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第3話

らぶえっちシーンあり。

でも、R18の程度ではありません。

ご注意ください。

空が茜色に染まり、太陽もだんだんおやすみなさいと言うように、入り日がどんどん空から沈んでいく。

僕たちの知らない場所に行く……

「空が暗くなってくるから、早いうちに帰ろうか?」

「うん」

だが、家に着く前に、夜がさきに来てしまった。今日はいつもより早く日が暮れる、一体何が起こるのだろう?

ようやく、家の近くにたどり着いた。

「今日はいろいろ楽しかったです、あの風がなかったら、ね」

「あはは」

 思わず笑ってしまった。

「もう、からかうんじゃありません、怒りますよ」

「怒らないで、また強い風があったら、僕が夕奈ちゃんの前に立って風を受け止めてやる」

「その気持ち、ありがとう」

今度またこんなチャンスがあったら、おそらく、僕が覗くかもしれない。理性に勝つのはなかなか簡単じゃない。ふたたび勝てる自身はまずない。

 不意に思いがけないことが起こった。

 空が暗いせいか、僕たちはトラックがこっちに近づいてくることがまったく気づいてなかった。

 どこからクラクションの声が聞こえる。

「あぶないっ……」

 僕はすぐ夕奈の身体を強く押す。そして、自分の身体を飛び跳ねて、トラックを避ける。

「バカヤロー、死にてぇのか、このバカップルめ、チキショー」

後ろからドライバーの罵声が聞こえる。しかし、トラックが勢いよく去ってしまった。

とにかく、僕たちは無事でよかった。

「危なかった。 夕奈ちゃん、怪我とかないのか?」

「大丈夫です、でも、ちょっと離してくれませんか?」

さっきのトラックをよける際に、いつのまにか身体が夕奈の上にのしかかっているか全然注意してなかった。

「ああっ、ごめんごめん、わざとじゃないから、許して」

「いいですよ、十夜くん、もうちょっとだけ……」

 夕奈が僕を誘惑しているのか? やばい、このままだと僕には勝ち目がない。

 そこまでしてくれるなら、もしかして、夕奈が僕のことが好き? 

 違う、ちがう、チガウ……そんなはずがない。

 確かに、今の夕奈のそのなまなましい姿が僕より二十センチもない距離にいる。

 僕が夕奈の顔を見つめている。

「十夜くん」

「はい?」

「あたしの顔、何かついてる? そんなに目もそらさないであたしを見ていますけど……」

 夕奈はその透き通る水のような目で僕を見ている。

 もうだめだ、理性が北極まで飛ばされそう。

「ねえ、夕奈ちゃん」

「はい」

「ちょっと、キスしてもいい?」

「どうして?」

 さきに僕のことを誘惑しようとするのに、今更どうしてって聞かれるとこっちが困る。

「いや、ただ、キスしたいだけ……」

 しらずしらずのうちに、言っちゃいけない言葉を言ってしまった……僕って最低だ。

「いいですよ、十夜くんなら……」

「じゃ、目を閉じて」

「どうして?」

 また聞かれる、今度はマジメに答えないと……

「恥ずかしいと思わない? 目を開けたままにキスしたら」

「確かにそうですね、くすくす」

 夕奈が目を閉じる。

 その瑞々しく、艶やかな唇は、僕の前に……

 まるで、ハチミツがいっぱい入っている花が、蜂から採集を待ちこがれているかのように。

 僕も目を閉じて、ゆっくりと夕奈に近づいている。

「ちゅっ」

 ようやく、僕と夕奈の唇が重なった。

 何の味もしないくせに、なんだか甘いと感じられる。それに、ひらひらとしたからラベンダーの香りを漂わせて、なかなか離れたくない。

 このままじゃまずいと僕たちが気づき、自ら唇を離れた。

 唇との間に、透明な橋のように、糸を引く。

 これがキスだったのか? かえって自分に聞きたい……

「気持ちよかった、夕奈ちゃんは」

「あたしも」

「とりあえず、ティッシュで拭かないと」

 僕がポケットティッシュを取り出して、夕奈の唇を拭く。

 そして、もう一枚取り出して、自分の唇も拭く。

 だが、こころの中の不安、戸惑いが拭えない……

 僕が、本当に夕奈のことを好きなのか? それとも、夕奈が僕のことを好きなのか? 僕さえ分からない。

 どうすればいい?

