第1話
はじめまして、雨宮羽音と申します。 この小説は最近書き上げた小説です。ごく普通な恋愛ものです。すこしらぶえっちシーンがありますので、R15にしました。 よろしくお願いします。
僕は深く眠りについた。
夢を見ている。
僕は夜の大草原に座っている。
周りに誰もいない、何もない。ここにあったのは、私を迎えるように、軽く揺れているススキしかない。
「ここはどこ?」
と、僕は呟く。
しかし、その話は、誰にも届かない。
「はぁぁ、ベッドに寝ていたはずなのに、なんでここにいるのだろう」
僕は嘆く。
ふと空に顔を仰向けて、今の夜空の景色を堪能する。
「ここが現実の世界だったらいいのに」
しばらくすると、僕は頭を左右に振った。
「いけない、大切な人が僕を待っているから、ここにいてはいけない」
僕は気がついた。素敵なこと、ものは長続きしないこと。一番重要なのは、その限られている時間を大切にすること。
きらきらときらめく星の中に、すばやく流れている一つの星が目に映っている。
それが間違いなく、流れ星だ。
僕は目を閉じて、プリストが祈祷してうるように祈る。
「どうか、元の世界に戻れますように」
「うふふ」
慣れない声が、耳にした。
見たことのない女性は私に向いて、話し始めた。
「あ、あなたは誰?」
「今はあなたに教えることができないのです。ただ、あなたに伝えたいことがありますから、ここにきました」
「笑いたい時に笑う、泣きたい時に泣く、それは、私たち生まれてから分かる常識……」
「それは当たり前のことだ」
わけの分からないことを聞いて、僕はぽかんとしている。
「ただ、さまざまの感情の中に、もし、一つの感情が奪われて、これからも表せなくなったとすれば、あなたはどうします?」
一体何を伝えたいのか? さっぱり分からない。
「では、私はそろそろ行きますから。さようなら……」
「ちょっと、待って……」
突然、夜空から、光が現れ、やがて柱になり、僕を照らした。
「なんだよ、この光は」
僕は思わず手でかざす。
でも、その光がだんだん広まって、僕を包み込んだ。
「うわぁぁぁぁぁぁ……」
目を開けると、僕がベッドにいた。お母さんが部屋のカーテンを明けたせいで、光がそれを通して、目が痛くなった。
「眩しいよ、お母さん」
「十夜ちゃん、いつまで寝てるの? 早く起きなさい、そうしないと、また遅刻するよ」
お母さんが仁王立ちして、僕を促した。
「お〜か〜あさん、今日は日曜日だったのに……」
「あら、ごめんごめん、忘れちゃった…… えへ」
お母さんは子供のように笑って、スルーした。
「じゃ、もうちょっと寝かせて」
僕はお母さんにせがむように言う。
「まあ、今日は学校ないから、特別にしてあげる」
特別か……僕は心の中に苦笑いした。
「あんまり寝すぎると、体がだるくなるよ」
その言葉だけを残して、お母さんは部屋から出た。
……
「うああぁぁぁ」
僕は欠伸をかみ殺せなくて、そのまま出た。
ちょっとベッドの隣に置いてある目覚まし時計を見ると……
「ええええ、もう三時過ぎだ」
一体どれぐらい寝たんだろう、僕さえ分からない……
お母さんが言ったことが当たった。
「あら、もう起きたか? おやつを準備してるから、早く支度して」
「はい」
たくさん寝たのに、まだ眠い……
僕はしぶしぶと起き上がった。
顔を洗って、そして、居間へ向かった。
ちょうど、お母さんが焼きたてのトーストを持ってきた。
こんがりと焼けたトーストの香りが漂って、食欲をそそる。
「いいタイミングだね、さあ、冷めないうちにいっぱい食べてね」
「ジャムはここにあるから、つけて食べてね」
「うん」
「おいしい……」
あっという間に、トーストは全部平らげちゃった。
「そんなにお腹がすいてるの? 十夜ちゃんもずいぶん育ちざかりだね」
「……」
「ねえ、お母さん」
「なに?」
「僕、変な夢を見た……」
