ちっぽけな命 【後】
これは「ちっぽけな命」の後編です。
未読の方は前編からお読みください。
「おい、聞いたぜ」
「何をだよ」
相も変わらず暑苦しい奴だ。
今日は何が起こるのか一切知らない。
昨夜は演算をする気分にはなれなかったのだ。
昨日は猫を埋め、バイトに行き、珍しい遅刻のせいか
「どうしたんだ?何かあったのか?」
と、先輩に心配されてしまった。
そのまま何事もなくバイトを終え、翌日の演算をすることなく就寝した。
やはり不確定な未来というのは怖い。この先の会話を暗算で出してしまおうか。
いや、こいつと会話しながらでは恐らく無理だ。
「道路で轢かれた猫をどこかに運んでったらしいじゃんか」
しまった。猫の死ぬ未来に動揺して、その周囲の演算を怠ってしまったらしい。
「それがどうしたんだよ、ただ邪魔だったからどかしただけだ」
「どかしただけで森林まで入っていくか?」
クソ、誰だ。そんな所までついてくるなんて。
「埋葬してやったんじゃないのか?優しいトコあんじゃん」
視界が途切れた気がした。
気付くと俺は机を大きく叩き、怒鳴り散らしていた。
「優しければ助けてたさ!!」
教室中の視線が俺へと向けられる。
驚きと困惑の視線、だが今の俺には軽蔑や脅迫のように感じられる。
やめてくれ―――。
そんな目で見ないで―――。
俺のせいじゃない、俺には何も出来なかったんだ―――。
黙って俯いたまま、俺は教室を出た。
あの視線に耐えられない!わからないことが怖い!
そのまま学校まで飛び出して、近くの商店街まで来てしまった。
「また逃げた」
誰の視点で、誰に言っているのか。
計算しなくては。
未来を確かなものに。
分からない事は、とてつもなく、怖いんだ―――。