 僕は頭をポリポリとかく。

「どうしたのですか? 何かありましたか?」

「なんでもない」

 暗闇の空が、急に雷が鳴る。

ゴロゴロ……

「いやぁぁ、怖い」

 夕奈が思わず身体を寄ってくる。

 僕はそのまま夕奈を抱きしめる。

「あたし、雷が大嫌いです」

 夕奈の身体がぴくぴくと震えている。かなり怖がっているようだなぁ。

「僕が側にいるから、大丈夫だよ」

「しくしく」

 ゴロゴロ……

 また雷が鳴る、どうやらアメが降りそうだから、今の家に帰らないと……

 ゴロゴロ……

 身体がぴりぴりとする、雷が近くに鳴っているせいだろう。

 しかし、目の前に、信じられない光景が現れた。

 熱を感じる、ありえない熱さ。それは人間から発するのではない。

 さっきの雷が、夕奈に当たった……

 側にいる僕は怪我しなかったのはおかしいけど、夕奈の身体もやけどの傷など一切ない。

 いったいどういうこと?

 僕は早速夕奈の調子を確かめる。

「夕奈ちゃん」

「……」

 反応がない。

「うそだろ? 夕奈ちゃん、しっかりしろ」

 僕は夕奈の身体を揺らす。

 しかし夕奈がそれを気づかないように、口をもごもごさせる、何を言っているのか分からない。

「アヴァダケダヴラ……」

「何を言ってる? 日本語でしゃべってよ」

「ヴォウズムウレーゼ……」

 まったく聞き入れてない……

 僕はちょっと夕奈の頬をつねってみる。

「いたっ、あぅ」

「痛いよ……もう、十夜くんってば」

 意識が戻ったようだな、よかった。

「夕奈ちゃん」

「ちょっと、何が起こりましたか?」

 僕は夕奈を抱きしめる。大切な宝物を手元から離さないように……

「なんでもない、夕奈ちゃんを抱きしめたいだけだから」

「ああもう、十夜くんのおせっかちですぅ」

 僕の顔を紅潮した。

「と、とにかく、ここはあぶないから、さっさと帰ろう」

「うん!」

 家は見えるのに、なんだか遠くにあるような気がする。

 トラックに危うく跳ねられそうになったり、雷が鳴って、夕奈の意識が遠くいって、最後に戻ってきたりして、もうさんざんになった。

 もう帰らないと、また何が起こるか僕たちも分からない。

 とうとう家に着いた。

「今日はいろいろがありましたけど、楽しかったです。とくに十夜くんと二人だけ……ですね、うふふ」

 夕奈が頬を染めながら、自分の唇を人差し指で当てる。

「夕奈ちゃんがそこまで言ってくれると、こっちまで恥ずかしくなるから」

「確かに、それがあまかった……」

 やっと僕の顔も赤らめた。

「とにかく、家に着いたら何よりだ、おやすみなさい」

 僕は夕奈に手を左右に振って挨拶をした。

 突然夕奈の不意打ちを食らって、僕の頬にキスをした。

「ちゅっ」

「おやすみなさい、十夜ちゃん、えへへ」

 夕奈が舌をペロリと出して、くるりと背を向けて自分の部屋に戻った。

さてと、僕も戻ろう

……

「ただいま」

「おかえりなさ〜い、どこ行ったの? 心配してたまらないよ、お母さんは」

「ちょっとハプニングがあったから、帰りが遅くて、すみません」

「……」

 お母さんはびくともしなかった、僕をしかる気もなかった。

「いいんだよ、別に」

「十夜ちゃんが無事に帰れたらなによりだよね」

「汗びっしょりだから、早くシャワーを浴びてきなさい」

「うん」

 僕は脱衣所においてある鏡の前に立つ。

 そして、ちょっとだけ指で唇を当てる。

「甘い……」

 ほんのりと甘い香りがまだ残っている。それが、うら若き乙女の唇の香りだ。

「いつかまたキスできるだろう」

 自惚れる。

「十夜ちゃん、一人ぶつぶつして何を言ってるの? 早くシャワーを済ませなさい」

