思考を放棄して
「君が余計な事言うから~」
疲れ果てた声で俺にあたってきた。
「すみません・・・」
「まぁいつもの事だけどね」
穏やかに笑顔を浮かべる。
「えと、あきさん、でしたっけ」
「あれ?名前言ったっけ?」
不思議そうに俺を見つめてくる。
とても綺麗で、澄んだ目だ。
「ここに来る途中に聞きました」
「そっか、君の名前、聞いてもいい?」
「瀬良です。日野、セラ」
「セラ君か、かっこいい名前ね」
確かに珍しいかもしれない。
ただカッコイイと言われたのは初めてだ。
「私は宮本あき、アキって呼んで」
「じゃあ・・・アキさん」
「アキって呼んで!」
呼び捨てにしろって言うのか。
人懐っこいのだろうか。
「いや、たぶん自分の方が年下なんで・・」
「あれ?そうなのかな?」
アキさんは現在17歳。俺の一つ上だ。
もう何年も入院し続けているらしい。
「なのでアキさんで」
「えぇー、呼び捨てでいいのに」
不満そうな顔をしている。
やはり幼いのか、大人びているのかわからない。
「でも本当に来てくれるなんて思わなかったよ」
「迷惑、でしたか?」
胸が少し痛い。
自分の我がままで迷惑したのだろうか。
「え、嬉しかったよ?」
ずっと一人で退屈していた。
病気のせいで学校もロクに行けなかった。
そんな中、自分に会いに来てくれるのは嬉しいらしい。
他愛のない会話。
とても死ぬ人との会話とは思えない。
彼女との会話は予測できない。
しかし恐怖心はそれほどない。
俺は未来を捨てた人を見下しているのだろうか。
それで安心感を覚えているのだろうか。
今は何でもいい。
未来に恐怖しないでいられる事が嬉しい。
いつか、誰とでもこんな風に話せるのだろうか。




