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名探偵 護国寺太郎の事件ファイル

名探偵 護国寺太郎の事件ファイル 『ケース1 箱庭荘事件』

作者: under_

 リクライニングチェアに寝転んだ五反田啓二警部は、殺伐とした日々を忘れさせてくれるようなうららかな午後の日差しの中、まどろんでいた。

 とある事件捜査のため、しばらく地方に出張していた五反田警部だったが、ようやく事件も解決し、東京に帰ろうとしたところ、「せっかく事件が解決したんですから、一日ぐらいゆっくりしてきたらどうですか?」という部下の助言を聞き入れて、山の上の小さなペンションで久しぶりの休暇を満喫していた。

 しかし、五反田警部の優雅なひとときは、唐突に終わりを迎えた。

「お客様、申し訳ありません」

 ペンション〈箱庭荘〉のオーナー千石乙久が小走りで五反田警部のところに近づいてきた。

「どうしました、オーナー?」五反田警部は目をこすりながら体を起こした。

「お客様は、警察官だとお聞きしましたが……」

「ええ、そうです。どうかしましたか?」

 千石オーナーの切迫した様子に、ただならぬものを感じた五反田警部の目つきが鋭くなった。


 客室のベッドに年老いた女性が横たわっていた。その胸には出刃包丁が突き立てられていた。

 被害者は箱庭荘の常連客である押上きぬ。昼食時間になってもダイニングルームに姿を現さなかったので、オーナーが様子を見に行ったところ、このような有様だったという。

 五反田警部は遺体を一通り観察した後、千石オーナーに向かって言った。

「包丁で心臓を一突き、即死だったでしょうね。ところで、この左手の甲にサインペンのようなもので描かれているハート状のマーク、これは何でしょうか?」

 五反田警部が問題の部分を指し示すと、千石オーナーの表情がさっと青ざめた。

「どうしたんですか、オーナー?」

 千石オーナーの態度に不審を覚えた五反田警部が問うと、オーナーは声を震わせ、言葉に詰まりながら答えた。

「こ、これはまさか、お、おおがらわさまの祟り……」

「おおがらわさま? 祟り?」

 突然この人は何を言っているんだ? と、五反田警部が戸惑っていると、突然廊下から声がした。

「祟りなんかじゃありません、その女性は人間の手によって殺されたんです!」

 五反田警部が驚いて振り返ると、客室の入り口に一人の青年が立っていた。

「だ、誰だ君は!」

 青年は胸を張って堂々と答えた。

「僕の名前は護国寺太郎、名探偵だ!」

「め、名探偵?」警部が素っ頓狂な声を上げた。「め、名探偵ってあの、テレビや小説で出てくるあれか?」

「その通りです、警部さん」

「ど、どうして私が警部だとわかった?」

 刑事であることぐらいなら推測できるかもしれないが、階級まで言い当てられたことに、五反田警部は驚きを隠せないでいると、護国寺はチッチッチッと人差し指を振った。

「そんなことわかりきっています、何故なら僕こそが紛うことなき現代の名探偵だからです」

 これが、五反田警部と名探偵護国寺太郎の最初の出会いだった。


 結局、押上きぬは護国寺の指摘通り、おおがらわさまの祟りに遭ったわけではなく他殺で、その犯人は千石オーナーだった。護国寺の卓越した捜査力と推理力により、瞬く間に千石を自供に追い込んだ。動機はペンションの出資者だった押上きぬが、急に資金返済を求めてきて、窮地に追いやられた千石オーナーが犯行に及んだのだった。

 せっかくの休暇まで事件に巻き込まれるなんて我ながらツキがないと、五反田警部は嘆くと同時に、振り返ってみると、オーナーの自作自演は痛々しかったな、とも思いつつ、翌日、事件の後処理は地元警察に任せ、東京への帰路に就いた。

 東京へ向かう列車はほぼ満員で、空席を探していたら、突然「これは警部さん」と、声を掛けられた。そこには護国寺がにこやかな笑みを浮かべて座っているではないか。

「警部さんも東京へ帰るんですか? 僕もなんです。奇遇ですね」

「ああ、そうだな」

 と、五反田警部は素っ気なく答え、そのまま通り過ぎようとしたが、あまりに大人気ない対応だと思い直し、立ち止まって護国寺の大きな瞳を見つめ返した。

「まあ、そのなんだ。箱庭荘でのことについて改めて礼を言っておこう。護国寺君、君がいなければ犯人を取り逃がすところだった」

「いえいえ、市民として探偵として当然のことをしたまでです。困ったことがあればいつでもご連絡ください」護国寺が名刺を差し出してきた。「なんだか警部さんとはこれから長い付き合いになりそうな気がしてるんです」

「そうならないことを祈るよ」

 と言いつつ、五反田警部は一応名刺を受け取った。警察がしょっちゅう探偵に頼るようでは納税者から職務怠慢だと後ろ指をさされかねない。

「じゃ、そういうことで」

 今度こそ五反田警部が立ち去ろうとしたら、護国寺にぎゅっと腕を掴まれた。

「まだ用があるのか?」

 すると、探偵は急に声をひそめた。「実は一つお伝えしたいことが……」

「どうした?」

「僕の席の隣の男性、……息をしてないんですよね」


次回、『ケース2 殺人急行』に続く

タイトルや最後の一行はただのネタで、実際は続かないと見せかけて、本当に続きを予定しています。。。


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