「分かった」

 まさか、さっき僕が言った言葉が、全部お母さんに聞かれた? 聞かれてもしかたがない

「まあ、いいっか」

「そういえば、今日の夕奈ちゃんがおかしい、変な言葉を言ったり、急に僕を攻められたり、一体何があったのかな?」

 夕奈の言葉を反芻する。今日は怪しい事件が立て続けに起こったから。夕奈が雷に当たっても怪我しなかったり、急に変な言葉言ったり……さっぱり分からない。

 ぷくぷく。

 考え事が多いので、いつの間にか頭は水の中に入ってしまう。



……



 遠くからお母さんの声が聞こえる。

「いつまで浴びたいの? 晩ご飯が冷めちゃうよ」

「ぶはぁ……」

 危うく溺れるところだった……

呼んでくれてありがとう、お母さん……

そして、僕たちは晩ご飯をした。

 お皿洗いも済んだら、ちょっとテレビを見る

 ちょうどこの時間がニュースの時間だ。

「次のニュースです……」

 アナウンサーが今報道しているのは、あるドライバーが急にわけのわからない事故に巻き込んで死んだニュースだ。見るも痛ましい事故現場に、大量の血が流れている、地面が一片の紅色の海に染まっているようだ。酷いありさまのようだ。

 トラック高いスピードで壁にぶつかり、フロントガラスがひび割れた。その割れ目はさらにドライバーの頭にぶつかり、粉砕されて、一枚一枚の殺人武器となって、容赦なくドライバーの体に刺した。

 そんな画面は、モザイクをかけても怖い。

「お母さん……これは、怖い」

「酷い……」

 せめて、他の人に巻き込まれなくてよかった、と思いたいけど。こんな死体は、誰も見たくはないだろう。むしろ、そんな死に方は誰も望ましくないと思う。

 しかし、一体ドライバーはどういうふうに、こんな酷い目に遭ったのか、腑に落ちない。

もしかして、途中で病気が発作したせいで、救いもなくてそのまま死んだ?

ところが、それはありえない。病気だったら、そこまで血が流れるわけがない……

一体どうしてだろう? 

まあ、まだ中学生の僕には分かるまいと思う……

「はぁ、人生って儚い(はかない)もんだね」

 お母さんが呟く。

「十夜ちゃん、自分が好きなこと、やりたいことがあれば、迷わずに先にやりなさいね、自分の能力以内のことだね」

「だからね、後悔しないうちに、自分ができることをする」

「……」

 お母さんの言葉はよく分からない。でも、決していいことではない。

 とにかく、生きているうちにやらないと後悔することがいっぱいあるから、先にやりなさいってことかな……

 今の私にとって、一番やりたいことは……


……

……

……


 あった。

「お母さん」

「なに?」

「今日はさんざん疲れたから、先におやすみなさい」

「おやすみ」

 今の私にとって、一番やりたいことは……

 寝ることだ。



 ようやく日曜日が来た。

 せっかくの休みだから、ハメをはずして遊ばないともったいない。

 朝ごはんを食べたら、僕は出かけようとする。

「いってらっしゃい、気をつけてね」

「うん、じゃ、行ってくる」

「へンなお姉ちゃんからのキャンディーをもらわないでね」

「……」

 普通は中年男性だろう。僕はシスコンじゃあるまいし……

 お母さんの言葉に対してなんだか悪寒がする。

「じゃ、行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 僕は夕奈のところへ行く。

ゴーンゴーン

「誰ですか?」

「僕だ、これから一緒に出かけない?」

「いいですよ、ちょっと待ってください」

「はい」

 今の夕奈ちゃんは何をやっているのだろう?



