甘い蜜
「ごめんね、ご馳走になっちゃって」
菓子パンを食べながら彼女が言う。
「いえ、大丈夫です」
何故こんなことになっているんだ。
―――――――――――――――――――――――
公園を出て、俺は病院へと彼女を送り始めた。
いずれ死ぬというのに、彼女の足取りは妙に軽く、楽しそうだ。
途中、野良猫に遭遇し
「あ、猫だ!ニャン、ニャーン」
などと言いながら、道草を食われた。
猫を見ると、あの日を思い出す。
守れなかったことを。弱さを突きつけられた日を。
この人とは深く関われない。
また無力さを痛感することになる。
そんな時・・
(ぐうぅぅぅ)
腹の音?俺じゃないぞ。
ということは?
「・・・・」
「・・・・。ごめん」
なんて緊張感の無い人だ。
心の中で呟く。
「お腹減ったんですか?」
少しの間が空いた。
「・・・うん」
「・・よかったら何か食べます?」
もう少し行った所にコンビニがある。
そこでならご飯も購入できるだろう。
「いいの!?」
「まぁ、構いませんよ」
意外な反応だ。
お姉さんのように感じたが、今は幼い妹のような感じだ。
数分後、そこには嬉しそうに菓子パンとコーヒー牛乳を堪能する少女が誕生した。
こんな経緯だ。思い返しても訳が分からない。
「菓子パンなんて久しぶりだな~」
「そんなんでお腹満たされますか?」
「十分だよ、私小食だしね」
いつもは病院食ばかりなのだろう。
菓子パン一つでこうも感動するとは。
あれ―――?
普通に会話ができてる―――。
「どしたの?」
「あ、いえ、何でもないです」
久しぶりだな。何も考えず会話するのは。
「ご馳走様でした。ありがと」
「どういたしまして」
少し、ほんの少しだけど、自分らしくいられた気がする。
そのまま病院へ送り届け。お別れ。
何故だろう、何処か寂しさが残るのは。
「ねぇ」
最後の会話。
自分で考え、会話できる最後。
「私、ここの405号室にいるの。暇な時にでも遊びに来て!」
純粋に、嬉しかった。
まだ、俺が俺らしくいられる。
「じゃあ、気が向いたら・・」
素直じゃない性格は、変わらないかもしれないけれど。




