1話 のど飴とこんぺい糖
市立図書館にある自習スペースの1番奥。
今までほとんど利用したことのなかった私の最近できた特等席。
背中合わせの状態で向かい側に今日も彼がいた。
名前も知らない。学年も学校も分からない。
でも初めて彼を見た半年前、私は彼に恋をしたんだ。
それから半年間、彼に会いたいが為に自習スペースに毎日通い、勉強した。
お陰で学年の真ん中をフヨフヨしていた私が今では学年トップの成績になった。
話しかけたりはしない。
ただ、少しの時間だけ彼と一緒にいたいんだ。
「コホッ……」
後ろから咳が聞こえた。
したのは勿論彼。
迷惑にならないようにと考えてか、すごく抑えた咳。
風邪かな?
大丈夫かな?
何か役に立つ物はないかと鞄の中を探してみると、のど飴が1つ。
彼が席を立ったのを見計らって机にそっと置き、また自習を始めた。
しばらくして彼が戻って来たのが分かったけど、不安と緊張で顔を上げることが出来なかった。
迷惑じゃ、なかったかな?
次の日も自習に行くとやっぱり彼がいた。
いつもと変わらない彼。
風邪、治ったのかな?
元気になってくれてたらいいな…
特等席に座ろうとすると机の上の物に気が付いた。
『ありがとう。お礼です。』
綺麗な字で書かれた手紙とこんぺい糖。
振り返ると、彼もこちらを見ていた―――――