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悪役令嬢が婚約破棄される話

悪役(っぽい)令嬢が婚約破棄される(むしろされたい)話

作者: ましろ

「ルドヴィカ・スフィーア」


  名前を呼ばれて振り返る。 そこには婚約者である第2王子、アンリ・ナインとその側近たちがピンクの髪の少女を取り囲むようにして立っていた。


「ルイズ・ローに対する数々の嫌がらせは明白。そのような卑しきものは我が婚約者にふさわしくない。ここにナナイ王国第2王子、アンリ・ナインとスフィーア公爵家長女、ルドヴィカ・スフィーアとの婚約破棄を申し渡す。そして新たにロー子爵家、ルイズ・ローとの婚約を宣言する!」


  ルドヴィカの周りを取り囲む少女たちが信じられないと口に手を当てている。仮に婚約破棄をするにしてもこのような公の場で宣言するものではない。ましてや即、他の人と婚約するなど。婚約も婚約破棄も色々手続きがあって時間がかかるものなのだ。王族ならばそれに加えて王子妃たる資質も問われる。個人の感情云々で決められるものではない。


「本当に?」


  ただごとではないとパーティに参加している人たちへとざわめきが伝わっていく。ただでさえ注目を集める第2王子と公爵令嬢。その婚約破棄が目の前で行われるのならショーでしかない。


「本当にそれと婚約するのですか?」


  目を細めて確認する。

「王子の婚約者たるルイズをそれ呼ばわりとは不敬だぞ」

  王子付きの騎士であるリチャードが剣の柄に手をかけて一歩踏み出す。本当に王子の婚約者なら呼び捨てにするのも不敬だと思う。

「ルイズにしたことを考えればお前と婚約していたことすら汚点と言える」

  吐き捨てるように呟くアンリにルドヴィカは果たして自分が何をしたのだろうかと首をかしげた。


「知らぬとは言わせんぞ。ルイズの羽ペンを盗んだだろう!」

  盗人の濡れ衣がかかった。

「なぜ私が盗んだと?」

  当然だろうとアンリは胸を張る。

「20日前の16時42分に羽ペンは盗まれた。当日ルイズはカバンを置いたまま私たちのいる生徒会室にいたからな。ジェフにルイズを送らせたが羽ペンは学園内に隠しおかれていた。もちろんカバンを忘れたわけじゃない。翌日7時38分、学園の焼却炉付近に捨てられたあとは消息不明だ。リチャードを回収に向かわせたがすでに燃やされたあとだった」

「お詳しいですね」

  特に時間が、とルドヴィカ。観念したらどうだとアンリは鼻をならした。


「当たり前だ。追跡魔法がかけてあったからな」


  得意気な言葉に平民出身魔法使いであるクリスが慌てて止めに入るがすでに回りの耳に届いている。追跡魔法は王族など要人に警備のために使用されることが多いが、その場合はしっかりと本人に許可をとることが義務付けられている。魔力のある人間に使用することは難しく、弾かれてしまうこともあるため通常その人が身に付けているものや持ち歩くものに使用される。追跡魔法をかけられたものを知らぬ間に所持しているということは行動が筒抜けになっているということになってしまうからだ。


「ルイズさん、ご存じでした?」

「い、いえ」


  いつの間にか使用されていた追跡魔法に驚くルイズ。しかもかなり詳しいので常時発動型。通常は定時発動型を使用し魔力の消費を抑える。

「ルイズの安全のためにクリスに使わせていた。怖がらせるといけないと思って伝えていなかったのは申し訳ない」

  真摯に謝る姿勢を見せるアンリ。平民ながら強大な魔力を持つクリスなら常時発動型も使用可能だろう。そのかわり他の魔法が使えなくなるだろうが。


「ルイズの羽ペンを燃やした罪は重いぞ」


  堂々と宣言するがルドヴィカは一言。


「ですからそれを私が行ったという証拠はあるのですか?」


  羽ペンが盗まれた経緯は詳しすぎるくらい話してくれたのだが、肝心のルドヴィカが盗んだ、という点に関して一言も触れられていない。せめてその時間にルドヴィカが教室にいたとか羽ペンを持っているところを見たとかいう話が出てこなければルドヴィカを問い詰める理由にはならない。隣で心配そうに見ている同級生にも嫌疑はかかってしまう。

