変化の代償
翌日、店長にシフトを増やしてもらえた。
やはり昨日の影響で未来が変わったらしい。
未来は変えられる。
それだけでも、俺にとっては希望になった。
あの頃のような、あの時のような。
あんな思いは、もうしたくない。
これがズレの始まりだったのかもしれないね―――。
一日先ではなく、全て、死ぬまでの未来を―――。
君は演算するべきだったんだよ―――。
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(3日後)
母はあれから無気力気味だ。
影を感じる表情しか見なくなった。
俺が支えてあげなきゃ。
今までの分、俺が。
その為に今日もバイトに向かう。
昼からなので午前は空いている。
「また来てしまった」
病院に向かって呟く。
泣きじゃくってから、アキさんに会っていない。
どんな顔をして会えばいいのかわからない。
それでも彼女に会いたい、そう思った。
受付を通り、病室へ向かう。
途中看護師と簡単な挨拶を交わした。
そして扉を開けた先に、退屈そうな彼女が居た。
何故独りの時だけ、あんな顔でいるのだろう。
今にも消えてしまいそうな、弱々しい姿で。
「また来ちゃいました」
「あ!セラくん!」
一転して明るくなる。
もしかして無理に笑っているのだろうか。
「先日はありがとうございました」
「いいのいいの、元気そうで何より」
嬉しそうな顔。本心に思えるが、その裏を俺は知らない。
知ってはいけない。そんな気がした。
座るよう促されたので、ベッドの横に座る。
何気ない会話。
病院食が不味いとか、中庭は日向ぼっこに最適とか。
こんなやりとりが楽しかった。
「アキさんって強いですよね、とても」
思っていた事をぶつけてみた。
「え?そうかな?」
俺から見たアキさんはとても強い。
現実を知り尚、生きているのだから。
「でも握力20も無いよ?」
「それ本当ですか・・・?」
そうじゃない、そうじゃないけれど、非力ってレベルじゃないだろう。
小学生くらいじゃないか。
「それは・・弱いですね」
「そ!私はか弱いの」
「それでも、強いんです」
「えぇ?よくわかんないよ~」
首を傾げる仕草をする。
幼げな雰囲気も感じられる。
「俺はそれに助けられたんですよ」
「そうなの?なら、また助けてあげる」
「その時は是非お願いします」
お姉さんに任せなさい。と言わんばかりのドヤ顔だ。
どこまでも不思議な人だな。
「そろそろバイトなんで、行きますね」
「そう、頑張ってね」
寂しそうに別れを告げる。
許されるのなら、もう少しだけ・・・。
外はセミが現実を知らせる如く鳴いている。
それが暑さに拍車をかけているようだ。
―――カチッ。
またか、未来が変わった。
今度は何が変わっ・・・。
『原みのるが足に大怪我を負う』
え・・・?
みのるが、怪我?あの部活馬鹿が?
何でだ。原因は。
『不良に絡まれ喧嘩が起こる』
何だよそれ・・・。
じ、時間は。何処で。
『本日12時14分、商店街のゲームセンター裏』
只今11時46分。
ダメだ。病院からじゃ30分はかかる。
間に合わない。
それに、バイトが。
「ふざけんな・・・」
友人とバイトを天秤にかけている。
そんな必要もないだろう。
どっちが大切かなんて分かっているだろう。
走れ、全力で。
間に合わないかもしれない。
でも、走るんだ。