「何の夢?」
「夢の中に、知らない女の子が僕に、変なことばっかり言って、一つの感情が奪われたらどうするのかって、全然分からない……でも、僕、すっごく不安だ、もし、その話が本当だったら……」
僕は戸惑いながら、お母さんに昨日で見た夢の話を語った。
「心配しないで、十夜ちゃん。あなたはいい子だから、絶対誰から何も奪われたりしない。私が十夜ちゃんを守るから」
「お母さん……」
お母さんはそっとして、僕の頭を撫でる。それが、僕だけの、お母さんの温もりだった。物心がつく前に、お母さんとお父さんがもう離婚した僕にとっての大切な人は、お母さんしかいない。
お母さんは仕事しながら、手塩にかけて僕を育て続けている。それは決して簡単なことではない、と僕が分かっている。だから、僕はあまりお母さんにあれこれを要求しない、おもちゃとか、綺麗な服とか。ただ、お母さんと安らかに過ごせるだけで満足だ、それ以上は願わない。
学校でも友達と仲良く過ごしていて、喧嘩もあまりなく。なかなか楽しい生活を送っていた。お母さんもできるだけ僕の要求を満足して、私が悲しまないように育てている。
それで、僕はいつも一つの感情が欠けているよう気がする。それが長続きしないと分かってながらも……
「さてさて、今日はどこも行かないで、家にゆっくりとくつろぎなさい」
「うん」
……
夕方になって、お母さんは晩ご飯の仕度をし始めている。
「今日の晩ご飯、何にしたい?」
「えっと、ハンバーグはどうかな?」
僕は思わず答えた。何故なら僕はお母さんが作ったハンバーグが大好きだから。
「ハンバーグか? よし、そうしよう」
「あら、十夜ちゃん、ちょっとハンバーグのソースが足りないけど、近くのスーパーに行って、買ってきてくれない?」
「うん」
僕はすばやく出かける。
「十夜ちゃん、お金まだ受け取ってないよ」
ちょうどそのときに、知らない女の子とばったり会った。
ゆっくりと沈んでいる太陽の茜色に染まるように見える髪は、風の動きにそって、そっと揺れている。青色の瞳は、遥かなところを見ているように見える。すべすべとした肌は、まるでマシュマロのようだ。ひらりとしたワンピースはパラソルに見える。
少女はすこし髪をいじって、なびかせる。
「ふふっ」
少女が私に挨拶したがるように、微笑んでいる。
「あっ……」
僕はぎくしゃくとした。
見たことの無い少女が僕の目に写る。確かに、隣はおばさん一人しか住んでないのに、おばさんの友達なのかな? もしかして、おばさんの私生児? そんなハレンチなことを……ああもう、僕は何を考えている?
なにより、ソースを買ってくるのが優先事項だ。
僕はそのまま女の子を無視して、隣のスーパーに向かう。
「いらっしゃいませ」
店員はいつもの営業スマイルで僕に挨拶した。
「ソ、ソースをください」
「ソースですね、こちらになります」
「ありがとうございます」
目の前には、いろいろなタイプなソースが置いてある。僕はどっちにしようか悩んでいる。よし、適当にしよう。
僕はソースを持って、レジに向かう。
「ありがとうございます、280円になります」
「はい、えっと、あれ?」
「どうしたんだい? 少年」
「財布忘れちゃった……」
「こりゃ、それじゃだめだろう、お金ないと、商品を買えないぞ」
「すみません、お金を持ってくる」
さっき出かける時、忘れたに間違いない……仕方ない、もう一度家に戻って、お金を取るしかない。
家について、廊下から家まで歩いている途中、またその子と出会った。もしかして、ずっと僕のことを待っているのか? いや、見たことのない女の子は、絶対私のことを待っているなんてありえないから……
「君は、さっきの……」
「……」
少女は黙々としている。
「さっきはすみませんでした」
「……」
少女はあいかわらず、何も話さない。このままじゃ話が進まない……
