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曇りガラスの先
彼女を送った後、俺は歩きながら呟いた。
「あの人の名前、聞き忘れたな・・」
名前も知らない人に菓子パンを奢ったのか、俺は。
自分の常識を再確認している時。
―――カチッ。
無意識の演算が始まった。
『母親の酷く長い説教が始まる』
「あっ・・・」
忘れていた。
もともと説教の予定はあったが。
いや、それより。
「未来が、変わった?」
彼女と関わった結果、俺の未来が変わった。
どうやら、彼女を通した未来は不確定なものに変わるようだ。
【未来演算】にスモークをかける存在。
そのせいで、彼女が『何時、何処で、どうやって死ぬ』のか分からない。
絶対の未来は存在しない。しかし。
スモーク越しにもわかる『彼女の死』は、もう確定した未来なのかもしれない。
「助けて、か。」
何を思って呟いたのか。
それは俺にもわからない。
それより今は、帰ってからのお説教の心構えをしておこう。
分かっている未来にも、恐怖はやっぱりあるもんだ。