……


5分後。

「おそい……」

 返事がない。もしかして、夕奈に何があったのか?

「開けるよ」

 とんでもない光景だ。

 夕奈が身体をピンク色のバスタオルを巻いて、左手がドライヤーを持って、右手が髪をいじりながら左手が持っているドライヤーで髪を乾かしている。

 そのタオルは、うさぎの絵柄が描かれている。なんだか可愛いなぁと思う。それに昨日とは違って、今日はピーチ味のシャンプーを使った夕奈は、意外にタオルと合っている。色といい、デザインといい、申し分ない。

「と、十夜くん? ちょっと出てもらえませんか?」

「ごめん、わざとわけじゃないから」

「……」

 また5分後……

「入っていいよ」

 目の前に、ワンピースを着ている夕奈。髪型が三つ編みでもっと可愛く見える。特に化粧はしないけど、唇に似ている色の口紅を薄くつけて、つやつやとしている。パラソルを持っていたらパーフェクトと僕が思っている。

「きれい、まるで天使に見える」

「褒めてくれて、ありがとうございます」

 夕奈が照れている間に、夕奈のおばさんが来た。

「あら、十夜ちゃんじゃない?」

「こんにちは、おばさん」

「ねえ、十夜ちゃん、この子は、私の姪の夕奈だ」

「おばさん、もう初対面ではないですよ」

 夕奈に自己紹介をさせたいと思ったとき、夕奈が口を挟んで阻止した。ナイスツッコミだ。

「とりあえず、準備オッケー?」

「うん、オッケーです、行きましょっ」

「どこ行くの? もしかして、デート?」

「ええっ?」

 がーん。

 一発で当てられた、さすが夕奈のおばさんだ。女のカンって、やっぱり怖い。

 ちょうど出かけようとした時。

「忘れ物がありました。えへへ」

 その忘れ物は、なんとパラソルだ。

「もう大丈夫ですよ、行きましょう」

「二人とも、遅く帰らないように気をつけて」

「うん」

 突然、慣れた声が聞こえてくる。

「あらあら、行ってらっしゃい、マイサーン」

 運が悪かった。よりによって、お母さんと鉢合わせしたとは思わなかっただろうに。

「……」

「あら、十夜くんのお母さんにばれてしまいました。うふふ」

「笑ってる場合じゃないだろ、さっさと行こう」

 僕たちはすたすたとあるいて、この場から離れる。

「さて、今日はどこに行こうかな?」

「おまかせします」

「う〜ん」

 どこに行ったらいいのか僕が迷っている。

ハメを外して遊ぶところといえば、遊園地なら出来るのでは?

よし、そこで決定。

「遊園地に行こうか?」

「……うん!」

 夕奈は嬉しそうに頷いた。

 お小遣いは大丈夫かな、かなり心配している。

 お母さんのところに戻って、お金をせがむわけにもいかないし、夕奈に払ってもらうわけにもいかない板ばさみになる。

 もう行ってしまったから、挽回することもできないから、思い切って行っちゃうしかない。

 僕たちは遊園地についた。目の前に、大きな看板で「ようこそTDA」って書いてある。確かに、TDAは東京ダジャレアミューズメントパークの略だけど、なぜかPが抜けているか、その理由は誰でもわからない。

「夕奈ちゃん」

「ん? なんですか? 十夜くん」

「先に何をやりたい?」

「う〜ん あの大きな機械で、そしてスピード早くて、傾斜が強い斜面で勢いよく滑走して、グルグル回って、みんなが楽しく叫んでいるアレを遊びた〜いです」

 大きな機械、傾斜が強い、グルグル回る、まさか……

 ジェットコースター?