  それをわかっているようにぐっと言葉を詰まらせて「お前以外にいないだろう」というお粗末な答えしかでてこない。


「犯行を問い詰めるなら相手の行動もしっかりと裏付けてからにならさないと冤罪を生むだけです」

「そんなものお前の取り巻きを使えばなんとかなるだろう。取り巻きにやらせてもよし、証言に使うもよし。どうにでもなる。お前の行動など裏づけても無意味だ」

「ええ、ええ、そうですね。今、アンリ様が鶴の一声で私を犯人に仕立てあげていることと同じことですからね」

「私はそんなことはしない」

  堂々巡りに感じたのはルドヴィカだけではなかったようだ。アンリは次にシフトした。



「ではルイズが試験で使用する魔法カードを盗んだな。そして威力の劣るカードを使用させ試験の妨害をした」

「なぜ私がそんなことを?」

  ふふふと勝ち誇ったようにアンリは語る。


「私は聞いてしまったのだよ。『ルイズさん、そのカードの刻印間違っていますよ。使用すれば暴走してしまいます。今日のところはこのカードを使ってください』と言いくるめて別のカードを渡しただろう?カードはそのまま焼却炉行きだ。王子である私の証言だ。覆すことは出来んぞ」


  ふははははと高笑い。ルドヴィカの台詞らしき部分は頬に手を当てて腰をくねくねさせて実に気色悪く演じてみせた。ルドヴィカはため息で返す。なぜと聞いたのにどうやってを返してきた。しかも断罪する側の人間の証言など信憑性が低いにも程がある。


「アンリ様は試験の時はいなかったはずなのですがどこでその会話を聞かれたんですか?」

  追い詰められて認めたと勘違いしたアンリは逆に自供した。


「もちろん、カードに刻んだ遠聞魔法を使用していたに決まっているだろう!」


  それをいっちゃあとまたも平民魔法使いのクリスが止めるがすでに周りの耳にも届いている。周りのアンリを見る視線の温度が急激に低下した。


「ルイズさん、このことはご存じでしたか?」

「い、いえ。知りませんでした」


  若干顔色の悪いルイズ。まぁ、知っていたらルドヴィカにカードを渡さない。犯罪者のアジトや政敵の密談を盗聴するために使用される遠聞魔法はかなり高度な魔法になる。使用する場合は専門の刻印を刻み、魔法省の魔法使いが3人ほどでローテーションを組んでいた。個人的に使用されることはまずない。


「個人に対して魔法をお使いになる場合にはご本人の許可を頂いてからにしなければなりませんよ」

「だがそのおかげでお前の行いを問い詰めることができるのだ」


  はーっはっはっはと自分の不正(立派な犯罪行為)を棚にあげてルドヴィカの嫌がらせ(かもしれない)を罵る。ルドヴィカは深くため息をついた。


「アンリ様、そしてクリスさん。ルイズさんの魔法カードに勝手に遠聞魔法の刻印を刻んだことで、ルイズさんの魔法が暴走する状態にあったことはどうお考えですか?」


  カードには自分で刻印を刻む。クリスほどの才能があればすでにある刻印に紛れ込ませて別の刻印を刻むとも可能だろう。だが刻んだのは高位魔法。もともと刻まれているものになんの問題もなく刻み込めるほど甘いものではない。クリスが勝手に刻んだ刻印はもともと刻まれていた刻印を断絶し、そのまま使用していればまず間違いなく暴走していた。その場合、怪我をするのはルイズ本人。


