苦労性とは友達
有名人4人の他にもちらほら残っている者もいるけど補習課題や提出期限が迫っている宿題をしている者が多い。
だが、それもすぐに終わり、桐生蓮や花咲香凛らに挨拶して帰っていた。人気者も大変だなあ。
「おい、人間観察してないでそろそろ日誌終わらせようぜ?」
「あ、悪い悪い」
「結城って時々ぼんやりしてるよな」
「夜陣、すぐに悪態をつくのやめなよ。誤解が加速するよ」
「うっせ、ほっとけ。それに悪口じゃないだろうが」
「まあね、でも気を付けておいた方がいいと思うぞ。ほら、今も朝倉さんこっち睨んでるみたいだし」
「げっ、まじか」
夜陣徹と対面に座りながら日誌を見下ろして小声で話し合う。
何度か日直や出席番号でのグループの組み合わせなどで一緒になったことのある俺…結城 晴流は夜陣徹と軽口を互いにつけるくらいには仲が良い。
俺は桐生蓮たちとは親近感が持てず苦手だったから苦労している夜陣は気にかけてしまう。夜陣は時々慰め励ますくらいには気に入っている俺の友達なのだ。
夜陣も桐生蓮たちよりも自分を大切にしてくれる友人は有難いらしく日直やグループで一緒になった時はリラックスして気兼ねなく話しているようだ。その話のほとんどが苦労話や愚痴なのだから夜陣の気苦労具合に俺は心の中で合掌してしまう。
ちなみに、先程の3人の情報のほとんどが夜陣の愚痴から得たものだったりしちゃうんだよね。俺、基本的に有名人の情報に興味ないし。好みではないから惚れもしないしな。
夜陣は優れすぎた幼馴染と己の格差を長期間受けてきた影響から口調が荒っぽい。俺はそれが夜陣っぽさだと受け入れているが聞いている人すべてが同じように受け入れるわけがない。
実際に、朝倉さんは桐生たちに気付かれないように俺と談笑している夜陣を睨んでいた。
恐らく、桐生たちを待たせている分際でとか、また汚い口調を使っているとか、夜陣の短所をこじつけるように目ざとく見つけたつもりなのだろう。
悪者に仕立て上げて桐生蓮への自分の評価は正しいことを確実なものにして自分を安心させたいってところだ。
成績優秀でも人間としての器の小ささが見え隠れするその態度に俺は思わず顔を顰めてしまう。
「結城、顔顔。顔ヤバいぞ」
「元からこんな顔だし」
「いやいや、お前イケメン予備軍くらいには整ってんのに勿体ねえことすんなって」
「兄貴の十分の一くらいには整ってるってくらいには自覚してる」
「…お前の兄ちゃんどんだけ美形なんだよ」
「リアルハーレムを作れるくらいにはイケメンだな」
「まじか!?」
「おう」
ほとんど家に居ない兄貴を思い浮かべながら遠い目をする。
そういえば桐生蓮とはちょっとだけ似てる性格してんだよなあ。だから苦手意識あんのかもな。兄貴が関わってくると毎回面倒ごとに巻き込まれるから苦手になってしまったが兄弟としての情があるから嫌いに離れないのが悔しい。
「そういえばお前の家って兄貴だけなんだったか?」
「まあな。…その兄貴が放浪癖があって帰ってくる度にハーレム要員が増えてるこの恐怖、分かるか…?」
「お、おう、結城の兄貴に比べれば蓮がマシに見えてくるわ」
「だろ?でも、兄貴は天然じゃねえしレイ姉が居てくれてる分マシだよ」
「ん?レイ姉? 結城に姉ちゃん居たのか?それとも兄ちゃんの嫁か?」
「いや、兄貴は独身だよ。姉呼びは癖だな。小さいころからの知り合いだし」
「てことは俺らと歳近いのか?てかやっぱり美人なの?」
「いや、レイ姉の年齢は知らねえけど俺らとは歳離れてるぞ。あと、超美人だけどあれは口説くのは無理だと思うからおすすめしねえわ。でも、機会があったら会せるよ」
「美人なら口説きたくねえからその心配はいらねえよ。でも目の保養のためにも会うの楽しみにさせてもらうぜ」
「美人は嫌なのか?普通逆じゃね?」
「…アイツらと付き合いがあったらそう思うのも無理はねえだろうが…。俺は身の丈に合った人と付き合いたい」
「本当に苦労してんなあ。ほれ、お菓子やるよ」
「あざーっす、結城って本当にチョロイな!」
「おいこら、俺の善意返せ」
だらだらとどうでもいいようなことを気ままにしゃべりながらも一応日誌の空欄を埋めていく。
ちなみに夜陣はポリポリとちょっと幸せそうにお菓子を食べてる。美味しそうでなにより。ストレスは適度に発散しろよ。
夜陣と適度に楽しく話していると、扉の方がなんだか騒がしくなってきていた。
不意にそちらへと視線を向けると、見知った顔の美少女と見知らぬ美女がそこに居た。