「隣の203号室に住んでいる十夜です、よろしく。」
「えっと……」
少女はスカートの裾を掴んで、すこし身体を低くしている。
「今日引っ越したばかりの夕奈です。この町についたばかりですから、いろ いろわからないところがあります。よ、よろしくお願いします」
夕奈は顔を傾けて、顔が紅潮した。なんだかその初々しい姿がかわいいと思える。
「これから買い物に行くから、一緒に行く?」
「うん」
夕奈は頷いた。
「ちょっとお金を受け取りに行くから、ここで待って」
「分かりました」
僕は急いで家に戻って、お母さんのところへ行く。
「おかえり」
「お母さん、すみません、お金を忘れて、買えなかった」
「いいよ、ほら、手を出して」
僕はお母さんからお金を受け取った。
「行ってきます」
と言って、家から出ようとした時……夕奈がドアの前に立っている。
「夕奈ちゃん、外で待ってって言ったじゃない?」
やばい、戸締りし忘れてた……このままじゃお母さんにばれてしまう
「十夜くんが遅いですから……」
「あ、ごめん」
よりによって、お母さんがこっちに向かってくる。まずい、これじゃ絶対誤解される。
「あら、十夜ちゃん、おめでとう〜」
違う……
「お〜か〜あ〜さん、知り合ったばかりの友達だよ、友達……」
「はい、分かった、分かった、ふふ」
どうやらすっかり誤解されてしまったようだ。
「夕奈ちゃん、よかったら、今日の晩ご飯、一緒に食べませんか?」
「い、いいです……」
恥ずかしがらないでよ、誤解が解かなくなる……
ああ、今から悔やんでも後の祭りだ。
「とりあえず、行ってきます、夕奈ちゃん、早く」
「あっ、はい」
そんな気まずい空気を解けるように、僕たちはすたすたと家から出た。
「待って」
すっかり、夕奈のことを忘れてた……
「今どこへ行きます?」
「う〜ん、スーパーに行って、ハンバーグのソースを買う、それだけ」
「ハンバーグですか? あたし、大好きです」
「僕も大好きだ、特にお母さんが作ってくれたハンバーグは最高だ」
「では、楽しみにしていますね」
淡々とした会話を続きながら、スーパーに着いた。
「さっきの少年じゃない? 彼女まで連れてきたのかい?」
だから違うってば……
「とにかく、お金を持ってきたから……」
わざと話をはぐらかした。
「はい、300円」
「毎度あり」
ソースを買って、僕たちは家に戻った。
「ただいま」
「おかえり、ソースを買ったよね?」
「はい、これ」
「ごくろうさま、じゃ、今から晩ご飯を作るから、出来上がるまで待ってね」
「は……ィ」
「はい」と言ったのに、「い」の発音が、お腹からのぐーぐーと鳴っている声が家に響き渡って、遮っちゃう。
「くすくす」
夕奈は片手で口をかくして笑っている。その微笑みは、まるで天使のようだ。
って、そういう話じゃない。
ああもう、恥ずかしくて仕方がない……
「十夜ちゃんは男だから、もうちょっと我慢できるよね?」
そこまで言われたら、我慢するしかない。
「頑張ってね、くすくす」
お母さんに言われてかまわないけど、夕奈までとは……
はぁぁ、穴を掘って埋まりたくなる……
……
「出来ましたよ」
この15分間ずっとお腹を押さえ続けて、なんとか収まるようだ。そうじゃないと、おそらく晩ご飯が出来上がるまでずっと鳴り続けるだろう。
「ばんごはん〜ばんごはん〜」
夕奈がうれしそうに歌っている同時に、僕はもう席について待っている。
「いただきます」
そう言ったとたん、僕はもうハンバーグを摘んで、自分の皿に置いた。
よだれが垂れそうに、ハンバーグを口に入れたい直前に、お母さんが突っ込んだ
「ほら、食べる、先に女の子の分にも取ってもらって」
「……」
夕奈は何も言わなかった、ただその場に座って、僕を待っているかのようにぼっとしている。
なんだよ、自分で取れるのに、なんで僕夕奈にハンバーグを取ってもらわなければならない?