「そんなへまはしないよ」

「可能性はあります。どんなに高位の魔法使いでも暴走はあり得ます。本当にルイズさんのことを思うのならば彼女を傷つけるかも知れない行動は控えるべきです」


 ぐっと言葉を詰まらすふたり。さらに追い討ちをかけるルドヴィカ。


「それに試験用のカードに他人が勝手に刻印を刻むこともれっきとした試験妨害です」


  ぶーと口を尖らせてアンリは他の案件にシフトした。

  全く反省していない。



「じゃあルイズの机に魔方陣を仕掛けた件はどうなんだ?あやうくテビッドが丸焦げになるところだったんだぞ」

「なぜ私がそんなことを?」

  同じ台詞の繰り返しに辟易する。

「理由などルイズへの嫉妬で充分だ。今回はちゃんと証人がいるぞ。お前のクラスの女生徒が『ルドヴィカ様が机に魔方陣を描いていました』と証言してくれたからな」

  得意げに語るアンリ。


「デビッドが机に触れたのですね」

「そうだよ義姉さん。おかげで僕の前髪が焦げてしまったよ」


  ルドヴィカの義弟、デビッドが語る。放課後ルイズの教室へ行き、机に触れたとたん魔方陣が発動し炎が吹き上がった。とっさに水の魔法を使用し事なきを得た。しかし前髪が無惨に焼け焦げてしまい今は前髪ぱっつん状態だ。


「なぜ机に触れたのですが?」

「殿下の依頼でね。詳細は割愛させていただくよ」

  恨みのこもった目でルドヴィカを睨んでくる。思春期男子の前髪は青春だ。


「アンリ様の依頼は机から私物を持ち出すことですか?」


  驚いて目が見開く。前髪がない分よく見える。なぜそれを、と悪役のような台詞を吐く義弟にため息しか出ない。


「確かに私は教室の机に触れれば炎が出現する魔方陣を描きました。なぜなら机の持ち主に依頼されたからです」

「なに?ルイズが?」

  ルイズはふるふると首を振る。子爵令嬢のルイズが公爵令嬢のルドヴィカに頼みごとなど出来ない。まして今は対外的には恋敵に当たるのだ。一応。


「ルイズさんではありません。だってルイズさんの机ではないのですから」


  一斉に疑問符を浮かべる。


「リック伯爵令息より最近私物が無くなると相談を受けた私は彼以外の人物が机に触れたとき、正確には机の引き出し部分に手を入れようとした際に炎が出現する魔方陣を描きました。さてデビッド、彼の机から何を持ち出したの?」

「男の…」


  デビッドはアンリの依頼でルイズの私物を持ち出している。なにか魔法を仕込むいいものがないか探していた。ルイズの机である証拠に羽ペンは無事に魔法を仕込むことができた。いや燃やされてしまったが。そのかわりになるものを見繕うのがアンリの依頼だった。


「ルイズさんはアンリ様やデビッドが私物を持っていかれていることをご存じでしたか?」

「い、いいえ。初めて知りました」


  知りたくなかっただろうなぁと同情する。友人に頼まれたり物の貸し借りなどで他人の机の中の私物を拝借することは学生ならままある話だ。「辞書かしてー」とか「ノート取ってきてー」とか。大前提として本人が承諾していることが絶対だ。最悪事後承諾というかたちも無いわけではないが、よっぽど信頼関係がないといけない。


  男の机に俺は…とまだ混乱のただ中にいるデビッドをいい加減現実に戻さなければなるまい。


「彼の机の場所は先月までルイズさんが使用されていた場所でした。大方席替えを知らずにずっと同じ場所の机に執着していたのでしょう」


  机に何してたんだデビッドよ。

  普段は生徒会室に集合するためクラスにいるルイズを見ることはあまりない。デビッドのクラスはルイズのクラスのように月一で席替えなどしていなかった。

「デビッド、彼の机から持ち出したものは速やかに返却なさい。そして今後、ルイズさんを含めて他人の私物を許可なく持ち出すことは止めなさい。例えそれがアンリ様の命令であったとしても、です」

