられたものなのか、ゴードンは少々勘繰りながらも王から下がるよう手をヒラヒラされ、頭を下げたまま後ろに下がる。退室後、腹心を呼び「早急に、絵物語の登場人物に似たような人物を手配しろ」と指示するとそのまま自室へと戻った。
「また何かあったのか」
「しっ!宰相様に聞こえたら大変よ」
ドカン、どごんっと大きな音を立てる宰相室。触らぬ神に祟りなしとばかりに部屋前を通る人はわざと部屋の前を素通りする。このような状態の宰相ほど危険なものはないと皆が理解しているからだ。
特にあの魔女がいなくなってからの荒れようは酷く、今まで温和な性格で有名だった彼がまるで何かに取り憑かれ、別人になったかのごとくの変わりようだった。
そして過去、下手に首を突っ込んだやつのその後を見たものは誰もいない。つまり、そういうことである。
そのため、従者やメイドなど下々の者は進んで彼と関わろうとはしなかった。
「……あぁ、どいつもこいつも面倒なやつらだ」
一通り暴れたあと、指をぱちりと鳴らせばグシャグシャだった室内はパッと元に戻る。魔法とは実に便利なものである。だが、その魔法を持ってしても叶わぬものなどたくさんあった。
「アリア」
彼女は一体どこに行ったのだろうか。密かに付けていた目印になる呪も、綺麗サッパリ消えてしまっていた。過去の魔力の痕跡も跡形もなく残っておらず、まるで元から存在していなかったかのように、何も残されていなかった。
頼りにしていた奥の手も、未だに音沙汰なしである。正直ここまで様々な予防線を張っていたにも関わらず、こうも簡単に逃げられてしまったことが解せぬ。
(そもそも、なぜ逃げたのだ)
ここには何も不自由などなかったはずだ。何が不満だ、何を他に望む。
ゴードンは頭を抱える。彼女に大きな期待や希望を抱いていたがため、より失望が大きい。
彼女さえいれば、このようにあの嫌味でプライドだけ高い親子の元で仕えるということなどなかっただろう。彼女さえいれば。
再び図書室へ向かうために部屋を出る。数人と目が合ったが、皆一様に顔を青ざめさせている。
(そんなに私が恐いか)
自嘲気味に感傷に浸りながら、ゴードンは無表情のままアリアの手がかりを求め、図書室へと向かった。