 心臓に悪いので、やめた方がいい。ぶっちゃけ自分が怖いだけだ。

 しかし、自分が怖いという言葉を口から出せないだろう。

 こういう場合は、遠回しにやめさせるしかない。

「あのう、夕奈ちゃん」

「はい?」

「それはジェットコースターというものだ。みんなが楽しく叫んでいるじゃなくて、怖くて叫んでるだけど」

「怖くて、そして叫びますってこと?」

「うん、そうだ。 夕奈ちゃんが泣くかもしれないから、やめた方がいいと思う」

「う〜ん 別に泣いても大丈夫じゃないですか? 十夜くんがずっとあたしの側にいるから」

「ジェットコースターを乗りたい〜乗りたい〜」

「……」

「乗りたい、乗りたい、ジェットコースターを乗りた〜いです」

「……」

 もはや反抗の余地はない、乗るしかない……

 例え自分が怖くても、男らしさをアピールしないと……

 僕はおずおずとジェットコースターのカウンターに行く、隣の夕奈が楽しそうに見えるのに……はぁ

「何名さまですか?」

「2名です」

「好きな席にどうぞ」

 よかった、ちょうど人が多くないから、もうちょっと後ろに座る。

 ジェットコースターのかなり後ろの席に歩いて行く時、夕奈が思いがけないことを言った。

「十夜くん、一番前に座りませんか? あたし、前に座りたいです」

「……」

 一番前に座ると、僕はマジで死ぬぞ……やめてくれ。

 でも、後ろに座りたいとおいそれと言えない。

 あげく、僕も夕奈と一番前の席に座ったハメになった。

「はいはい」

「それでは出発します」

 十夜、逝って来ます……

 スタッフが機械を操作するとともに、ジェットコースターが動き始める。

 そして、だんだんと昇っていく。

「十夜くん、見て見て、周りの景色がきれいですね」

「……」

景色を眺める場合じゃない……

「ほら、十夜くんも見て」

「……」

 僕は最初から目を閉じている……目を閉じたら、すこしでも怖くなくなるだろうと思う。


 ジェットコースターが一番高いところで止まり、そして……

 急速で一気に落下してしまう……

「うわわわぁぁぁぁ、た〜す〜け〜て」

おそらくこのスピードじゃ80キロ以上もあるだろう。

一瞬だけ、ビルから飛び降りる感覚を理解した。

 だが、スピードがなかなか減らず、かえって加速していくような気がする。ちょっとだけ目を開けてみると、360度回転のループが2回もその先にある。

 神さま、僕はまだ若いから、そのまま僕の命を奪わないで……と祈っている。

「あははは、楽しい〜」

 夕奈はそれをものともせずに、楽しく叫んでいる。

 初めてジェットコースターを乗って怖がらない女の子なんているはずがない……ありえない。

 後ろからの叫び声と夕奈の叫び声が飛び交って、僕の意識がだんだん弱くなっていく。

 ならば、僕も叫ぼう

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 僕はまだ目を開けてみる、目に映る景色がまったく違う。

 今はループを回転している最中だと気づかなかったのだ。

「お、おっ、落ちるぅぅぅ……」

 僕は絶叫する、しかし、聞いてくれる人はいない。

 なぜなら、他の人も叫んでいるから。

 怖くても、目を閉じて、叫ぶしかない。こんな絶体絶命の窮地に、大事なことを思い出した。

 夕奈がスカートを着ている……

 ループを回転すると、スカートがそのまま遠心力を受けて、下を向いている。

 つまり、パンツが丸見えになってしまう。

「あははは、楽しい〜」

 本人はまったく気にせずに、無我夢中で楽しむ。

 ジョットコースターのスピードがだんだん減っていく。 やがて最初の位置に戻り、そして、止まった。

 たった2分間の間に、何回も死んだような気がする。

 心臓が飛び出しそうだった。戻ってきてよかった……

「楽しかったです」

「ああ……」

 恐怖の余りに顔を青ざめた。

「どうしたんですか? 顔が真っ青になって」

「いや、なんでもないけど、ちょっとトイレ行ってくる」

