当たり前に気づけ
「あの・・すみませんでした」
「いいよ、それより何があったの?」
やってしまった。
高校生にもなって大泣きだなんて。
しかも女性の胸を借りて泣くなんて。
それから俺は、アキさんに事の諸諸を説明した。
父親がいないこと。
母が仕事をクビになったこと。
バイトの相談も無意味だったこと。
「そっか、大変ね。私は当事者じゃないから知ったことは言えないけれど。きっと君には相当ツラい事だったのね。」
上手だな。
俺が逆上しないような言葉だ。
「はい…。とてもツラかったです」
「私にはわからないことかな。お母さんいないし。お父さんにも、ずっと会ってないし」
そういえばアキさんの父は生きてるんだよな。
それなのにずっと会ってないんだっけ。
「すみません、なんか自分の事ばかり」
「ち、違うよ!不幸自慢じゃないの!ただ、ちょっとだけ羨ましいって思っちゃって。私こそごめんね」
そうだよな。
この痛みも、家族がいるから感じられるんだよな。
贅沢な悩み、だったのかな。
「アハハッ!そうですね。そうでした」
「何が?」
「いえ、俺の個人的な事です」
知っていたはずなのに。
忘れていた。
「ありがとうございます。話したら楽になりました」
「そう。なら、よかった」
「また、送って行きましょうか?」
「そうね。お願いするわ」
まだ俺は、前を向いていられそうだ。