しかたなく、僕は箸でもう一枚のハンバーグを摘んで、夕奈の皿に置いた。
「あ、ありがとう」
夕奈はぎこちなく、頷いた。
「さて、あらためて、いただきます」
「いただきます」
……
「ごちそうさまでした」
夕奈が礼儀正しく会釈した。
「いいえ、こちらこそ」
「また遊びに着てくださいね」
お母さんがおじぎで返した。
「おやすみなさい」
僕も適当に挨拶をした。
「今日はいろいろありがとうございました。本当に助かりました。では、お先に失礼します」
「十夜ちゃん」
「何? お母さん」
「ちゃんと家まで送ってあげて」
「えええー」
隣の家に住んでいるのに……そこまでしなくても
「だめよ、十夜ちゃん、ちゃんと女の子を目的地まで送り届けないと」
「はい、分かった」
「くすくす」
僕はしぶしぶとして、夕奈と一緒に出た。
「今日はいろいろありがとう」
「い、いいえ、こちらこそ……」
「そういえば、お母さんはおもうしろいですね……」
「そうか……あはは……」
何を答えたらいいのか分からなくて、適当に笑って話をそらした。
だめだ。周囲の雰囲気が重くなってきた。何か話さないと……
「あのう」
「あのう」
僕と夕奈が一緒に話した。
「えっと、そっちは女の子だから、さきにどうぞ」
「いいえ、十夜くんが先に言い出したから、おさきにどうぞ」
なんだろう、雰囲気がさらに重くなった……
僕がこの重たい雰囲気を打破しようとした。
「これからどう呼べばいい? 夕奈ちゃんが恥ずかしいと思ったら……」
「いいえ、恥ずかしくもなんともないです、このまま続けてそう呼ばれてもいいです」
「んじゃ、これからも夕奈ちゃんって呼ぶことにする」
「では、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
まず、一件落着。とりあえず、家に帰ろうか……
「ねえ、十夜ちゃん、あの子をどう思う?」
「???」
僕はしらばくれる。だが、顔を赤らめて、すぐバレバレになった。
「ほら、照れてる」
「照れてないよ、もうお母さん、からかわないでよ」
「他の誰にもいないのに、十夜ちゃん、素直じゃないの」
「……」
僕は何も答えられなかった。
「もう寝る、おやすみ」
「……」
あえてお母さんと口喧嘩するより、僕はその場から離れることにした。
いろいろと疲れたから、僕はパタンとベッドについた。でもなかなか眠れない。一日中で起こったことがずっと思っていて、身体がろくに休めない。
僕はベッドの中でゴロゴロして、いつ眠ったかはもう自分さえも知らなかった。
翌日、僕はいつも通りに、朝早く起きた。早起きは三文の得ではなく、学校に行かなければならないことだ……
「おはよう、お母さん」
「おはよう、十夜ちゃん、今日も早いわね……朝ごはんの用意は出来たから」
「はい」
僕は洗面所に向かって、顔を洗った。
居間へ向かうと、お母さんはもう座って僕を待っている。
「それでは、せーの」
「いっただきま〜す」
僕たちはハイテンションで叫んだ後、朝ごはんを食べ始める。
テーブルにおいてあるのは、ソーセージ1本と目玉焼き2個……あれ? 揃ってない
いや待て、これをどう見てもおかしいだろう……
ソーセージが1本、目玉焼きが2個。何をほのめかしているのだろう。
なんだよ、この朝ごはんは……
その隣に、ミルクもある。もしかして、これも他の意味が潜んでいるのだろう?
僕はちょっと目線がお母さんに移る。
「お母さん」
「何?」
「どうして目玉焼きは2個もあるのに、ソーセージは一つしかない?」
「それはね、仕様ですわ」
「……」
仕様って……
からかわれたような気がする。
「テストで満点を取って欲しいから、こういうふうに作ったの」
僕がテストで満点を取って欲しいということなのかわからないけど、まずそれは無理。とにかく、気持ちだけ受け取っておくとしよう……
「むっ」
僕はわざと怒っているように、お母さんを睨んでみる。
「あらら、それは嘘だ、ちょうどソーセージが一つしかないからね、あは、あはは……」
「じゃ、ミルクは? 今までミルクを買ったことないのに……」
「それはね、十夜ちゃんが元気に育てるために買ったの」
お母さんはそう言ったけど、確かに僕の胸を見て話してくれている……
男って、胸の大きさはどうでもいいだろうに。
「かあさん!」
「はい、冗談はここで終わり〜」
「……」
そんなお茶目な性格をやめてください、もう子供じゃあるまいし……
「十夜ちゃんが小さい頃から小柄だから、ミルクを飲ませて、もっともっと 背が伸びるかなぁと思って、ミルクを買っただけだ、別に他の意味はないから、お母さんのこと、怒らないで……」
お母さんが泣きそうな顔で僕を見つめている。
「僕は、怒ってないよ、お母さんはお母さんだから……」
だから、かわいがってあげるとからかうは違うだろ? いつも僕をからかってばっかりいるけど、決して嫌いわけじゃない。でも、なぜいつも僕をからかうか分からない。
僕のことを好きだからこそからかってくる? それとも……
気遣って欲しいからこそからかってくる?