「とりあえず、そこのベンチに座って待ってね」

「はい」

 夕奈をベンチに座らせる。

 そして、僕はトイレに向かって、顔でも洗う。

「ふはああぁぁ、生き返った」

 リフレッシュした。

 でも、夕奈の前にこんな姿になって、無様だった。

 次はちゃんとアピールしないと……今回の遊び(ある意味デート)は台無しだ。このまましくじるわけにはいかない。

 まず、財布を確かめてみる。

 まだ余裕かな、アイスクリームでも買って来ようか。

……

 アイスクリームを売っているおじさんがいた。

「チョコとバニラ一つずつください」

「400円です」

「はい」

「ありがとうございました」

 僕はアイスクリームを持って、夕奈のところに戻る。

「遅いですよ、十夜くんってば」

「ごめん、変わりにアイスクリーム買ってきたから、さあ、溶けないうちに食べて」

「うん、ありがとうね、十夜くん、大好き〜」

 夕奈は下をぺろりと出して、アイスクリームを食べ始める。

「美味しいです」

「早く食べ終わって、次のゲームに行こう」

「うん」

 僕たちはすばやくアイスクリームを食べ終わった。

「じゃ、次はどこ行こうかな?」

「テレビで見たの、たくさんの人が変な服装を着てオシャレをして、あるハウスの中にお客さんを待って、お客さんに出会ったら挨拶をするところへ行きたいです」

 オシャレ? お客さん? 挨拶? まさか……

「夕奈ちゃん」

「ん?」

「変な服装って、どんな服装って分かる?」

「わかりません、えへへ」

「……」

「そこはとても暗い?」

「とても暗いとは言えないですけど、一応暗いですね」

 間違いなく、お化け屋敷だ。

「夕奈ちゃん」

「はい?」

「あれはジェットコースターよりずっと怖いけど、大丈夫?」

「うん、十夜くんが側にいるから、なんでも怖くなくなりますぅ〜」

「……」

 僕はそうじゃないけど。

 夕奈がそんなことが言うなら、つまり、僕は夕奈に安全感を与えられる?

 それぐらいは分かっている。

 ありがとう、浩平。おまえのムダ知識はたまには役に立てるよな。

 僕たちはさっそくお化け屋敷に向かう。

「いらっしゃい、ようこそ」

「二人です」

「はい、どうぞ」

 僕たちはお化け屋敷の入り口に向かう。

 入ったとたん、周りが暗くなってきた。時折聞こえてくる誰かの喘ぎ声、そして、館内に流れる怪しい雰囲気の音楽、さらに唯一の明かりとした照明器具のキャンドルは青色で人だまに見えるしかない。

「十夜くん、どこにいます?」

「心配しないで、ずっと夕奈ちゃんの側にいるから」

「ほら、手を出して」

 夕奈は手を出して、私の手と繋いだ。そのやわらかい感触は再び感じられる。やっぱり男の手とは大違いだった。

 僕たちはゆっくりと歩き続ける。

 さらに、違うエリアに着いた。

 しかし、ここはさっきのところとかなり違っている。

 キャンドルがちらちらとする。動いていないけど、それだけでも十分怖い。明滅の時間をしっかり掴まないと前に進みづらくなる。

「ねえ、どうしよう? あたし、こわいです」

「僕が先に歩く、夕奈ちゃんを守るから、大丈夫」

「う〜ん」

 夕奈は消え入りそうな声で答える。

 突然、変な声があった。

「アタシヲオイテカナイデ」

 どこかの罠に陥るらしく、右側から血まみれのからくり人形が出た。

「うわぁぁぁぁぁ……助けて、十夜くん」

 からくり人形に驚かせるより、夕奈の叫び声にぎょっとした。

「目、目を閉じて」

 怖いから、目を閉じるのは常識だと思いつつ、そう夕奈にアドバイスする。

 しばらくすると、からくり人形が消えた。

 僕たちはさらに歩く。ようやく出口が見える。

 しかし、突然、キャンドルの明かりがすっかり消えてしまう。そして、両側から変な声が聞こえる。

 その時、あるお化けの少女が懐中電灯を持って、こっちによってくる。

「オカエリナサイ、アイジンヨ」

「うえぇぇぇぇ」

 僕はぞっとした。

 この仕掛けはわざとだろう? 

