2度目の遅刻
何故だ。何故なんだ。
みのるが俺を睨み付けている。
必死に弁解しても、話が通じない。
違うんだ。俺だって、頑張ったんだよ。
―――――――――――――
「どいてください!」
「通して!!」
救急隊員が大声をあげて来る。
周囲は野次馬で溢れている。
みのるを担架で乗車させる。
慣れた手つきだ。流石プロである。
「君も病院まで着いてきてくれるかい?」
「わかりました」
隊員の人にそう言われた。
同乗者が他にいないのだから仕方がない。
救急車に乗るのは初めてだ。
まさかこんな形で乗ることになるとは
車内で、みのるは腕で目を隠すようにしていた。
小さくすすり泣く音が聞こえる。
足の事だろう。
痛み、だけではないよな。
後遺症が残ると、素人目に見てもわかる。
みのるはもう、サッカーは…。
病院に着くと待合室で長いこと待たされた。
今頃『手術中』の明かりがみのるのいる部屋を守っているだろう。
「○○病室にみのる君はいます」
看護婦にそう告げられ、俺はみのるの病室へと向かった。
ドアを開ける。中から重苦しい空気が舐め回すように俺を包んだ。
そこには虚ろに窓の外を眺めるみのるがいた。
「大丈夫…か…?」
「俺、もう、サッカーできないらしい」
何かを噛み殺すように言い放つ。
「リハビリして、何とか日常生活に戻れるそうだ」
「そうなのか・・・」
かける言葉が見つからない。「知ってた」など言えるわけもない。
彼の選手生命は今、終わってしまった。
「随分落ち着いてたよな」
「え・・・?」
声色が違う。いろいろな感情が混ざったような声。
「お前、ひょっとして見てたのか?」
その言葉に心臓が跳ね上がる。
俺は何も見てない、知っていただけだ。でも―――。
「俺だって頑張ったんだよ!」
必死に吐き出した言葉は、見事に墓穴を掘った。
みのるの眉が少し持ち上がった。
「頑張ったって何だよ…」
見開いた目で俺を見ている。希望の消えた瞳で。
「やっぱりお前、助けてくれなかったのか!?ただ見てるだけだったのかよ!!」
その言葉は、俺の心を引き裂くのに十分だった。
そう、知ってたのに助けられなかった。ただ見ているだけ、無力な自分とその結果を受け入れただけ。
「どうしようも無かったんだよ!」
俺は何を言っているんだ。これ以上言葉を口にしてはいけない。わかっていても言い訳が止まらない。
「走ったんだよ!抵抗したんだ!それでも…!間に合わなかったんだよ!」
みのるが困惑した表情で俺を見ている。
『八つ当たりした相手がそのストレスの原因だった』なんて顔をしている。
短い沈黙が流れた。先に動いたのは俺だった。
いや、動いたのではなく、逃げた―――。
何も言わず、言えずに静かに病室を後にした。
ふわふわした足取りで外へと向かう。
病院を出ると携帯の不在着信に気が付いた。
そして無気力に呟いた。
「バイト、遅刻だ」




