俺、召還される
召還魔法
ゲームをしたことがある人なら、その名前くらいは聞いたことがあるだろう。
異世界または異空間から頼りになるモンスターを呼びだして敵を倒すっていう心強い魔法だ。
俺だってゲームしてた頃は使ったことあるし、よくお世話になったものだ。
そう、俺は使う側。召喚獣を呼び出す側であって、呼び出される側ではないし、呼び出されることなんてあるはずがない。だってゲームの話だからな。そう、このときまでは…
俺はトイレに行っていたはずだ。恥ずかしながら大きい方だ…で、うつむきながら考え事をしていた。大した考え事じゃない。土日の予定どうしようかな~ってことを考えていただけだ。
で、まぁ、異変に気づくわけだ。便器に座ってたはずなのに便器がない…空気椅子状態だ。それにやけに風通しのいいトイレだなと。ちなみに、うちのトイレはちゃんとドアついているし、壁も天井もある。風なんて窓開けない限り入ってこない。だから周りを見回してみた。
そこは辺り一面木で覆われていた。森の中だった。日の光はあるから、夜ではない。もっと周りを見ようと思って後ろを振り返ったら人がいた。女が二人。しかも、こっちをものすごーく変な顔で見ている。まぁ、俺も変な顔で見るよ、そりゃ…で、目が合えば当然こんな反応になる。
「うっ、うわあああああああ」
これは俺の叫び声
「きゃああああああああああ」
これは女どもの叫び声
「ちょっと!私は屈強な戦士を召還したのよ?それが何であなたみたいな貧相な体つきで、その…お尻丸出しでこっちに向けてるのよ?ていうか、あなた何者?」
まだまだ分からないことだらけだが少し理解した。俺がこいつによって呼び出されたこと。信じがたいが人を召還するということができること。そして…トイレにいようがオ○ニーしていようが呼び出される側には拒否権がないということだ…
「まてまて…そもそもここはどこで、あなたは?」
ものすごく頭の中はパニックなんだが、可能な限り冷静を装い聞いてみる。
「召喚獣に質問されるとか初めてなんだけっど…質問は後にしてまずは敵を倒してくれる?見かけはともかく、召還されてくるくらいだからそれくらいはできるでしょ?」
女はあきれ顔で面倒くさそうに俺の後ろを指さした。戦えって言われても、生まれてこの方ガキの頃に喧嘩したくらいしか経験がないんだが。で、指さされた方を見てみると、逞しい体つきの男たちが、ぽつんとつったっていた。目が点である…まぁ、突如脱糞中の男が現れたらそうなるわな。
どうも、俺はこいつらと戦うために呼び出されたようだが、どうしてか女のほう敵意が沸いてしまうのは気のせいだろうか。
「どっ、、どうも初めまして!」
これからどうなろうが、礼儀は大事だしな。何より初対面の相手には礼儀正しくしないとな!と思い、俺なりに精一杯の思いで挨拶してみる。相手もまだ俺を敵と認識できていないようで、戸惑いながらも挨拶を返してきた。
「おっ、おう」
でだ。まずはじめに俺にはやらねばならないことがあった。これから戦いになろうが、どうなろうが文明人としてやるべきことが俺にはあった。
「あの、、ズボン履いていいですか?」
「…」
その場をものすごーく気まずい沈黙が支配した。女どもは顔を赤くし、それとともに、あきれいらだち、男共はますます変なものを見る目で、少し哀れみも込めて俺を見てくる…
泣きたいのはこっちだ…
「もぅ、さっさと履きなさいよ!あなたたちもいいわよね?」
耐えかねた女がそう言った。
「おっ、、おう」
さて、無事ズボンを履きおえた。とりあえず、下半身丸出しでどうにかなるという痴態は免れたわけだが、これからどうするか…見たところ男の人数は4名。それも全員俺より強そうだ…そもそも戦う理由もないのだが。かたや、俺を呼び出したのは女二人。しかも性格が悪く俺はどちらかというと男共よりこいつらに敵意がわいてくる。戦うというプランが取りづらいとなると逃げるというプランになるわけだが、ここがどこだか分からんし、逃げ出せたとしても自分の家にはどうやって帰れるのか検討もつかない。
ただ、俺は召還されてきたのだから、何らかの条件(たとえば敵を倒すとか)が解除されれば元の場所に戻れるはずだ。俺を元の場所に戻せるのは召還した女どもだから、一人で逃げてもだめだ。
となると、俺のとる道は一つ!