 もともとカップルがお化け屋敷に入るのは一番多いからといって、こんな仕掛けをを装置とはさすがに喧嘩を売ってるように見える。

「十夜くんはあたしのものですから、誰にも譲れません」

 夕奈がめげずに少女に言う。

 しかし、あたしのものって、いくらでもそれは言い過ぎる。

だが、少しでも心の中に喜ぶ。

「……」

 そこまで言わなくても……

 僕たちは懐中電灯の明かりを利用して、出口に向かう。突然、視界が遮られて何も見えなくなる。

「んんん……」

「うわぁぁぁ、十夜くん、て、手が」

「繋いでるけど?」

 僕は意識した、上から仕掛けがあって、突然落下した誰かの手(偽もの?)が僕の顔に当てる。

 僕は慌てふためいて手をかき分けて、やっと視界が見える。

「走るぞ」

「うん」

 僕たちはひたすら走って、出口に向かう。

「ふはぁ、怖かった」

「しくしく」

 夕奈が泣きそうな顔で僕を見ている。

「うえええええん」

「泣かないで、僕がいるから」

「うぐっ」

「テレビとは全然違いますぅ、えぐっ……」

 僕は子供をあやすように、夕奈を撫でる。

「もう大丈夫だから、泣かなくていいから」

「んぐっ」

 しばらくして、夕奈が泣き止んだ。

それが、5分後のことだ。

「ほら、笑って」

「えへへ」

 泣き顔から笑顔に変わってしまう。

「では、次は僕が提案する」

ぐーぐー……

まだ次はどこに行くか行っていないのに、お腹が抜け駆けして、自分の意見を出してしまった。

「くすくす」

「それより、飯にしよう」

「うん、好きにしていいですよ」

「……」

 僕は先に財布の中身を確認してみる。

 樋口一葉1枚、これじゃ足りるだろう。

「じゃ、あっちのファミレスにしようか?」

「……うん」



……

……



 いらっしゃいませ、何名さまですか?

「2名です」

「席をご案内いたしますので、少々お待ちください」

「お願いします」

 しばらくすると、席についた。夕奈は、もう先にメニューを見ている。

「どれがいい?」

「えっと」

 突然、夕奈の目がきらめくように見える。

「このステーキがおいしそう……あっ、サラダもおいしいなぁ、パフェもいいね、迷っていますね」

「ふわ〜ぁ」

 きっと夕奈の頭の中に、いろんな食べ物の形をイメージしているだろう。

「夕奈ちゃん、夕奈ちゃん」

「ふわ〜ぁ」

 返事が来ない、完全に無我夢中になっている。

 僕は夕奈の耳に息を吹きつける。

「きゃはは、くすぐったい……」

 夕奈の大声で、みんなの視線が注がれる。

「びっくりしないでよ」

「おい、声がデカイって」

 店員さんが突然寄ってくる。

「すみません、お客さん、店内でなるべく大声で話さないでください」

「すみません」

「す、すみません」

ぐーぐー

 まずい、僕のお腹がまた鳴っている。早く注文しないと。

「とりあえず、何か注文しよう」

「じゃ、これとこれで」



……

……



「お腹がパンパンになった」

「あ、あのう、デザートを食べたいですけど……いいですか?」

「いいよ、どれどれ?」

 夕奈はメニューを見て、目標を探している。

「これでいい?」

 夕奈がさしているのは、かなり高いチョコパフェ、しかも、カロリーは値段より高い。これを食べたら太っても知らないよ……

「おいしそうけど、太るよ」

「大丈夫、一緒に食べましょう」

「そうしよう」 

いきなり禁句を口に出してしまった。だが、夕奈は全然怒っていない。

 

