逆撫で
「来てしまった」
昨夜ぶりの病院。
「暇なときに」と言われた翌日に来るなんて驚くかな。
本当に来るなんて思ってないかも。
不安で頭がいっぱいだ。
しかし行くしかない。その為に来たのだから。
(ウィィン)
自動ドアを通り、受付へと進む。
「こんにちは、今日はどうしました?」
どうもしてない。健康そのものだ。
ここが精神科なら、聞きたいこともあったが。
「ここの405号室の女の子のお見舞いです」
お見舞い?だよな。一応。
「え、あの子に?」
「はい・・」
何だ?病人のお見舞いがそんなに変だろうか。
すると別の看護婦に連れられて、エレベーターで病室へと向かった。
「君、あきちゃんの知り合い?」
案内の看護婦が俺に問う。
「まぁ、話したことがある程度ですが」
あき、と言うのか。あの子の名前は。
「あの子にお見舞いなんて久しぶりだわ」
心なしか嬉しそうに見える。何故なんだ。
「えと、ご家族とかは・・」
「あの子お父さんしかいないから」
母の死は聞いたが、父親は来ないのだろうか?
どうやら訳有りのようだ。
想像はつくけれど。
病室に着くと、看護婦が扉を開ける。
「あきちゃーん、お見舞いに来てくれた人よー」
個室のベッドに彼女はいた。
退屈そうに窓の外を見つめる彼女が。
「誰?」
昨日と同一人物とは思えない程暗い声だ。
「そういえば名前聞いてなかったわね」
俺を含め、俺の周囲の人間は名前を聞く文化を持たないのだろうか。
「昨晩は、どうも」
自分も病室へと入る。
「あぁ!来てくれたんだ!」
一転して、病人とは思えない程元気な声だ。
「昨晩・・・?」
看護婦が低く呟いた。
するとハッとしたように、彼女の表情が怯えたものに変わった。
「あきちゃん、また抜け出したのね・・?」
「え、あぁ、いやぁ~」
明らかに彼女の目は泳いでいる。
嘘が下手過ぎないだろうか。
「ちょっとごめんね」と俺にいい、看護婦の説教が始まった。
あきと言う名の彼女は「ごめんなさい」とひたすらに謝っている。
あの子にも、叱ってくれる人はいるんだな。
深い関わりもないのに、安心した。
「君はなんで嬉しそうなのよぉ!」
彼女の矛先が俺へと向けられた。
昨日から人を怒らせてばかりだ。
流石にこの説教は一時間も続かないだろう。
相変わらず【未来演算】は、その機能を奪われたままだ。