「さて、準備はできました。では、お取り込み中に部外者の私がいても邪魔でしょうから、失礼させていただこうかと。お嬢様、私を元の場所に戻していただけますか?」
俺は努めて紳士的にお願いしてみた。
「はぁ!?ちょっとなに言ってんのよ!あなたはあいつ等を倒すために呼んだんだから、戦いなさいよ!戦わずに戻りたいとか言う召喚獣なんて初めてなんですけど!」
「いや…そもそも俺戦ったりしたことないし、武器もないし、戦う理由もないし…」
「ゴタクはいいから何とかしなさい!」
「いや…ですからね?ていうか呼ぶ相手を間違っている気がするんですけど…」
「なに?私の呪文が間違っていたとでもいうの?ごちゃごちゃ言わずにさっさといけーー」
温厚な俺でも堪忍袋の緒が切れたわ…
「あーー、うるせーー!てか、人がトイレでくつろいでる時に勝手に呼ぶなよ。そもそも呪文とかなんとか、そんなのはゲームの世界で十分なんだよ!100歩ゆずって俺を呼んだのが俺好みの女の子ならともかく、こんな性格悪い女ならなおさら協力なんてできるかぃ!」
「きぃぃぃーーー、言わせておけば言ってくれたわね!」
俺らが言い争っている間、男共は呆然と立ち尽くすしかなかったのだが、さすがにつき合いきれなくなったのか話に割り込んできた。
「あのよう、そういう話はよそでやってくれや。で、お嬢さん方はさっさと俺らに捕まってくれねーかな?それと、そこのお前。お前は着ぐるみ全部おいていけや」
どうもこの方々は盗賊かなんかなのだろう。確かに全員悪そうな顔してるし、女共を見ながらニタニタ笑っている。こりゃ、捕まればなにをされるのか分かったもんじゃない。しかし、俺は服を脱いでいけとか…裸にされてこんな森の中でいったいどうしろと!?
そうこうしているうちに、男共、いや盗賊共は俺たちを取り囲むようにじりじりと近づいてきた。
俺を召還した女もさすがにやばい状況を察し、顔をこわばらせて盗賊たちと対峙している。
「へへへ、悪いようにはしないから大人しくしてくれや」
男の一人が女に手を伸ばそうとしてきた。
「イヤッ、触らないで!」
男の俺でもこんな奴らにふれられたくないと心底思うくらいだから、女の場合はなおさらだろう。俺たちはじりじりと後退しつつ、盗賊たちと距離をとったが、ついに取り囲まれた。さて、女どものこれから先も心配ではあるが、まずは自分のことだ…俺はどうなっちゃうのかと。なので勇気を出して聞いてみることにした。
「あの、私はどうなるのでしょうか?一応召還されてきたみたいだし、できれば素直におうちに帰りたいのですが…」
「おめーは着ぐるみ剥いだら後は好きにしな。いついなくなるか分からない奴は奴隷としても売れないからな。」
ほっ、どうやら命だけは助かるみたいだ。と思った矢先…
「お頭、売り抜けちゃえばこっちのもんじゃないですか」
盗賊の中で一番頭の切れそうな男が余計なことを言ってくれやがった。。
「おー、確かにそれもそうだな!じゃ、全員生け捕るのが一番ってことだな。というわけで、お兄ちゃんよ。残念ながらおうちには返せないわ。」
あかん、絶体絶命のピンチだ…どうするか?戦うにしても素手と武装した盗賊相手では勝負見えてるし…3対4では分が悪すぎる。詰んでる…
俺がうだうだ考えている間に、女二人のうち、これまで無口だった方が初めて口を開いた。
「仕方ありませんね。召還魔法がうまくいかなかった以上、私が対処するしかありません。」
そういって、手にしている杖を振り上げ何か念じている。こいつも魔法使いか何かか。
盗賊たちは警戒しつつも間合いを詰めてくる。もう一人の女の召還術(俺を呼んだ魔法ね)をみた後ではこの女の魔法も大したことないとタカをくくっているようだ。
そして、そうこしているうちに女の魔法が準備できたようだ。
「雷鳴よ、我の敵を討ち滅ぼせ!サンダーブラスト!」
すると、魔法を発動した女の周囲に雷を帯びた球体がいくつか出現し、放電を始めた。放電がバチバチバチッと音を立てて盗賊たちに襲いかかる…えっと、俺にも…
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」
「ひぃぃぃぃぃ」
盗賊達(俺含む)の悲鳴声が森の中に響きわたった。体中に電撃が走り、俺たちは意識を失いそうになった。
俺は意識を失う前に一言言いたいことがあった。これは絶対に言わなければならないことだった。
「俺を召還する必要ないじゃん!」
「そっ、、そうね…」
女どももごもっともと思ったらしく、気まずそうに答えた。
はじめからその魔法使えよオイ…俺は薄れゆく意識の中でそう思った。