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リトリビューション  作者: セスラ
【二章】許された幸せ
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演算の欠点


話しかけられた?

まずい、(タダ)でさえ世間への適応力が無くなっているのに。



「そう、ですね。とても綺麗な月です」

そう言って空を見上げると、見事に雲に隠れた月があった。


「フフッ、そうね。さっきまでいい月だったわ」

イタズラに笑う彼女。本当に何なんだ。


「よかったら隣、座る?」

目線を自分の横に向ける。



座っていいのか―――?

わからない。


こいつは危険だ―――。

わかっている。



わかっているのに、逆らえない。

想いに刃向い、体がブランコへ向かう。


いつ以来かな、ブランコに座るのなんて。

不思議と落ち着く、勝手に揺れるのが妙に心地よい。


「こんな時間に何してるの?」

「いや・・・それはこっちの台詞なんですが」


先が読めない。やはり演算が狂う。

しかし思ったほどの恐怖は感じていない。

なんだろう。この人は、何か、変だ。



「私?私はねぇ」

一瞬の間が空いた。



「死ぬ準備、かな?」


何を言っているんだ。

分かっているさ。俺には分かっている。

貴女が死んでしまうことも、けれど、何を突然。


「病気、ですか?」

キョトンとする女。それも俺の反応だろう。

これは俺の適応力がないだけなのか?


「なんだか薄い反応ね、意外」

「びっくりし過ぎて固まったんです」

既視感。誰かとこんな会話をした気がする。


「その割には即答だったけど」

「まぁいいか」と続ける。

「そ!心臓がダメなんだって。お母さんもそれで死んじゃった」


こうも自分の死を簡単に言えるのか。

狂っているのは彼女なのか?


「だからね、いつ死んでもいいように、待ってるの」





あぁ、そういうことか。

この人に【未来演算】が使えないのは。



『死んでないだけの人』だからか―――。



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