共通シナリオ 人の命は短い
――――私はヒノマ王国の姫ユフィニク。人とは違う、ハーフユニコーンに生まれた。
物心がついた頃には角を自由に出せて、城の離れに入れられ外界から閉ざされている。
そんな私に与えられていたのは本だけ。物語りというものは、私に知識と言葉を教えた。
食事や書物を運ぶ兵らが扉を開く。光というものは窓から微かに覗くもの。
私が8のとき、話し相手として黒髪の少年があらわれた。
背からは硬そうな、鋼鉄の羽が生えていた。彼もまた、なにかの混血種だ。
衣服には宝石や刺繍が施されていない。おそらく世にいう平民の質素なものであった。
それから彼は私の向こう側の仕切りに置かれた。
『貴方はどうしてここに来たの?』
『両親が兵に捕まったんだ』
少年は震えている。地下にとらわれることになったからだろうか。
『苦しい』
少年は、泣きながら言う。
『くるしいの?』
『うん……』
私は今思えば心のないことを言った。
『なら、死ねばいい』
死とは自由なき者が、唯一苦しみから解放されることである。
生まれながらに死ぬことのできない私にはできないことだった。
あれから数年、私と少年は外へ出ることになった。
私が隣国の王に嫁ぐことになったから、彼は護衛として共に国を出る。
あくまでもそれは名目であり、実際は研究者や錬金術士に角などの材料を提供することになるらしい。
隣国アヴェンジャルには錬金術士や研究者などを呼び寄せているらしい。
ヒノマにはいないそうだが、そもそもいたら私を隣国へ渡す事はないだろう。
「……ぺレム、行きましょう」
「はい、ユフィニク王女」
馬車に乗りしばらくすると城に着いて、王との謁見はなく真っ先に地下牢へ連れていかれた。
彼らは私が人を襲うと思っているようだが、私は完全な人ではないのだからそれは当然の事と割りきろう。
―――何時<なんどき>経過したか、足音が左右から聞こえた。
「何度も言っているだろ! なぜ貴様等に貴重なユニコーンの角を分けてやらねばならん!?」
「何をいうかこの狂人ド変態マッドサイエンティスト!」
「まったく陛下はお甘い方だ。錬金術など単なるホラだというのに……」
「貴殿等も我々と何等変わらぬだろう!!」
なにやら双方は争いあっているようだが同族嫌悪、というものであろう。
「我ら研究者がいれば貴様等など不要だ!」
「愚かな……ユニコーンの角は我々、夢見る者達にこそふさわしい代物だ!」
夢を見ている自覚はあるのか。
「魔法学校を退学になった嫉妬だろバーカ!!」
「なんだとこの……いくつになってもドラゴンだのフェアリーだのガキみたいなこと言いやがって!!」
最早子供の喧嘩だ。
「王女、彼等をどうしますか?」
長々と罵り合う彼等に早くも痺れを切らしたペネム。
アヴィンニウムブレードを冷ややかな顔で構えていた。
「……そこのお二方」
私は声をかけた。さっさと角でも肉でも剥いで、ここから去ってもらいたいからだ。
「ほう……貴女が隣国から参られたハーフユニコーンのユフィニク王女か
私は“アヴェンシャル”王国で研究員代表を努める‘マディス’である」
――――それだけ?
「やれやれ、これだから研究者は王女殿下に対する礼儀、礼節がなっていないな愚図め」
「なんだと……単なる研究材料に、礼節など不要であろうが!!」
こいつ、なんだかムカつく。
「数々の非礼をお許しください、ユフィニク殿下」
驚くことに桃髪の青年は単なる研究材料であろう私にひざまずいた。
「わたくしは錬金術士、アルメと申します。貴女様の貴重な頭角をこの憐れな子羊達に頂けないでしょうか?」
「ほう、私を踏み台にして利益を得ようとは……卑怯だぞ貴様!!」
彼等の争いは再開した。
「……おまえたち、騒がしいよ」
―――現れた静かな声が、争いを鎮静した。
二人はその場にひざまずいて頭を下げる。彼が何者か、すぐに察しがついた。
「お初にお目にかかる
余は、アヴェンジャルの王‘ナヨク’」
私はずっと地下にいて、礼儀など学ばなかったが、こんなときには本の主人公がやっていたことを真似よう。
「ヒノマ王国の王女、ユフィニクと申します」
私はドレスの右裾を軽く持ち上げて頭を下げた。
「貴女は王族の誇りはないのか?」
「え?」
「科学者とはいえ奴は平民なんだ。もっと大きく構えてもいいんだよ」
そういわれマディスはバツが悪そうに私から視線をそらした。
アルメは笑いをこらえている。
王が彼等を連れて去ると、ペレムと二人になった。
「……振り出しに戻ったみたいですね」
「そうかしら……」
