月詠の巫女
ここは出雲という国にある、とあるお屋敷。
木でできた床に、畳の敷き詰められた部屋。その部屋ごとを隔てるのは、ドアではなく襖。
そんな純和風の屋敷に住むのは、ここ、出雲の国の王族。
母の紫苑。そして、娘の朱桜。
父である朝霧は数年前に病で他界している。
この世界グランディアには、5つの国が存在する。
そのうちの4つは陸で繋がっており、それぞれが巨大な領土を持つ大国だ。
だが、残りの一つは、大国の3分の1程度の大きさしかない海で囲まれた島国。
それが出雲だ。
しかし、出雲はグランディアで最古の国とされている。
建国から約2000年。一度も滅びたことのない不死の国。
これまで各国で、幾多の戦争が起きたが、出雲だけは決して滅びず、その歴史を刻み続けた。
小さな島国である出雲だけが、何故これほど長い時間存在し続けたのか。
それは、初代出雲の王である月詠の巫女。
彼女の張った強力な結界が、島全体を包んでいるからだ。
この結界は、生きとし生けるもの全てを通さぬ、絶対の守護結界。
外からの侵入も、中から出ることも出来ない閉鎖された国。それが出雲。
ゆえに、長い歴史の中で、滅びたことは一度もない。
そして、その結界を代々守ってきたのが、月詠の巫女の子孫である王族たちだ。
その中でも、女性の正統継承者だけが、月の巫女と言われ、月詠の巫女が使ったとされる術を扱うことができる。さらに、月の巫女だけは月詠の巫女が張った結界を通ることができる。
今代の月の巫女は、この屋敷に住む紫苑と、その娘の朱桜。
由緒正しき伝統を受け継ぐ二人は、ある日の午後、とある部屋に向かい合って座っていた。
共に美しい和服に身を包み、出雲の人間特有の黒髪は、サラサラと風にそよぐ。
その容姿は、神の生まれ変わりと言っても不思議ではないほどに整っている。
そして・・・しばらくの時が流れ、朱桜が口を開いた。
「おい、今なんて言った?」
これは、元男子大学生の転生者である、出雲の姫の破天荒どたばたラブふぁんたじー。(仮)
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