  説教されてアンリもデビッドも素直にうなずいた。



  だがアンリも負けていられない。手持ちの札が無くなりそうだ。今度こそ、と勢いをつける。


「ルイズを階段から突き落としただろう」


  今度は暴行かぁ、と肩を落とす。

「なぜ、私が、そんなことを?」

  一言づつ語気を強める。

「さっきも言ったが理由については嫉妬で全部収まるんだよ。何度も聞くな」

  そんなもの一欠片もないですけど、と心のなかで思うだけにした。

「では証拠は?」


  ルドヴィカは面倒になってきた。アンリも面倒になってきた。だがここで諦めては婚約破棄は流れてルイズとの結婚が遠のいてしまう。諦めるわけにはいかないとアンリは頑張る。

「証拠は私。階段下を歩いていた私とリチャードが悲鳴と共に落ちてきたルイズを抱き止めた。踊り場にはルドヴィカ、お前が手を伸ばした状態で立っていたな。私以外の証人もいる。もはや言い逃れはすまいな」

「しますよ」

  あっさりとした否定にムッとするアンリ。否定するだろう。当然だ。冤罪を押し付けられては敵わない。


「アンリ様以外の証人とは例えばジェフ様とか?」


  アンリの側近であるジェフ・ホーランド。怜悧な眼差しに射ぬかれたい女子多数。ルドヴィカには全く理解できない心境だ。

  御指名の入ったジェフはそうだ、と言わんばかりにくいっとメガネを持ち上げる。


「あるいはルイズさんとか?」


  「ルイズ?当事者のルイズに聞いて怖い思いを思い出させてはダメだろう」

  それがダメだろ。なんて紳士とか浸ってるがダメダメだ。本人に聞くのは基本だろう。仮にそれでルドヴィカに突き落とされたと証言されたならまた違う話になってくる。


  とりあえず、驚いた表情のルイズに聞いてみる。


「私、あのときルイズさんを突き落としました?」

「いいえ」


  アンリも側近たちも驚いてルイズを見る。状況的にルドヴィカに突き落とされた一択しかないはずだと信じている。

  ルイズはルイズで何言ってんだ的な驚きの表情で彼らを見る。いつルイズがルドヴィカに落とされたと言ったのだろうか。

  説明を求めるアンリに何故かルイズは遠い目をして首を振る。やはり怖い思いをしたのだろう、どうしてくれるとルドヴィカを睨み付けるアンリ達。その中で一人だけ視線をそらす人物がいる。


「私から説明しましょうか?」


  やめて、とルイズとジェフが叫ぶ。普段声を荒げることのないジェフに注目が集まる。


「私は冤罪をかけらけなければそれでいいのですが」


  ジェフは黙り込んだままだ。先程までの怜悧なイケメンは汗だくのヘタレに変身した。だらだらと汗を流すだけのジェフをアンリが問いつめるが口を開こうとしない。

  ルドヴィカの嫌疑が晴れるなら黒歴史を掘り起こさなくて済むのだが、あろうことかアンリはルドヴィカに聞くことにしてしまった。そうでなければ真偽がはっきりしない、と。

  最後まで話せばアンリにとってもあまり良い話ではないのだが話さないと終わらないようなので話してあげよう。


「あのとき私は階段を登っていました。ルイズさんは降りてくるところでしたね。丁度踊り場ですれ違う時にジェフ様が飛んできたのです」


  そう。飛んできた。あれは悪夢のような光景だったと思う。

  『るーいずぅ』と聞きなれない普段より高めの声と同時にピンクのフリフリの衣装を着たジェフが階段の上からルイズめがけて跳んだのだ。もうホントに、ぴょーん、と効果音がついていた。衣装と同じピンクのリボンでツインテールにした髪がふわりと舞い、表情筋が死滅しているとまで言われた顔に満面の笑みを浮かべ、丁度踊り場に到着したルイズの真上に黒い影を作って降ってきた。

