武人の美女
「そういえば、」
ふと、気になっていたことを思い出し神楽へと目を向ける。
「扉に居た女の人って誰?」
「「え?」」
え?知らないの?と言いたげな二人の表情に思わず首をかしげる。
なんだ?有名人なのか?
「…ああ、そうかあ。結城は関わりのある人しか覚えねえからな」
「有名人の筆頭角の一人なんだけどねえ」
「役員くらいなら顔を覚えている」
「いやいや、集会の時にも何度か壇上に上がってたぞ」
「え?なんで?」
「あの人は先輩の逢坂 霞さん。この学校の剣道部主将で全国常連者なんだよ」
神楽と同じく扉に居たもう一人の美女は逢坂霞というらしい。
なるほど、知らんな。
長いストレートな黒髪をポニーテールに纏めた凛とした眼差しが印象的な大和美人。姿勢が正しく相手の目を見て話す姿は武人の雰囲気を感じさせる。
なんで剣道部のすごい先輩が放課後にこのクラスに?と疑問に思ったら思考を見透かしているようなタイミングで夜陣が口を開いた。
「あの人、蓮に剣道部に入って欲しいって入学してからずっと諦めずに時々今みたいに勧誘に来るんだ」
「ああ、そういえば桐生蓮って剣道すごいんだったっけ」
「ありゃ化け物だぞ」
「俺から見たら剣道をしてなくても十分人間離れしてるよ」
「あれ、結城って武道に精通してる人だったか?」
「いや、知らん。だけど、なんとなく油断なくて気持ち悪く見えるんだ」
「そんなこと言うお前も十分変人だろ」
桐生蓮をチラ見してすぐに顔をそむける。
ああ、やっぱり苦手だ。態度とか顔とかじゃなくて…相容れない存在って思う。
僻んでるわけでも羨ましくて嫉妬してるわけでもないのに、ただ不快なんだ。
心の奥に溜まったモヤモヤを薄めるように深く息を吸って日誌へと目を向けた。
――――直後だった。
視界を塗りつぶすまばゆい強烈な白い光。
目を潰しかねないほどの強さなのに目には激痛は走らない。
ぐにゃりと空間がねじ曲がったように体の平衡感覚が狂い始め、身体の内臓に違和感が走る。
「うっ…、」
平衡感覚による酔いと内臓の違和感に口を押えるが苦悶の声は喉の奥から漏れる。
気分の悪さがピークになりそうなとき、頭の奥で機械音声の女の声が響いた。
<異世界召還の魔法が発生しました>
こうして、冒頭へと戻る。