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リトリビューション  作者: セスラ
【一章】平凡な毎日
4/26

ちっぽけな命 【中】

これは「ちっぽけな命」の中編です。

未読の方は前編からお読みください。。

「あの猫、今日で死ぬのか」

鬱々とした気持ちで呟く。

それとは裏腹に、朝日は清清(スガスガ)しく室内を照らす。

昨夜に計算した未来は悲惨なものだった。


『正午過ぎ、駄菓子屋前の道路で猫が()かれる』


それ以外はいつも通り。

ただ、あの猫が死ぬだけだ。



「ごめんな、その時間、俺は学校にいるんだ」

余計なことはできない。知っていれば対策が打てる可能性はある。

しかしそれをしてしまえば、未来が変わる。

猫の死、以上の悲惨な未来が引き起こされるかもしれない。




無力―――。

自分の力のなさが情けない。


仕方ないことだ―――。

そう言い聞かせる。自分を(ダマ)すというのはどうも苦手だ。


轢かれないかもしれない―――。

都合のいい逃げ道。それが起こり()ることはないと知っているのに。



――――――――――――――――――――――――――――――――――


「あぁー、やぁっと学校終わったー」

「帰りカラオケ行かないー?」


クラスで聞こえる生徒たちの声を聞き流し、俺は足早に帰路につく。

あの猫はどうなったのだろうか。



自然と足取りが早まる。

(ワズ)かな希望を抱いて。

それは今までの演算結果が打ち砕いているのに。




最初に目に入った光景は、赤。

道路の脇で横たわる、猫だったもの。


目が飛び出し。口から何かもわからないモノが飛び出している。腹が裂け、臓物が出ている。

それを避けるように何台かの車が過ぎ去っていく。

下校中の小学生が気持ち悪いモノを見るように声を上げている。



「やっぱダメだったのか」

そう言うと俺は猫を抱えた。

わかっていた。だからショックは少ない。

けれど、やはりクるものがある。


「埋めよう」

『これ』は俺が殺したようなものだ。

その責任感がありながら、俺は何故助けようとしなかったのだろう。


生温かい。命の終わりを肌で感じる。


「ここでいいかな」

ここは道路から離れた場所にある小さな森林。

その奥にある大きな木の根元。


俺は無心で、素手で、その下を掘った。




心が痛まないのか―――。

痛い。分かっていても、痛い。


お前が殺した―――。

違う、そうかもしれないけど、違う。



穴に猫を置き、土を被せる。

何とも言い難い、胸糞の悪い気分だ。




猫を埋め終り、公衆トイレで手を洗いながら呟いた。

「バイト、遅刻だ」



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