  普段人の少ない旧文化部棟の端の階段だったため、ジェフは階段を降りていくルイズにのみ気が向いて、階下から登ってくるルドヴィカには気がつかなかったのだろう。


  ピンクのロリータ男が降ってくるという状況に、さすがのルドヴィカも固まった。目を見開いてスカートひらりのペチコートとドロワーズと逆光で中身を見ずに済んだのが唯一の救いか。


  とっさに逃げることの出来たルイズを誉めたい。逃げるよね。うん。ルイズは悪くない。


  だが慌てていたため足が絡まってルドヴィカにぶつかった。しかし本能的に逃げることを選択していたルイズはそのまま階段から落ちてしまったのだ。ルイズにぶつかられた際に正気に戻ったルドヴィカは何とか落下を止めようと手を伸ばしたが間に合わずに落ちてしまった。


「……」


  あまりの事件の悲惨さに誰も言葉を発しない。視線は床一択。視線をあげることが出来ない。もはやその怜悧な眼差しに射ぬかれたいという人間はいないだろう。というかすでに怜悧な眼差しが消滅し、小さく丸くなって震えている。


  あとから分かったことだが、クールなイケメンジェフは、めっぽう酒に弱い。洋酒を効かせただけのチョコレートで酔っ払い、演劇部の衣装を見つけて着込んでいたのだ。王子の衣裳とかあったのになぜロリータを選んだのかは謎だ。本人の深層意識に聞いてみてくれ。

  そしてルイズの悲鳴で酔いから一瞬で回復し魔法を用いて衣装と髪を調えた。便利だ。


  かろうじてアンリがジェフの肩にぽんっと手を置くが、ジェフの震えはますます酷くなるばかりだった。


  空気を察したルイズが妙に明るい声を出した。

「ま、まぁ、人の趣味嗜好はそれぞれです。アンリとリチャードのおかげで怪我もありませんでしたし特に問題は無いですよ」

「ルイズ……」

  ジェフが涙目で顔をあげた。


「そ、そうだな。私たちが常にルイズの側にいるからな。ルイズの身の安全は確保されているぞ」


「え……?」


  アンリの言葉にルイズが反応する。昨日まではあまり気にしていなかったのだが今までのやり取りを経てから聞いた言葉に過剰反応してしまったのだろうか。アンリはルイズの心境の変化に気づかない。


「ルイズのことはいつも見てるからね」


  優しい笑みを浮かべるリチャード。昨日まではありがとうと返していた。

  だがしかし。これは。まるで。


「良かったですね。このときばかりはアンリ様とリチャード様が常にルイズさんをストーキングしているおかげで助かりましたもの」


  ルドヴィカが追い討ちをかけた。


「この時以外は人権無視も良いところですけれどね」


  ルドヴィカはアンリ達にも追い討ちをかけた。


「いやしかし愛するルイズを守るためには必要なんだ」

「俺たちがいない間にルイズに何かあったらどうするんだ」

「こんなにかわいいルイズなんだよ」

「ルイズ先輩のためだって」

「ルイズには必要だ」


  アンリ達はルイズの意見を聞くことなく口々に言いつのる。しかしながらルイズが一番気にしていたことは口にしない。そのことを相談したらルドヴィカの仕業に違いないと言っていた。そんなことないと思いながら、否定する根拠もなかった。


  だからルイズは思い切って聞いてみた。


「もしかして私の魔法が使えなくなったのって……」


「アンリ様の仕業ですよ」


  こともなげにルドヴィカは答えてくれた。ルイズはルドヴィカへ歩み寄る。それをアンリが危険だよ、とひき止める。もはやルイズにはどちらが危険か分からない。


「なぜ私がルイズの魔法を封印しなければならないんだ」


  ルイズの肩をつかんだままルドヴィカをにらむ。証拠を出せと逆に問い詰めてきた。ルドヴィカは自身の左腕を示す。たったそれだけでアンリはルドヴィカがしっかりと証拠を握っていることを理解し、視線をそらす。