私たちは再び地下牢にとられられている。仮に王女という肩書きがあっても結局どこにいても同じだ。
しかし振り出しに戻ったかと問われれば、私はそうは思わないとこたえる。
自国いたときは誰かの役に立つこともなく、ただ生きていた。
けれどもここにいれば、私は少なくとも研究者か錬金術士の役に立つのだ。
私の角が、人々の寿命ををのばすことも出来るのかもしれない。
「貴殿が姫の従者か?」
騎士がぞろぞろと牢に入ってきた。こんな朝はやくから、騎士が来るとは何事だろう。
あの二人が現れないということは、まだどちらが頭角を手にするかの決着がついていないということはわかる。
だとすれば、別件のはず。それに用があるのは私ではなくペレムのようだ。
「少しの間側をはなれます」ペレムはペコリと頭を下げて牢の外に出る。
―――昨日少しの間、初めて外を観られたけれど、それは想像をこえるほどではなかった。
私は死のうとしても体を傷つけても武器を弾いて死なない。
ユニコーンの角には不死の効果があるとされているが、まだ18なので寿命があるのかもわからない。
もし寿命がないならこの国がこの命が続くかぎり、牢で過ごすのだろう。
ここにくるまで私は全てを諦めていた。
期待、喜び、幸せというものを覚えたことがないからだ。
「はじめましてオヒメサマ。ご機嫌いかがかな?」
金髪の少年が戸を開けて、此方のほうに歩いてくる。
「わからない、感情を判断づけられない」
何をもって気分が良いか悪いのか、閉鎖空間で人生の全てを過ごしていた私には判断できない。「じゃあこれからどうしたいと思う?」
「わからない、ただ流れに身を任せるだけよ」
「つまらないね君って、同属のヨシミで逃がしてやろうと思ったのに……」
「私は逃げようとは思わないわ」
「そうじゃあ君は一生そこで生きつづけるんだね」
「そうかもしれない」
「また来るよ、不死のユニコーン。せいぜい生き飽きた頃には死ねるといいね」
生き飽きることなど、あるのだろうか。
読み終えた本に飽きることはあれど、新たな本を読めばいい。
私は少なくとも、この生活に飽きたことはない。死を迎えれば、本は読めなくなるのだから。
「ごきげんいかがです。ユフィニク王女」
彼は錬金術士・アルメという名だっただろうか。
「ああ、ご安心ください。本日は様子をうかがいにきただけですので」
「……え」
アルメは角などの材料を要求することなく去った。
「奴め……抜け駆けか」
研究員マディスが後からやってきた。
「角をよこしてもらおう」
角は折れても生えるが、体の一部を故意に折るのは気が引ける。
「安心しろ。痛みを伴わぬように麻酔薬は打ってやる」
「彼女を研究材料扱いするのは、ご遠慮願います」
ペレムがマディスを睨む。
「別に構わないわ。はじめから扱いに期待なんてしていないから」
マディスが注射針を額に向けた。
―――――そのとき。
「はーいストップー」
長身の女性が現れ、注射針を指でへし折った。
「イバァ……なぜ邪魔をする」
――紫髪の妖艶な人。どうやら二人は知り合いのようだ。
「協定、忘れたの?」
「……王の決めたことならしかたがないな。」
マディスは諦め、部屋を後にした。協定とは一体なんなのだろう。
「はじめまして姫サマ」
「はい……はじめまして」
檻から手を差し出され、右手をのせた。
「アタシはイバァ。姫サマのことを王サマから頼まれてるんだ」
「貴女も私の角が目当てなのですか?」
折衷案で彼女にあげてもいいかと思ったが、昔は自由に出せた角が今はもう己の意思で出せないのだ。
「あの二人と同じように? まさかァ、もう枠ないでしょ」
イバァは目をそらして否定した。
「おい……」
「昔はほしかったけどもう意味ないからさ。今はただの公平を指揮する立ち位置ってやつかな……」
イバァは去り際にペレムに何かを言って部屋を出た。
――――今日はもう誰もこないようだ。
いや、今まではペレムと二人だけだったのだから、これが普通なのだが、ようやく落ち着ける。
「あのー誰かいませんかー?」
「えっ!?」
扉の向こうから人の声がした。
「ええ、おりますが……」
「ならよかった」
男性が扉をあけて、中へ入ってきた。
「あの、貴方は?」
「トゥマルクァンだよ」
「なぜここに?」
「ここに囚われの姫がいるときいて、救いに来たのさ!」
青年は私を檻からだしてかかえる。こまったことにペレムは今はいない。
◆どうしたら。
→《助けを呼ぶ》
《抵抗しない》
「誰かきて!!」
私は声をあげた。
◆誰の名を?
《ペレム》
《ナヨク》
《アルメ》
《マディス》
《とにかく誰か!》