ちっぽけな命 【中】
これは「ちっぽけな命」の中編です。
未読の方は前編からお読みください。。
「あの猫、今日で死ぬのか」
鬱々とした気持ちで呟く。
それとは裏腹に、朝日は清清しく室内を照らす。
昨夜に計算した未来は悲惨なものだった。
『正午過ぎ、駄菓子屋前の道路で猫が轢かれる』
それ以外はいつも通り。
ただ、あの猫が死ぬだけだ。
「ごめんな、その時間、俺は学校にいるんだ」
余計なことはできない。知っていれば対策が打てる可能性はある。
しかしそれをしてしまえば、未来が変わる。
猫の死、以上の悲惨な未来が引き起こされるかもしれない。
無力―――。
自分の力のなさが情けない。
仕方ないことだ―――。
そう言い聞かせる。自分を騙すというのはどうも苦手だ。
轢かれないかもしれない―――。
都合のいい逃げ道。それが起こり得ることはないと知っているのに。
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「あぁー、やぁっと学校終わったー」
「帰りカラオケ行かないー?」
クラスで聞こえる生徒たちの声を聞き流し、俺は足早に帰路につく。
あの猫はどうなったのだろうか。
自然と足取りが早まる。
僅かな希望を抱いて。
それは今までの演算結果が打ち砕いているのに。
最初に目に入った光景は、赤。
道路の脇で横たわる、猫だったもの。
目が飛び出し。口から何かもわからないモノが飛び出している。腹が裂け、臓物が出ている。
それを避けるように何台かの車が過ぎ去っていく。
下校中の小学生が気持ち悪いモノを見るように声を上げている。
「やっぱダメだったのか」
そう言うと俺は猫を抱えた。
わかっていた。だからショックは少ない。
けれど、やはりクるものがある。
「埋めよう」
『これ』は俺が殺したようなものだ。
その責任感がありながら、俺は何故助けようとしなかったのだろう。
生温かい。命の終わりを肌で感じる。
「ここでいいかな」
ここは道路から離れた場所にある小さな森林。
その奥にある大きな木の根元。
俺は無心で、素手で、その下を掘った。
心が痛まないのか―――。
痛い。分かっていても、痛い。
お前が殺した―――。
違う、そうかもしれないけど、違う。
穴に猫を置き、土を被せる。
何とも言い難い、胸糞の悪い気分だ。
猫を埋め終り、公衆トイレで手を洗いながら呟いた。
「バイト、遅刻だ」




