これも彼の日常
----------バイト先の日常----------
今日は日曜。
世界からの束縛から免れた選ばれた日。
だと言うのに、俺は近所のファミレスでバイト中。
「こんなの間違ってる」
世界は残酷だ。母方しかいない俺は生活費の足しになるよう休みを潰さなければならない。
父親は俺の産声を聞くことなく蒸発したらしい。
全く最低な父親だ。そんな親の血を引いているなんて思いたくもない。
「なーにが間違ってるのさ」
「先輩・・・」
彼は一之瀬 涼。バイトの先輩で、片親ということに気を遣ってのことか、俺にとても親切だ。
まだ小学生である妹と2人暮らしで、彼も相当な苦労人だ。
「だって世間は休みですよ?これが理不尽でなくて何なんですか・・」
「仕方ないだろう、仕事は仕事だ。明日食う飯の為にも必要なことだ」
「ド正論ですね、返す言葉もありません」
全くもってその通り、嫌でも働かなくては生活ができなくなる。
先輩は根っからの兄貴肌で、とても頼れる人だ。妹想いで優しい。
俺も先輩を慕っている
それじゃあ、そんな先輩たちと、また決まった未来を歩むとしよう。
今日は、「店長が面倒なクレーマーに遭遇」「厨房のバイトが料理を作り間違える」「唐揚げが異常に注文され、品切れになる」
くらいだったかな。たぶん。
そして当然のように豪華3本立てのイベントが起き、また今日が終わった。
----------友人との学校生活----------
「お前ってさ、なんでそんな退屈そうなん?」
「なんだよ、急に」
思わぬ質問に驚いてしまった。
こんなことなら休み時間に起こることも計算するべきだっただろうか。
「だってよ、さっきの授業中、あんなハプニングが起こったって言うのに無反応だったじゃんか」
さっきの授業・・?
あぁ、犬が校内に入って来るなんていう学園の5本指に入るポピュラーイベントか。
「いや、びっくりしたさ。困惑で固まってたんだよ」
「そうは見えないくらい落ち着いてたじゃねぇか」
そりゃそうだ、犯人の分かっているミステリー殺人なんて、面白くもなんともない。
『だって、全部分かってたんだから、驚くわけないだろう』
なんて言えたらどれ程いいか、言わないけど。
中学の2年の頃だったっけ、【未来演算】の式を見つけたのって。
最初に計算した未来ってなんだったっけか。どうでもいいことを計算した気がする。
今ではそれが日課のようになってしまっている。おかげで毎日退屈を貪っている。
退屈が嫌なら未来演算なんてしなければいい。確かにそうだ。
だが一度未来を知ってしまうと、不確定な未来に恐怖を覚えてしまった。
それは俺が弱いだけなのだろうか。不透明なものに恐怖することは間違っているのだろうか。
「おーい、何ボーっとしてんだよ」
「んぁ、わり、聞いてなかった」
現実に引き戻される、平凡な生活へ。
「変なやつ、そんなに退屈なら部活でもやれって!」
「それもう聞き飽きた、それこそ感覚で分かるレベルまで」
こいつの発言は計算する必要すらない。部活のことしか頭にないのだろうか。
「俺は退屈なんかしてないぜ!全国行くって目標もあるしな!」
「そうかい、頑張ってくれ」
教師の入室が休み時間の終わりを告げる。
みのるは全国へ行くことができるのだろうか。だがそれを計算するつもりはない。野暮ってもんだ。
人の未来は計算しない。それだけは俺のポリシーだ。
他人の人生まで平凡にしたくない、もう、それくらいしか、楽しみも無くなってしまったのだから――。