確かに、僕は学校に行ったら、家はお母さんしかいない。昼ドラマでも、 隣同士とのムダ話でも、いずれ飽きるだろう。
お母さんは気を取り直すため、ちょっと洗面所行って来た。
「さあさあ、早く朝ごはん食べなさい、そうじゃないと、学校間に合わないよ」
「うん」
しばらくすると、朝ごはんを食べて、ミルクも飲み干したあと、僕はバッグを持って、学校への準備をする。
「まあ、とにかく、朝ごはん食べ終わったから、学校行ってくる……」
「行ってらっしゃい、気をつけてね」
お互いに手を振りながら、僕は家を出て行った。その時……
夕奈とばったり会った。
「夕奈ちゃんじゃない? おはよう」
「おはようございます」
今日はワンピースじゃなくて、普段着を着ている。さわやかな気分を感じられる。頭に2つのリボンをつけている。そんな夕奈でも可愛いと思われる。
夕奈は引っ越したばかりだから、学校は行かなくて済んだってこと。
多分今日は一人であちこち回るだろう。
「十夜くん、朝早いですね、これからどこへ行きますか?」
「学校だよ、僕は一応学生だから……」
「いいなぁ〜学校、あたしも学校行きたいです」
「この町に住み着いたら一緒に行こう」
「うん」
「もうそろそろ時間だから、さきに行ってくる、またね」
「あたしはちょっとこの辺を見て回るから、じゃね」
軽く挨拶したら、学校へと向かった。
いつか夕奈と一緒に学校に行ける日を期待している。
キーコンカーコン……
「ぜぇぜぇ、間に合った……」
「おまえ、いつも早いのに、今日はめずらしいじゃねえか?」
僕に話しかけてくるのは、僕のクラスメイトである、浩平だ。
「今日はいろいろ事情があったから」
「もしかして……ちくしょう」
浩平の態度ががらりと変わる。
「おい、いきなりなんだよ、おまえ」
「俺を待たずに、先走って彼女が出来たとは、許せない……」
態度が豹変した浩平は、僕を見て怒鳴ってみせる。
普段他の生徒と話している生徒も少し視線が集まってきた、こりゃまずい。
「おい、ちょっと……僕は何も言ってないから、勝手に勘違いしないで」
「じゃ、おまえが無罪だと証明してくれ」
浩平が開き直った。突然証明してくれって言われてもしょうがない……そもそも彼女がいないのに、それに、夕奈は知り合ったばかりの友達だけど。無理やり濡れ衣を着せるなんて、今日はいやな予感がする……
「何をすればいい?」
「ここでじっとしてろ、動くな!」
もはや喧嘩沙汰になったので、他の学生の視線もこっちに注目してくる。
浩平が急に顔が寄ってくる。
「おい、何してる? 僕はガチホモじゃない……」
「うん、こっちは異常なし、次」
とても小さな声で言ってるけど、僕がはっきり聞き取れる。
「お、おい、ちょっと待て、そこ、そこは……」
このバカ、一体何をチェックしたいんだろう、早く終わらせてくれ、それ とも、誰か助けてくれ……
浩平がまた近づいてくる。
でも、今回はちょっと髪の方に寄る。
「う〜ん」
僕の髪に何がついている?
「う〜〜ん」
浩平はさらに、僕の頭を嗅ぐ。
「う〜〜〜ん」
「あれ? 二人ともここに何してる? とくにあんた、他人の頭を嗅ぐのはやめなさいよ、ヘンタイか?」
委員長だ。 僕の助け舟にしてくれ。 もう我慢できない。
それでも、浩平はまったく委員長の言葉を無視して、さらに手を出して、 僕の頭を探ろうとする。
「いいかげんに……」
「あった!」
「!?」
僕の頭に、何があった?
「頭皮だ!!!」
「おまえアホだろ? いきなり大声で出すな!」
確かに、昨日はシャワーをせずにそのままベッドについたせいで、頭皮があっても無理は無い。それにしてもおおっぴらに言わないで欲しい。
だが、あいつがずけずけと言っちゃった……
「あはは、きたな〜い」
笑い声がちらほらと聞こえてくる。
クラス全員に笑わないだけでよかった、むしろ笑ってない人も頭皮があったのかな、と僕は疑っている。それはどうでもいい。
「おまえら、さっきから騒がしいぞ、外にいても聞こえる、早く席に着け」
僕たちはすかさず席に戻る。
「起立」
「礼」
「着席」
委員長って大変だな、毎日何回もその話を言わないといけない。
僕のため息をつくと同時に、授業が始まった。