「どういうことなんですか?」

「話すな」


  ルイズの質問要求とアンリの沈黙要求。どうしようかと悩んだが、答えることにする。だって二人は結婚するんですよね。


「私の魔力が膨大なことはご存知ですね?日常生活に支障を来すほどの魔力を抑えるために封印の魔法を常に使用しています。それがこのブレスレットです」


  ルドヴィカは左腕を掲げて見せた。きらきらと輝く細身の金の地金に精緻な刻印が刻み込まれている。

  それはルイズが今つけているブレスレットとよく似ていた。この間アンリから貰ったものだ。


「ええ。お察しの通りそれにも魔力を封じる刻印が刻まれています」


  アンリの制止の声を無視してブレスレットを外す。ふわりと魔力の気配がする。


「私の魔力量を完全に封印することは難しく、この状態でもある程度の魔法を使うことは可能です。しかしあなたは完全に封じられていたようですね」


「これはアンリが魔法を助けてくれるものだって」


  その言葉を信じていた。だが確かにこのブレスレットをしてから魔力が薄れて使えなくなっていた。アンリに相談したらルドヴィカの仕業だと言われた。ブレスレットがなければ死んでしまうかもしれないから決して外してはいけない、と。

  確かに婚約者でもないルイズがアンリの側にいるのは良くないと思い離れようとしたときもあった。そうしたらアンリがルイズの側に来て、周りの人が気を使って離れていった。生徒のためだと言われたらアンリの頼みを断ることが出来なかった。そのままずるずるとアンリ達の側にいたことがルドヴィカの気にさわったのだろうと思っていた。


「犯罪者などの魔法を封じる際は魔方陣を使用しますから、わざわざブレスレットに刻むことはありません。王都の技術師に特別に作って頂いています。その技術師から相談を受けました。『お嬢様以外に魔法を封じる必要のある方がいらっしゃるのですか』とね」


  そういえばアンリ様にブレスレットを作った職人の名を聞かれたのはいつのことだったかしらと思い出すそぶりをすれば、アンリの顔色が悪くなっていく。


「彼は心配していましたよ。報酬のよさから魔法封じの他に、追跡、遠聞、遠見の魔法を刻んでしまったけれど、魔法封じをされた上で行動がすべて筒抜けになるようなモノを作ってしまった。女性用のデザインだったから入浴中にでも使用されていたらどうなるんだ、と」


  ひぃっとルイズは反射的にブレスレットを投げ捨てた。近寄りたくないと後ずさる。


「ルイズのことが知りたかったんだ」


  ポツリと呟くアンリ。


「ルイズさんは不思議に思ったことはありませんでしたか?国の第2王子であるアンリ様に近寄る女性がいないことを。もちろん婚約者たる私の存在があったでしょう。しかし側室を狙うことも出来ますし、上手くいけば私から正妃の座を奪うことも出来るでしょう。現実にはいない。なぜなら皆さん知っているのですよ。アンリ様のことを」


  青い顔をしていたはずのアンリは肩を使って大きく息を吐き出すと、にこやかな笑顔を見せた。


「愛しているから仕方ないよね」


  アンリもリチャードもジェフもデビッドもクリスも同じように笑顔でルイズに手を差し出す。


「「「「「愛しているよ、ルイズ」」」」」



  泣きそうになりながらルドヴィカの隣まで後ずさったルイズに、ルドヴィカは笑顔でもう一度問いかけた。



「本当にあれと婚約するのですか?ルイズさん」




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[一言] こんにゃく?なんの事(*´・ω・`)bかね?
[良い点] いつ見てもオチが最高
[一言] 奴等はとんでもないものを盗んでいきました。 ・・あなたの平穏です。
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