……


「お待たせしました。ご注文のチョコパフェです」

 僕たちは見つめながら、チョコパフェを食べる。もともと甘いチョコは、さらに甘味を加える。まるで砂糖を食べているような甘さだ。

「少しここで休憩しようか」

「うん」

 他愛のない話をしながら、時間がどんどん過ぎていく。

 あっという間に、6時半時だ。

「もう6時半だ」

「そうですね」

「つれて行きたい場所がまだ1つ残ってる、時間は大丈夫?」

「大丈夫です」

 僕が最後に夕奈をつれて行きたい場所は……

「手を貸して」

「うん」

 僕は夕奈と手と手を繋ぎながら、大観覧車の方へ行く。

「いらっしゃいませ」

「二人です」

「かしこまりました」

 チケットをもらった後、僕は夕奈に手を伸ばす。

「さあ、どうぞ、マイプリンセス」

「プリンセスって恥ずかしいです、普通に呼んでもらえます?」

「あ、ごめん」

「あらためて、どうぞ、夕奈ちゃん」

「うん」

 夕奈がワンピースの裾を掴んで、ゆっくりと観覧車を乗った。

観覧車が徐々に動き始め、空へと上がっていく。

周りがだんだん暗くなっているけど、夕奈の身体がだんだん光っているように見える。

「夕奈ちゃん」

「な〜に? 十夜くん」

「どうして光ってるんだ?」

「光ってる? これですか?」

 夕奈はつけているペンダントを取り出して見せる。

 上弦月のペンダントだ。僕がつけているペンダントと似ているな特性を持っている。

「これが光ってる?」

「うん、周りが暗くなると、これが光りますよ、蛍光ペンダントですから」

 蛍光ペンダント、聞いたことない。停電になっても、これを取り出したらイケるじゃない?

「ちなみに、これは、お母さんがくれた大切なものです」

 やっぱり夕奈も大切なものを持っている。でも、人間がその大切なものが失ったら、一体どうなるのか知りたい。

 大切なものなら、どうやって大切にする?

「もし私はこれが欲しいと言ったら?」

「十夜くんが欲しいと言ったら上げますよ」

「じゃ、やっぱり要らない」

 予想外の結果、夕奈はあっさりと答えた。大切なものだと言ったのに、そう簡単に他人に譲るわけがない。

「どうして?」

「夕奈ちゃんの大切なものだから、勝手に奪っちゃいけないから」

「このペンダントより、今のあたしは大切にしているのは、十夜くんです」

 いきなり夕奈の爆弾発言を受けて、僕は何を言えるか分からなくなった。とりあえず、女の子がそこまで言ったら……

 つまり、チャンスが来た……今のうちに言わないと後悔するかもしれない。

「ボク、僕は」

「なに?」

「僕は、夕奈ちゃんのことが好きだ」

「世界中の誰よりも夕奈ちゃんのことが好きだ」

「こんな僕だけど、いい彼氏になれるかどうか分からないけど……」

「でも、僕はがんばる、頑張るから」

「僕と付き合ってくれない?」

「……」

 夕奈は何も答えなかった。

 ただ、目から涙がぽとりと落ちる。それが、うれしさのあまりに泣くに違いない。

 本人は答えなかったけど、それだけで分かると思う。

 夕奈の涙は、まさにその答えだ。

 僕の質問に「はい」と答える気持ちが、ちゃんと伝わってきた。

「うれしいです、あたしうれしいです」

「田舎に生まれて育ったあたしに愛想をつかさずに受け入れて、ありがとう」

「ありがとう」

 夕奈が自ら目を閉じて、頬をこっちに寄っている。

 まるでキスを求めるかのように……

 僕はその行動に応じて、目を閉じる。

 そして、唇が重なり合う。

「ちゅっ」

 夕奈からチョコの香りがする。そして、僕からのバニアの香りが混じって、別格の味になる。

 あっという間に、夕奈の唇だけでなく、身体も求めたくなる。

 このままじゃまずいと意識している。

 でも、理性が勝てなくて、手が無意識に変なところに移っている。

「あっ」

 夕奈が変な声を出す。

「そ、そこ、だめです」

「あ、あっ……」

 夕奈が力ずくで抵抗する。

 ダメだ、僕の理性が遠くなっていく。

 それをやっちゃいけないと分かっているのに。

 僕の手がゆっくりスカートの方に移動する。

 もうダメだ。誰か止めてくれ……


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