望まぬ「生」に生かされて
彼女は確かに生きている。
心臓が全身に血を送り。
意思を持って行動している。
しかし、それだけでは生きていると言えない。
彼女は生を捨てた人。
そのせいで【未来演算】が狂ってしまう。
未来を諦めた者には【未来演算】は適応されない。
当然と言える。存在しない未来を計算できるわけがない。
「そうなんですか、なんか、ごめんなさい」
「何で君が謝るの?」
確信した。
こいつは普通の人にも、ペースを狂わせる人だ。
「いえ・・言いたくないことかと思って・・」
「あー、気にしなくていいよ?」
ケラケラと笑う。
何故だ。何故そんな簡単に。
「あの、聞きにくいことなんですが」
言うな。それを聞いてはいけない。
それを聞いてしまったら―――。
「生きていたいと、思わないのですか」
だってそれは、ずっと自分に問いかけた事なのだから―――。
静寂の後、彼女は優しく言った。
「そっか。君は、生きていたかったんだね」
心臓を鷲掴みにされるような感覚。
見透かされた?こんな簡単に?
「え・・いや・・あの・・・」
言葉が出ない。
狂った演算を繰り返す。
結果は何度やっても『エラー』だ。
「フフッ」
また笑った。
何がおかしい・・・。
「ねぇ―――」
なんだ。次は何を言うんだ。
「助けて―――」
思考が停止する。
混乱を押しのけた感情は、自己批判だった。
無理だ。
猫一匹助けられないのに。
なんで俺なんだ。
【未来演算】では命を救えない。
その先は全く予期せぬ事だった。
「病院を抜け出したら迷ったの。送ってくれない?」
「えっ・・・あ、あぁ」
これはお手上げだ。
ヌルい夜風だけが、俺たちの間を横切っていた。




